7.カイン
旧都の塔を目指す道中。
キャンプの焚き火を片付け、装備の最終確認を終えた【朔】は、頭の中でスキルツリーのステータスログを静かに眺めていた。
(よし……【視覚】【聴覚】【発声】【解析】に加えて、旅の途中で罠の毒ガスを感知し損ねた反省から取得した【嗅覚】と【味覚】。さらに、コンディション管理のための【睡眠最適化】と【耐候適応】も完全に馴染んでいる。戦闘から生活インフラまでのデバッグは万全だ)
荒野の過酷な環境を生き抜くため、リスク管理の観点から段階的に獲得してきた生活系スキルは、今や彼の生存確率を底上げする重要なシステムの一部となっていた。
そして、その研ぎ澄まされた【嗅覚】が、不穏な異常をいち早く捉えた。
風向きが変わった瞬間、微かな焦臭さと、鉄が焼けるような嫌な臭いが【朔】の鼻腔をかすめた。
「……おい、エレナ」
足場を止めた【朔】に、彼女が怪訝な視線を向ける。
「どうしました?」
「この先の風だ。……尋常じゃない量の炭化臭と、錆びた鉄の臭いが混じっている。自然発生的な山火事の匂いじゃない。何かを焼き払った熱源のログだ」
【朔】が【解析】スキルを展開し、視界のオーバーレイで遠方の地形データをスキャンしながら冷ややかに吐き捨てた。
「……あれは!」
急ぎ足で丘を越えた彼らの目に飛び込んできたのは、黒煙を上げて蹂躙し尽くされた村の残骸だった。治安の維持されていない辺境の集落が、魔王軍の尖兵によって容赦なく焼き払われたのだ。
現場に駆けつけたとき、村の中心広場では、トゲだらけの甲殻を持つ異形の兵士が、ボロボロの衣服をまとった少年――【カイン】を追い詰めていた。
「来るな……! 母ちゃんを返せ……っ!」
「ガァァッ! 虫酸が走るガキの泣き声だな、死ねよ!」
兵士が巨大な大鉈を振り下ろした、その瞬間。
ガキィィンッ!!
金属が激しくぶつかり合う重い破砕音が広場に響いた。
大鉈の軌道に割り込み、それを右腕の『高周波ブレード』で完璧に受け止めていたのは、【朔】だった。スライムの気配など微塵もない、冷たく黒光りする純鉄のアーマード・ボディが、重い一撃をガッチリと受け止めている。
「なっ……なんだお前は……!?」
「セキュリティ違反だ。無許可の侵入および器物破損、それから一般市民への暴力行為……すべてデバッグ対象(例外処理)に指定してやるよ」
【朔】は【解析】で弾き出した敵の関節構造の脆弱性を瞬時に見抜き、左手の防護プレートで相手の態勢を崩しつつ、右腕のブレードを一閃させた。
ガリリ、と魔力装甲が内側から抉られ、異形の兵士は断末魔すら上げる暇もなく、黒い砂粒となって崩れ去った。
戦闘が静まり返った広場の中、泥まみれになった少年【カイン】が、信じられないものを見る目で【朔】を見上げていた。




