35【俺が俺になる前の話】
これは俺がまだ俺ではなかった時の話だ。
中学一年生の頃の俺は友達が少なかった。
今も少ないのだが、この時は友達が少ないことを気にしていた。
俺は何考えているかわからないとか人に興味が無いとよく言われていた。
でも、友達が少ないとか周りから何言われようがそんなことよりも大事なことがあった。
それは部活だ。
水泳部に俺は所属していた。
水泳部での活動は中学関連の大会以外何も無いため、幼稚園の頃から通っているスイミングスクールでほぼ毎日練習をしていた。
そこでの仲間たちは俺のことを昔から知っている為、俺がこんなやつだということを理解してくれていた。
だから、それでいいと思える自分もいた。
それに、水泳で結果を出せば、褒めてくれる人がいた。
それは親だ。
親は自分を一番近くで応援してくれる存在だと思っている。
だから、結果を出せば喜んで褒めてもらえる。
褒められれば嬉しいし、何より喜ぶ親の顔を見るのが嬉しかった。
それでまた頑張れた。
だからこそ、あの日から俺はなんのために頑張ればいいかわかんなくなった。
◇◆◇◆◇◆
その日は県大会当日だった。
僕が出場する種目は2つ。
その中で一番頑張ろうと思っていたのは、1500m自由形だった。
市の大会では8位の人とコンマ差で惜しくも9位と悔しい結果で終わった。
だから、県ではそいつよりも速く泳いで入賞すると誓った。
母には「涼介だったらやれる」って応援され、父には「カッコイイところを見せてみろ」と力強い言葉を貰った。
当日は両親共に応援しに来ると言っていたため、尚更頑張れる気がした。
レース1時間前にアップに向かった。
向かう途中に親に「入賞するから」とだけ言おうと思い観客席に行って、親を探した。
しかし、見当たらなかった。
知り合いの親に聞いてみたところ急な仕事が入ったため、少し遅れるとの事だったが、先程こちらに向かっているとの事だった。
両親の仕事が忙しいことは知っていたため、仕方ないと思った反面ちゃんと「頑張ってくる」と言いたいという気持ちもあった。
でも少し遅れるだけで、レースは見ることが出来るのだから頑張ろうと俺ならできると自分に言い聞かせアップへ向かった。
アップはいつもより念入りに行った。
多分自分史上1番集中していると思えた。
あっという間に1時間が経ち自分の番に回った。
端から2番目が自分のコース、その隣は市の大会で自分の1つ上の順位だったやつだった。
入場すると軽くストレッチをしながら観客席にいる親を探した。
しかし、いつもいる位置にはいなかった。
それでも必ず来ているきっと違う場所にいるんだと思い気持ちを切り替えた。
笛がなり始めたら泳ぎのことしか考えられないくらい集中した。
スタートの合図と共に飛び込んだ。
いつもより早く飛べていると実感した。
そのまま100m、200m、400mと順調に泳いでいった。
隣とはほとんど差が無く離されては追いつき追い越し追いつかれを繰り返した。
ラスト100mの時に勢いよく鐘がなり始める。
その鐘の音を聞いた瞬間にスピードを上げた。
この後どうなったっていい、今この瞬間頑張れるなら……!!
そんな気持ちで自分の出せる全てを出した。
その結果タッチの差で隣に勝ち目標であった入賞も果たした。
喜びと達成感でいっぱいになった。
早く親に報告したいそんな気持ちもあった。
だからダウンもせず直ぐに着替えて観客席に行った。
知り合いの親に「おめでとう」「お疲れ様」という言葉を貰いそれにお礼をしながら親を探した。
しかし、母も父もいなかった。
代わりにここに居ないはずの父の妹がいた。
「こんにちわ」
たまに会うくらいであまり関わりがない人だった。
「お疲れ様、入賞おめでとう
兄さんも姉さんも喜んでいると思うぞ」
「はい、ありがとうございます
それで父と母は……?」
何となく嫌な予感はしていた。
でも、そんなことはないって違うって自分の考えを否定し続けていた。
だから、聞くのは怖かった。
「落ち着いて聞いてくれ
兄さんも姉さんも先程交通事故に合い意識を失っている」
何を言っているのかわからなかった。
そんなこと予想すらしてなかった。
予想していたことの斜め上をだった。
この気持ちが悲しいのかなんなのかわからなかった。
それから直ぐに病院に駆けつけたがその時には既に2人ともこの世にいなかった。
「何も言って貰えなかった……
これからもずっとずっと応援してくれるんだって思った
頑張ったら褒めてくれるし、喜んでくれるから頑張れた……
でも、でも、なんで…なんでだよ」
2人が眠るベットで涙を流した。
◇◆◇◆◇◆
それからの数日の記憶は曖昧だった。
お葬式をしたり親戚が尋ねてきたりそんな事だったと思う。
1週間が経った頃には誰も訪ねなくなり、僕も両親が寝ていた部屋に篭った。
何日経ったか分からないが突然部屋の扉が空いた。
「酷い有様だな」
聞き覚えのある声だった。
でも今は目を開けるのですらめんどくさかった。
何も考えたくもなかった。
「僕の何がわかるんですか」
消え入りそうな声でそう呟いた。
「いつまで自分だけが悲劇のヒロインだと思っているんだ?
他の奴らの気持ちを考えたことあるか?」
その女の人は僕にそう怒鳴った。
「そんなの……知らないですよ……だって、だって…」
「今のお前をあの二人が見たらどう思うだろうな」
「いいですよ
あの二人はもう居ないんで」
多分今の僕に何を言っても無駄なんだろうと思ったのかその女の人は消えていった。
その夜今までのこと、そしてこれからのことを考えた。
そして1つの結論に至った。
僕が今悲しいのは親の死もあるんだろう、でも、そうじゃない。
僕は褒めて欲しかったんだ。
頑張った意味を与えて欲しかったんだ。
そう思うと、僕は……いや、俺は自分に誓った。
もう誰にも期待しない、自分のことは自分ですると……。
◇◆◇◆◇◆
「それから俺の親代わりにあの人がなって、水泳を辞めて、学校でもボッチ街道をまっしぐら
そんな感じだ、つまんないだろ?」
「えーと……」
何も言えなかった。
今の先輩はただの強がりをしているだけだということしか思えなかった。
でも、一つだけ気になったことがある。
「なんで水泳を辞めたんですか?」
「1回泳いでみたが、なんのためにやるのか分かんなくなったからだ」
それならきっと嫌いになったのではないと思えた。
だから、これは私の都合だけど、先輩が泳いでる姿を見てみたいと思った。
「なら今度泳ぎに行きましょ
海にでも!」
「馬鹿か?
もうすぐ冬だぞ」
「あっ、そーでしたね
なら来年にでも」
「考えとく」
「じゃ、先輩も話してくれたんだし、特別代サービスで凛華ちゃんの過去でも教えてあげましょう
ちゃんと聞いててくださいね」




