ゲート攻略再開
十月十二日、日曜日。
秋の日差しが穏やかに降り注ぐ昼下がり翔太と美鈴、そしてミギーの三人は異世界ゲートをくぐった。今日の行き先は先日美鈴が岩鎧獣を倒した岩場エリアよりもさらに奥。難易度の高い峽谷エリアだ。
「ここが……」
ゲートを抜けた美鈴は思わず息を呑んだ。左右を切り立った崖に挟まれた細い峽谷。空は細く裂け目状に見えるだけで薄暗い。ごうごうと風が吹き抜け、岩壁にこびりついた苔が不気味に揺れていた。空気はひんやりと冷たく時折どこか遠くで獣の咆哮が木霊している。
「【峽谷の暴君】って呼ばれてるエリアボスがいる場所だ」
翔太が短剣を確認しながら言った。今日の装備はいつもより重装備だ。美鈴も動きやすい布鎧に身を包み、ミギーも純血ドラゴン用の軽鎧を着込んでいる。白い髪と銀色の鎧が薄暗い峽谷で不思議な輝きを放っていた。
「ボスまでたどり着くには雑魚モンスターを何体か倒さないといけない。準備はいいか?」
「いつでも!」
「当然よ」
三人は峽谷の奥へと進み始めた。
最初に現れたのは【岩トカゲ】の群れだった。体長一メートルほどのトカゲ型モンスターが岩陰から次々と飛び出してくる。
「美鈴、右!」
「任せて!」
美鈴が地面を蹴り右側から迫る岩トカゲに飛び蹴りを叩き込む。一匹を吹き飛ばした瞬間、左からもう一匹が飛びかかってきた。
「しまっ──」
その時だった。
「はあっ!」
白い閃光が走った。ミギーだ。彼女は素手で岩トカゲの頭を鷲掴みにするとそのまま地面に叩きつけた。ドガンという衝撃音と共に岩トカゲが動かなくなる。
「まだ来るわよ」
ミギーは冷静に次を構える。彼女の戦闘スタイルは美鈴とはまったく違っていた。スピードで翻弄する美鈴に対しミギーは純血ドラゴン特有の圧倒的な力で正面からねじ伏せる。一撃一撃が重く岩トカゲの群れはあっという間に壊滅した。
「すごい……」
美鈴は思わず呟いた。これが純血ドラゴンの力。三週間前の百メートル走では勝てたけど、戦闘になると勝負にならないかもしれない。
「まだよ。次が来る」
ミギーの言葉に美鈴は顔を上げた。峽谷の奥からさらに大きな影が迫ってくる。今度は【岩トカゲ】より二回りほど大きな【峽谷の番人】だ。二足歩行で手には巨大な棍棒を持っている。
「二手に分かれるぞ」
翔太の指示で三人は散開した。
戦闘が始まるとミギーの力はさらに際立った。【峽谷の番人】の棍棒を素手で受け止めそのまま投げ飛ばす。巨体が岩壁に激突し峽谷全体が揺れた。
「美鈴さん、今よ!」
「ありがとう!」
ミギーが作った隙に美鈴が飛び込む。加速した拳が番人の側頭部に炸裂し巨体がゆっくりと倒れていった。
「はあっ……はあっ……やった……」
美鈴が肩で息をする。隣ではミギーが息ひとつ乱していなかった。白い髪を軽く払いながら倒れた番人を見下ろしている。
「さすがだな、ミギー」
翔太が短剣をしまいながら歩いてくる。その口調はいつも通り淡々としていた。
「やはり純血のドラゴンは相当すごいな」
「ええ、そうでしょ」
ミギーは少し得意げに胸を張った。青い瞳が期待に輝いている。
「でもな」
翔太はさらりと言った。
「美鈴の方が連携は取りやすい」
「なっ……」
ミギーの白い頬がぷくっと膨らむ。美鈴は慌てて手を振った。
「しょ翔太! そんな言い方しなくても!」
「事実だ」
翔太は素っ気なく言うと先に進み始めた。ミギーは唇を尖らせながらもどこか悔しそうな、でも少し嬉しそうな複雑な表情で翔太の背中を見つめている。
「美鈴さん」
「ななに?」
「やっぱり私、あなたには負けないから。戦闘でも走りでも翔太の隣でも」
ミギーはそう言って美鈴にだけ聞こえる声で続けた。
「でも……今はとりあえず協力しましょう」
「うん……!」
二人は小さくうなずき合うと翔太の後を追いかけた。
峽谷のさらに奥でひときわ大きな咆哮が響き渡る。【峽谷の暴君】が三人を待っている。
十月の異世界の空は今日も薄暗く雲が垂れ込めていた。でも三人の足取りは軽い。それぞれの想いを胸にボスを倒すため峽谷の奥へと進んでいった。




