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ラスボスは終焉を選ぶ  作者: matelight
とある再会編(幕間)
34/72

勇者と魔法使いと魔王との再会・2

「魔王さま」

「……む?」


「お元気でしたか? ご病気はされてませんか?」

「うむ」

「おケガはしていませんか?」

「うむ」

「毎日きちんと食べていましたか?」

「うむ」

「ちゃんと体も洗って清潔にしていましたか?」

「……うむ」

「今のはウソ、ですね?」

「むう……」

「うふふっ。お変わりなくて、安心いたしました」

「うむ」

「旅は、楽しゅうございましたか?」

「うむ」

「お仲間とも、仲良くされているようですね?」

「うむ」


「セラは、ずっとさびしかったです」

「……う、む」



「……魔王さま、もう帰りましょう」


「……断る。まだ帰るわけにはいかんのだ」



 こうして、ソルレオンとセラフィムは再会した。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 魔女のセラは大きな布の塊に抱き着いたままだ。

 その小柄な体躯と対照的に、彼女に抱き着かれた布の塊は大の大人でも見上げるほど大きい。

 小山のようになっている布の塊の上部には目出しできる箇所があり、そこから一対の眼差しがセラをじっと見つめていた。

 その中身は、布でぐるぐる巻きにされたソル(仮)である。


「すまぬがセラよ……この我は、まだ帰るわけにはいかんのだ」


 ソルレオンは言い難そうに話す。

 目を逸らしてしまいたい衝動に駆られるが、セラにもちゃんと話しておきたい。

 その真剣な様子に、セラは真正面から相対した。

 セラの小さな手はソルレオンの右腕の袖口を掴んで離さない。しかし顔を合わせやすいように一歩だけ下がって、彼の言葉の続きを待っていた。


「我が羨望し、渇望し、熱望するものは【終焉】である。

 長い間、魔王城にてずっと待ち焦がれていたが、ついには我のもとへはやって来なかったのだ。

 だがしかし!

 我が自らが探し求めた結果、ようやく出会えたのだ。【勇者】に!!」


 上目づかいでこちらを見るセラの目は潤んでいる。

 美しく涙で光る虹色の瞳に惑わされたように、熱の入ったソルレオンは言い放つ。



「勇者エレンは――――そう、我の【運命】なのだ!」



 最後は勢いに任せて言ってしまった。

 分厚い布で覆われてしまっている言葉は、はたしてセラに届いたのだろうか。


 セラの表情は、よくわからない。怒っているようにも悲しんでいるようにも見える。衝撃を受けて驚き、引きつったような笑顔にも見えなくもないが、やはりソルレオンには解読が難しい表情だ。

 驚いた表情のまま固まっていたセラは下を向き、上を向き、右を向き、左を向いて、最後にまた俯いて顔が見えないよう下を向いてしまった。

 やがて、再びソルレオンと顔を向い合せてくれる。


 セラのその表情は「笑顔」だった。



「おお、セラよ。わかってくれた――――――」



 ――――次の瞬間、

 閃光と爆炎が、ソルレオンの視界を埋め尽くした。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 突然の爆発音に驚き飛び上がったエレンは、すぐさま『魔獣王の寝床』に立ち入った。無論、イヌガミも一緒にだ。


「なにっ!? なにがあったのっ? ソルっ!」

『魔獣王っ! ご無事かっ!?』


 そこでエレンが見たものは倒れているソルの脚と、ソルになにかしている魔法使いの背中だ。黒いローブが邪魔をしてソルの安否がわからない。

 そしてエレンの脳裏をかすめたある予感が、彼女の感情を炸裂させた。


「――――ソルになにをしたぁっっっ!!」


 エレンが激昂した。

 真っ直ぐ魔法使いに突撃する。

 イヌガミの制止の声も届かない。

 錆びた剣を肩に担いでひた走る。


 魔法使いがエレンに気付いた。

 構わない。

 そのまま剣を振り下ろす。

 しかし魔法使いには当たらなかった。


 その切っ先は空を斬り裂いた。

 ちがう。

 なにもない空間(・・・・・・・)を斬り裂いたように見える。


 魔法使いはゆっくりと振り返った。

 その手に握られたねじくれた杖が魔力の残滓で淡く発光している。

 魔法だ。


 高位時空魔法『歪曲』。


 魔法使いは魔法で空間を歪め、エレンの斬撃をいとも容易く防いだのだ。

 その強さは文字通り『次元が違う』。


「ひっ」


 魔法使いと目が合った。

 のどの奥が引きつる。

 無言の威圧感に負けて、ひざを折る直前――――



『――――そこまでニャ』


 小さな鈴の音とともにクアールが現れた。

 ひらりとエレンの肩に乗ると、毛を逆立てて魔法使いを威嚇する。


『八つ当たりは感心せんニャあ。エレンを脅すのはそのへんにしとくニャ』


 さらにすぐ後ろにイヌガミが寄り添っていた。もうエレンが暴走しないように抑え込もうとしているだけかもしれないが。


『エレンも落ち着いてよく見るんだ。ソルは傷付いていない』

『…………いやいや、アレで無傷とか、ぜったいにおかしいんだがニャ~』


 イヌガミの言葉で少しずつ冷静さを取り戻していくエレン。押し潰されそうなくらい大きくなっていた恐怖心がしぼんでいく。

 よく見ればたしかに、倒れているソルの体には傷がまったくなかった。顔色も悪くない。目を回しているだけで、今すぐに復活してもいいくらいだ。

 魔法使いが、エレンにやさしく笑いかけた。


「……どうやら驚かせてしまったようですね。ごめんさない」

「あっ、えっ? あのっ、こっちこそ、ホントごめんなさい……」


 エレンの顔が真っ青になった。勘違いした挙げ句、突然背中に斬りかかるなんて、普通はあやまって済む問題ではない。

 しかし魔法使いはというと微笑んだままだ。


「お気になさらないでください。あの程度(・・・・)でしたら、本当に大丈夫ですから」


 穏やかな言葉ではあるが、若干嫌味が混じっている。

 だがエレンは申し訳なさからか、天然からか、その言葉を真に受けた。


「はいっ、ホントにすごかったですよね! あんなに鮮やかに剣を避けるなんてっ。ボクあんなすごい魔法初めて見ました! やっぱりあれって、特別な魔法なんですか?」

「え、ええ。まあ……そうですね……」


 エレンの眼差しに悪意はない。その言葉には他意もない。

 今度は魔法使いがエレンの剣幕にたじろぐ番だった。


「あっ、名乗る方が先ですよね。ボクは『エレン』って言います。一応……【勇者】です」

「ええと、わたしは……『セラ』とお呼びください。敬語は必要ありませんわ」

「えっ、そう? それじゃあボクのことも呼び捨てでいいよぉ。あと敬語も」

「いいえ。この敬語はもうすっかりクセになっていますので、このままで……」



『……どういうことニャ? さっきまで敵意むき出しだったのが、ニャんでもう仲良くなってる?』

『……私にもわかりません。これが『人間』? いや、『オンナ』という生き物なのか……?』


 いつのまにか楽しげに会話を始めた二人を眺めながら、クアールたちはその様子に首を傾げていた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ソルが起きた。

 上半身を起こし、ぼんやりとした頭で周囲を確認する。


「……どうやらお目覚めのようですね」

「……ホントだ。おはよう、ソル」


 その時、目の前にいたのはセラと、エレン。


「――――――――って、エレンッッッ!?」


 ソルは大きく後ろに跳んだ。

 勢い余って世界樹の壁に頭をぶつけるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。腹に掛けてあった毛布を巻きつけて全身を隠そうとする。

 二人はそんなソルの大げさな挙動に驚いてポカンとしていた。


「……なんか、すっごく跳んだね。人ってあんなに跳べるんだぁ」

「……どうやら、寝ぼけていらっしゃるようですね。ソルさま、自分の身をお確かめくださいませ」


 ソルは言われて、自分の体を調べる。

 その肉体は『変化の秘薬』を使用した時の【格闘家 ソル】のものだった。


「こ、れは……?」


 混乱するソルに、セラたちが順番に説明していく。

 まずセラは【魔獣王】に会いに来たことになっているらしい。

 そして偶然(・・)にもそこで出会ったのがソル。二人は知り合いで、魔獣王のところで再会したことは本当にただの偶然(・・)だったらしい。ちなみに「どういう知り合いか」というのは、エレンは深く聞かなかったそうだ。

 そしてセラは再会したソルが体調を崩していたことに気付いた。良薬を与えようとするが「苦い薬はイヤだ」と、それを拒んだソルをわざわざ気絶させて薬を飲ませたという話だ。


「なにそれ我、すっごくカッコ悪い……」


 たしかに辻褄は合っているのだが、ものすごく恰好悪い。

 いやたしかにエレンに「ひさしぶりの外の世界で調子が悪い」と言ってごまかしていたのだが。


「ソルってば、苦い薬が飲めないなんて、小さな子供みたい」


 ころころと意外な発見に笑うエレンからは、やはり嫌味は感じられない。それどころか楽しげなその姿に、無理に否定しようという気さえも失せていく。

 作り話をでっち上げたセラの方を見る。彼女はソルと目が合うと、なんと「あっかんべー」をしてきた。普段のセラの丁寧な振る舞いからはとても信じられない。


 そんな彼女たちの姿に、ソルは一度だけ短いため息を吐いた。その表情は困っているようで、しかし本気で嫌がっているようなものではない。

 思えばきっかけはソル自身が作っていたのだ。


『因果応報』


 ささやかな(心の)被害には目を瞑らなければいけないと、自分に言い聞かせることにした。




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