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ラスボスは終焉を選ぶ  作者: matelight
おいでよ、魔獣の森編 (長編)
25/72

勇者と修行と父親のこと

 二人で修業をしていると、子供の頃のことを思い出す。


 エレンは生まれて間もない頃に『勇者を選定する儀式』を受けたそうだ。

 そこで彼女は神託により【勇者】に選ばれた。


 それから幼い勇者エレンは父親と二人で、ずっと修業の旅を続けていた。


 エレンの父親は冒険者という根無し草だった。

 その出自は不明であるが、亡国の王族だと噂されることもあったそうだ。たしかに彼は「勇者」と間違われるほどの気品と風格を常に漂わせていた。勇猛果敢で頭も良く、優しさと慈悲深さも兼ね備えていた立派な人物だった。

 エレンはそんな父親の背中を見て育った。


 彼はずっと『勇者を探す旅』をしていたという。

 ようやく見つけた勇者が自分の娘であったことは、彼にとって僥倖だったのだろう。彼がエレンを見る眼差しには常に期待が込められていた。

 勇者エレンは父親から時に厳しく、そして時に優しく、【勇者】にふさわしい人物になるため大事に育てられていた。


 そんなある日、父親はこんなことをエレンに言ったそうだ。


「お前はずいぶんと成長するのが遅い。いざ成長すれば目を見張るほど伸びるのだが……これが【勇者】という者の運命(さだめ)なのだろうか?」


【勇者】を育てる苦労を改めて実感した言葉である。最低でも常人の倍は鍛えねば強くならない。


 だが父親は微笑を刻みながらそう語った。

 幼いエレンを撫でる手のひらも優しく、あたたかい。

 エレンを育てる手間と苦労は並大抵のことではない。それどころか実力も経験もまるで未熟な彼女は戦いの足枷にすらなりかねない。

 それでもなお可愛い我が娘のことを受け入れた父親の覚悟だった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ひっくり返った空を仰ぎながら、勇者エレンはぜいぜいと息を整えていた。


 体中のあちこちが痛み、魔力も体力も枯渇寸前で、このまま眠ってしまいたい衝動に駆られる。

 だがエレンは残った気力を振り絞って立ち上がった。


「はぁ……っ、はぁ……っ! もう一度、やらせて……っ」


 握り直した木の棒は【錆びた剣】と同じ長さに調節してある。これからも装備する武器の射程距離に慣れるためだ。

 その切っ先を向けられたソルは、腕を組みながらにやりと笑った。


「その意気やよし。だが次でちょうど百回目なのだ。これでダメならば、本日はここまでである」


 ソルはがっちりと拳を固めた。拳だけでなく表情や動きのひとつひとつも固くして、まるで全身が『鋼鉄』になったようなイメージで戦いに挑む。

 その動きはまさしく遺跡を守る【機械人形】のものだ。


「ギギー デハ行クノデアル 見事ニ我ヲ倒シテミヨ!」


 ソルは突進する。

 機械人形は直進だけは速い。

 だがエレンは余裕を持って横に避ける。

 危なげなく横をすり抜けたエレンは即座に振り向く。

 急停止したソルの背中に一撃を加えようとする。

 が、その攻撃は片腕で易々と受け止められた。


「……ほう、さすがに成長しているのだな」

「……『ものまね』、し忘れてるよ、ソル」

「おっと、そうであった」


 ソルはわざとらしく振り向く動作に時間をかける。

 機械人形の動きは『緩急』がはっきりとしている。

 エレンはそのわずかな隙をついて攻撃――ではなく後ろに回り込む。


「ギギー コシャクナ」


 ソルは背中側に回り込むエレンめがけて強引に裏拳を繰り出す。

 明らかに大振りの鉄拳。


 それがエレンの狙っていた大きな隙(・・・・)だった。


 地を這うように身を屈めてソルの攻撃を避ける。

 そのまま踏み込み、距離を縮める。

 掲げるように木の棒を両手で構え、足腰のバネを使って思いきり突き上げる。

 狙うはソルのその首筋。

 そして切っ先は、喉元で寸止めされた。


「…………マイッタ……じゃなくて、まいった。降参である」


 素直に負けを認めたソルは両手を上げている。だがその表情は少しうれしそうだ。

 エレンは木の棒を下ろす。そして研ぎ澄ました緊張を解くように目を閉じて、深呼吸をした。


「――――やった」

「うむ。よくやったのである」



「――――やったぁ! やった! やったよぉ!!」



 パッと咲いたヒマワリのような笑顔であった。

 興奮と歓喜のあまり心と体が勝手に踊り出して、辺りをぴょんぴょんと飛び跳ねる。


 勇者エレンは自分が少しだけ強くなれたことを実感した。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「エレンの父君の言葉は、どうやら正しかったようであるな」


 ソルは言いながら、獣皮で作られた水筒から水を飲む。

 早朝に汲んできたばかりの新鮮な水はうまい。鍛錬をして汗をかいた後ならばなおさらだ。


「うんっ! お父さんの言うことは大体あってるんだ」


 にこにこしながら話すエレンの表情は明るい。多少自信がついたらしく、顔付きすら違って見えた。

 先刻の模擬戦闘により、エレンはたしかに成長した。能力的にも戦術的にも、ひょっとしたら人間的にもひと回り成長できたのかもしれない。


「ふむ。『いざ成長すると目を見張るほど伸びる』……か。なるほどなのだ」


 たしかに成長は遅かった。だが費やした時間と努力に見合うだけの見返りはたしかにあった。さらにエレンはまだまだ伸び代を残している。


「本当にありがとう。ボクが強くなれたのはソルのおかげだよ。今までは成長する前に、ボコボコにされて負けちゃってたからねぇ……えへへ……」


 エレンは気丈にも笑顔で語った。

 残念なことに『始まりの町』では、この成長の遅さが仇となっていた。

 成長前のエレンは貧弱で、いくら仲間を募っても、彼らはいつまでも弱いままのエレンを見限って別れてしまったそうだ。別れ際に酷い言葉を投げかけられたことも一度や二度どころではない。


「フハハッ! そいつらを見返してやるのも一興なのだ! さっそく()くぞ、勇者エレンよ」

「いやいやいやいや、いいからっ! うん、もう、いいんだ……」


 いくら強く成長しても、その優しい気性までは変わらない。それはむしろ良いことだ。

 ()る気まんまんだったソルは、彼女の許す姿勢に感服して矛を収めた。

 そしてそんなエレンを見ていて、ふと興味が湧いてくる。



「――貴様の父君は、いったいどういうお方だったのだ?」



 まだまだ強さは足りていないが、エレンの『性格』や『気性』、『心』といった部分はすでに【勇者】と呼べるほど立派なものだ。

 そんな彼女を育てた人物に興味を抱いたゆえの質問だ。


「ご健勝ならば、ぜひとも会ってみたいのだが……」


 エレンは小さく首を振った。


「そうか……残念である」


 エレンは再び小さく首を振った。


「ううん、病気だもん。仕方なかったんだ」


 少しずつであるが、父親の話をするエレン。

 父親はエレンが【魔人王】と戦う直前に突然亡くなったそうだ。ちょうど滞在していた『隠れ里』に墓標を建ててもらったらしい。

 だが本来は、そもそも彼女たちはまだ【魔人王】と戦う予定などなかったそうだ。

 父親が急逝したことで我を失ったエレンは、衝動的に魔王城へ殴り込んだらしい。自殺行為であることさえ判断できなかったようだ。


「そうか……」

「でもね、お父さんは言ってた。『お前は昔から運だけはいい』って」


 そのおかげで生き残れたし、ソルとも出会えた。そう言ってエレンは朗らかに笑った。


「そうか……」


 ソルは静かにうなずくことしかできなかった。



「だがしかし、うむ。父君は顔とかも格好良かったのではないか?」

「お父さんの、顔?」


 こんなことしか聞けない自分を情けなくも思う。だがソルは辛気臭い雰囲気が苦手だった。


「うーん、どうだったかなぁ。中身(・・)はかっこよかった気がするけど……」

「なかみ、であるか?」


 意外な答えだった。

 娘であるエレンの見た目がこれほど美麗ならば、と想像することは簡単だ。だが『中身』とはどういうことなのか、ソルにはさっぱりわからない。


「最近はずっっっっっと、覆面をかぶったままだったからねぇ」


 彼女の父親は旅行く先々で「勇者」と間違われることにうんざりしていたらしい。

 その話だけですでに「勇者っぽい」見た目を想像できる。

 だが生真面目な彼は自分を「勇者」だと偽ることは一切せず、いっそ思い切ったイメチェンで印象を変えることにしたそうだ。

 エレンいわく、


「頭には覆面。まともな鎧や服は身に着けず、下着のような腰布とブーツ、そしてマントのみ。上半身むき出しの筋骨隆々な肉体と大斧を武器にしていた」



 エレンの父親は変態紳士だった。




 説明しよう! 変態紳士とは「真の漢」である!

 その見た目は某シリーズに登場する「カ○ダタ」そっくりなのだ!



 ……いろいろゴメンなさい。

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