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第3章 理解しがたい介入

王宮会計局には、便利な権限がある。


誰も覚えていない権限だ。


財政非常時監査。


暴動が起き、税収が急変し、物価が暴騰した場合、

会計局は「市場安定目的」で監査を実施できる。


普段は死んでいる条文だ。


誰も使わない。

面倒だから。


だが今は、面倒な状況だ。


「発動します」


アリサはそう言った。


誰に、ではない。


俺にでもない。


ただ、書類に。


俺は書面を覗き込む。


「市場安定監査……本気か」


「価格が三日連続で閾値を超えました」


「だから倉庫を開ける?」


「確認します」


開ける、ではない。


確認。


言葉が冷たい。


商人街の奥、閉ざされた倉庫前。


王宮監査の印章を持つ役人が並ぶ。


俺はその後ろにいる。


もう失脚した家の息子だ。


だが転生前の記憶は消えていない。


在庫報告書。


帳簿。


運搬記録。


差分。


差分は嘘をつかない。


扉が開く。


穀物袋が、ある。


「売り切れ」ではない。


ある。


あるが、出ていない。


商人は言う。


「将来の供給不安に備えた在庫です」


正しい。


理屈としては。


だが今は非常時だ。


アリサが一歩前に出る。


「報告数量と実在庫に差異があります」


声は変わらない。


「非常時条項に基づき、超過分の市場放出を命じます」


商人が息を呑む。


俺は横で思う。


……早い。


迷いがない。


「価格は下がります」


俺が言う。


「下がらなければ?」


「その場合は第二段階です」


第二段階。


嫌な響きだ。


「聞いていない」


「聞いていないでしょうね」


そうだろう。


俺はもう宰相家ではない。


だが。


ここで初めて、俺は気づく。


アリサは制度を守っているのではない。


秩序を守っている。


税制の失敗を責めない。


商人を憎まない。


ただ、数字を整える。


整えるために、権限を使う。


俺は小さく笑う。


「監査、嫌いじゃないだろ」


「嫌いではありません」


即答。


やはりモンスターだ。


倉庫の穀物は、順に運び出される。


市場に出れば、価格は下がる。


完全には下がらない。


だが、止まる。


暴動は、止まる。


たぶん。


俺は空を見上げる。


宰相家は失脚した。


だが王宮はまだ回っている。


そして。


俺は理解する。


この女は、俺がいなくても回す。


不幸な男だ、俺は。


監査の目で見れば、彼女は正しい。


だが。


この世で一番奇怪な数字のモンスターを、

俺はなぜか、愛してしまっている。

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