8.勇者の腕輪
「……大丈夫か、少年」
「あ、ああ……お前、人間なのか……?」
震える【カイン】に声をかけつつ、【朔】は倒した兵士から回収した残骸データを【解析】にかけ、一つの重要情報を割り出していた。
(――なるほど。こいつらの通信ログに、近くの廃坑にある『前線基地(中継サーバー)』の座標が残っているな。村を襲った連中の本拠地か……。このまま放置すれば、また別の村がターゲットになる。ついでに、旧都の塔へ向かう経路の障害も排除しておいたほうが合理的だ)
「エレナ、この少年の保護を頼む。俺は、あのクズどもの巣窟をちょっとハッキング(壊滅)してくる」
「えっ、一人で敵の拠点に乗り込むつもりですか……!?」
エレナの制止をよそに、【朔】は単身、村の外れにある岩山をくり抜いて作られた魔王軍の前線基地へと足を踏み入れた。
基地の内部は、魔力の澱みと錆びた鉄の臭いに満ちていた。
巡回する雑魚兵士たちは、【朔】の【解析】によるモーション予測と、バランスの取れた『アーマード・ボディ』の圧倒的な機動性の前には、ただの「通過障害」でしかなかった。罠のトラップコードを眼球のオーバーレイで看破し、セキュリティの薄い裏口から最深部――司令室へと侵入する。
司令室の祭壇の中央。
そこに鎮座していたのは、不気味に脈動する魔力結晶ではなく、驚くほど洗練された、かつての旧文明のオーパーツを思わせる金属製の輪だった。
【システム通知:レリック検出】
対象アイテム:【勇者の腕輪】
物性解析:旧世界の管理者権限(root権限)の一部を保持する認証デバイス。装備者の胸部【コア】と直結し、システムの出力を一時的に『オーバークロック(制限解除)』する機能を持つ。
「――これが、『勇者の腕輪』か」
魔王軍が自分たちのセキュリティシステムで無理やり解析・封印しようとしていたその遺物を、【朔】は冷徹な手つきで掴み取り、自分の左手首のフレームにガチャンと噛み合わせるように装着した。
ガチィィン……ッ!
装着した瞬間、胸の中央に埋め込まれている【コア】と腕輪の回路が同期し、全身の骨格フレームに凄まじい青白い魔力電流が駆け巡った。
【システム警告 / 認証完了】
管理者権限(Root)の一部が解放されました。
肉体スペック一時上限値:300%へ拡張。
警告:長時間の連続使用は、コアへの負荷(熱暴走)を引き起こします。
「ふっ……。制限解除か。これなら、あの旧都の塔に巣食うすべてのバグ(魔王)を、根こそぎデバッグしてやれそうだな」
手首の腕輪から青い光を放ちながら、【朔】は不敵な笑みを浮かべた。
少年の村を救い、さらに強力なシステム権限を手に入れた元・システムエンジニアは、世界の真相が眠る旧都の塔へと、いよいよ本格的な進軍を開始する――!




