9.タワー・ガーディアン
魔王軍の前線基地を壊滅させ、旧世界の管理者権限デバイス――【勇者の腕輪】を手に入けた【朔】は、保護した少年【カイン】を安全な村の残存エリアへ送り届けた後、再びエレナと共に『旧都の塔』へと続く未開拓のルートを進んでいた。
荒野の地表は、塔から放たれる不規則な魔力の波動によって、あちこちにデータグリッドの歪み(空間のバグ)を生じさせている。
通常の生物であれば近づくだけで精神構造をクラッシュさせられるような劣悪な環境だったが、今の【朔】には万全の装備とインフラが揃っていた。
「【耐候適応】と【睡眠最適化】のおかげで、この濃密なエラーエリアでも脳のキャッシュは完全にクリアだな。……おい、エレナ。塔までの距離と、周囲の魔力密度はどう変動してる?」
左手首の【勇者の腕輪】から微かに明滅する青白い光を視界の端で捉えながら、【朔】が隣を歩く少女に問う。
「はい……! 塔まであと一日足らずの距離です。ですが、周囲の魔力流動は先ほどから急激に不安定化しています。まるで、私たちを迎え撃つために、塔そのものが防衛プログラムを再起動させているみたいです」
エレナの言葉通り、前方の視界が急に歪み、空気中のマテリアルが高速で再構築されていく。
ガリガリ、と地表を削るような重い硬質音とともに、道塞ぐように現れたのは、巨大な結晶質の装甲と無数の機械的パイプが絡み合った四足歩行型の防衛兵器――『タワー・ガーディアン(セグメント防衛モデル)』だった。
【システム通知:危険度警告】
敵対個体:『タワー・ガーディアン』
推測HP:4,500 / 4,500
脅威レベル:エリアボス級(旧都の塔・直結セキュリティ)
「……っ、いきなり大物が湧きやがったな」
【朔】は即座に【解析】スキルを全開稼働させ、目の前の巨獣の構造データを眼底に展開した。
しかし、これまでの低級魔物とは桁違いのデータ量と幾重にも張り巡らされた防御ウォールが、解析のスピードをわずかに鈍らせる。
「厄介だな。通常出ロジックの攻撃じゃ、あの多層装甲のファイアウォールを突破するのに時間がかかる……」
ガリィンッ!
巨体が放った圧倒的な質量を伴う前足の一撃が、【朔】の左手の防護プレートを直撃し、凄まじい衝撃波が周囲の岩肌を吹き飛ばした。
かろうじてガードしたが、全身のフレームが軋み、胸の【コア】に熱の疼きが走る。
(――なら、小細工は抜きだ)
【朔】の瞳に冷徹な光が宿る。
彼は左手首に嵌められた【勇者の腕輪】を強く握りしめ、脳内の管理者権限コマンドを強引に引き叩いた。
【システム警告 / オーバークロック実行】
管理者権限(Root)行使:出力上限を 300% へ強制拡張。
警告:コアへの熱負荷が急上昇中。冷却サイクルを厳守してください。
バチィィッ……! と青白いスパークが全身の金属フレームを駆け抜け、重力すら無視するかのような爆発的な加速力が【朔】の肉体を支配する。
「ここから先は、俺のシステム管理領域だ――!」
圧倒的なスピードを手に入れた【朔】は、眼前のタワー・ガーディアンの巨体を嘲笑うかのようにすり抜け、解析が弾き出した唯一の弱点へと、高周波ブレードを最大出力で突き立てたのだった――!




