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第2章 理解しがたい現実

市場は静かだった。


暴動の翌日だというのに、静かすぎる。


静かな市場は、だいたい危ない。


店は開いている。

だが穀物がない。


棚が空だ。


「売り切れです」


そう言う商人の目が、笑っていない。


前世の俺が小さく警鐘を鳴らす。


在庫、隠してるな。


穀物税の市場連動化。

価格が上がれば税も上がる。


理屈は正しい。


だが凶作で供給が落ち、価格が跳ねた瞬間、

商人は抱え込む。


売らない方が得だからだ。


抱え込む。

価格がさらに上がる。

税額が上がる。

農民が潰れる。


そして怒る。


怒った民は、倉庫を焼く。


いま、ここ。


俺は焼け跡の前に立っている。


「備蓄は?」


と俺は問う。


王宮備蓄はある。

だが放出すれば終わりではない。


放出した分を、商人がまた吸う。


価格は下がらない。


むしろ「まだ足りない」と煽られる。


最悪の循環だ。


前世で何度も見た。


「理論上は健全」な制度が、

心理で崩れる瞬間。


俺は呟く。


「買い占められたら、終わりだ」


返事はない。


振り向くと、アリサがいた。


いつも通りの無表情。


焼け跡を見ない。

煙も見ない。


俺を見る。


「価格は本日さらに上昇します」


「予測か?」


「事実です」


淡々としている。


「……備蓄を出しても吸われる」


「可能性は高いですね」


そこで止まる。


正解は言わない。


策も言わない。


俺は苛立つ。


「じゃあどうする」


彼女は少しだけ視線を動かした。


市場の方ではない。


商人街の奥。


「倉庫の灯りが、昨日より多いです」


俺は目を細める。


確かに。


売り切れと言っていたはずの通りに、

夜の灯りが増えている。


在庫はある。


出していないだけだ。


俺はようやく理解する。


これは税の問題ではない。


市場戦だ。


そして。


アリサは、なにも慌てていない。


焼け跡の前で。


価格が跳ねる未来を口にしながら。


慌てない。


俺の背筋が、わずかに冷える。


こいつ。


何か握っている。


だが言わない。


言わないまま、静かに言う。


「数字は、嘘をつきません」


……そうかもしれない。


だが人間はつく。


不幸な男だ、俺は。


制度の失敗に向き合う覚悟はあった。


だが。


この数字のモンスターが、

どこまで織り込んでいるのか。


それが、わからない。

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