悪夢再び
9月1日月曜日。午前7時45分。
夏休みが終わり、学校が再び動き出す。暦の上ではもう秋だというのに、セミはまだ鳴き止まず、朝からむわっとした熱気が街を包んでいる。制服のワイシャツが背中に張りつくような残暑の中、翔太と美玲は並んで通学路を歩いていた。
「はあ……今日から学校かあ。だるいなあ」
美玲は大きく伸びをしながらぼやいた。オレンジ色の髪は今日もポニーテール。尻尾はだらりと垂れ下がり、やる気のなさを全身で表現している。制服のスカートの裾が風に揺れて、かすかに汗ばんだ肌が見えた。
「まあ学生だから仕方ないだろ」
翔太は冷めた表情で答える。彼もまた、シャツのボタンを一つ外し、ネクタイを少し緩めていた。夏休みボケから抜け出せていないのは二人とも同じらしい。
「翔太はさ、夏休みの宿題ちゃんとやった?」
「……一応」
「一応ってなにさ。また奈々穂さんに手伝ってもらったんでしょ」
「うるさい。お前こそどうなんだよ」
「私はちゃんとやったもん! 練習の合間にコツコツとね!」
美玲は胸を張ったが、翔太は「練習の合間ってほとんど練習しかしてなかっただろ」と心の中でツッコミを入れた。
そんな他愛もない会話をしながら、二人は桜満高校の校門をくぐる。夏休み中はあんなに静かだった校内も、今日は生徒たちで賑わっていた。あちこちで「久しぶりー!」「焼けたね!」「宿題見せて!」なんて声が飛び交っている。
「あーあ、またこの生活が始まるのかあ。今から走りたいなぁ...」
美玲は下駄箱で上履きに履き替えながらため息をついた。
「流石に今すぐにはは陸上の練習なんてできんだろ」
「それはそうだけどさ。授業がねえ……」
「テストで赤点取るなよ。補習になったら練習できなくなるぞ」
「翔太が言うと説得力あるなあ……って、翔太こそ気をつけなよ! あんたの方が成績やばいでしょ!」
ぎゃあぎゃあと言い合いながら、二人は教室へと向かう。1年A組の教室はすでに半分以上の生徒が登校していて、あちこちで夏休みの思い出話に花が咲いていた。
翔太は自分の席に着くと、窓の外をぼんやりと眺めた。グラウンドでは野球部が朝練をしている。美玲は翔太の後ろの席で、机に突っ伏して早くも寝ようとしていた。
「おい、もう寝るのかよ」
「だってだるいんだもん……」
「始業式まであと十分だぞ」
「十分あれば十分寝れる……」
美玲がそう言って目を閉じかけた時だった。
ガラリと教室のドアが開き、担任の教師が入ってくる。生徒たちは慌てて席に着き、美玲もしぶしぶ顔を上げた。
「はい、おはようございます。夏休み明けでだるいとは思いますが、今日から気を引き締めていきましょう」
教師は出席簿を手に教壇に立った。
「それと、今日から新しい仲間が加わります。転校生を紹介します」
教室がざわつく。二学期始まってすぐの転校生なんて珍しい。
「入ってきてください」
教師がドアに向かって声をかけると、静かにドアが開いた。
現れたのは、白い髪を短く切り揃えた小柄な少女だった。透き通るような白い肌に青い瞳。頭には二本の美しい白い角が堂々と伸びている。背筋はピンと伸び、白い尻尾がゆったりと弧を描いていた。その姿には見覚えがありすぎる。
「ミギー・クロックです。よろしくお願いします」
教室が一瞬で静まり返った。白龍種の純血。県大会を制し全国大会も5.9秒で優勝したあのミギーが、どうしてここに。
「えっ」
美玲の口から素っ頓狂な声が漏れた。尻尾が驚きでピンと立っている。
「ええええええっ!?」
今度ははっきりと大きな声が出た。クラスメイトたちが一斉に美玲を振り返る。
ミギーはその声に気づくと、ゆっくりと美玲の方に顔を向けた。青い瞳が細められ口元がほんの少しだけ吊り上がる。
「あら。雑種のハーフちゃんじゃない」
教室中の視線が美玲とミギーに集中する。翔太は眉をひそめて小さく舌打ちをした。




