第4章 理解しがたい血縁
財務省副長官の執務室は、王宮より暗い。
窓が小さい。
実務担当の部屋は、だいたいこうだ。
俺は呼び出された。
宰相家の息子。
いまは無職に近い。
副長官は俺を見ない。
机の上の資料を見ている。
王都市場価格推移。
在庫差分。
備蓄放出シミュレーション。
全部、見覚えがある。
「姪が動いたな」
低い声。
俺は黙る。
「お前の家の制度だ。責任は理解しているか」
「はい」
「だが市場は制度で動かない」
知っている。
副長官はペンを置く。
「私は政治家ではない。実務だ」
「……はい」
「だから動く」
彼は決裁印を押す。
在庫報告義務化。
超過在庫の一時放出。
王都価格上限設定。
国家の措置だ。
王宮ではない。
俺は問う。
「叔父上は、彼女を信じているのですか」
副長官は初めて顔を上げる。
信じていない。
恐れている顔だ。
「あの子は、正しい」
即答。
「だから怖い」
部屋の空気が冷える。
「制度を守るが、制度に従わない。
倫理を理解するが、情では止まらない。
数字が合えば、実行する」
俺は思う。
それの何が怖い。
だが次の一言で理解する。
「私は制度内でしか動けない。
だがあの子は、盤面の外を動かす」
怖いのはそこだ。
副長官は俺を見る。
「お前は姪を止められるか」
止める?
そんな発想はなかった。
「……わかりません」
副長官は小さく笑う。
「なら、せめて理解しろ」
理解できるなら苦労はない。
不幸な男だ、俺は。
国家の実務を動かす女が、
俺の婚約者だった。
そして今も――
俺はこの数字のモンスターを、
なぜか愛してしまっている。




