14.試験に向けて② 深まるダンジョンの謎
「この人が……」
俺の師匠という言葉に反応し、ボソッとそう呟く紗奈。
「ん……? 南、この子は?」
「ああ、俺らのチームの福山紗奈」
「ふっ……福山紗奈である……ます……」
紗奈はしどろもどろになりながら師匠に自己紹介する。
中二と素の部分が混ざり、中途半端な口調になった紗奈を一瞬不思議がった後、師匠は紗奈に返すように自己紹介する。
「服部賢也だ。よろしくな」
「よろしく頼む……ます……」
「……? ああ、よろしくな」
「お久しぶりです。服部さん」
「おう、美穂ちゃん。久し振りだな」
「……というか師匠、疲れてるみたいだけど大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえよ。……ったく、毎日毎日例のダンジョンの調査でろくに休めやしねえ……」
「大変なんだな……。ん? でも今日は?」
「今日は久々の休みよ。……で、お前らは何してんだ?」
「ああ、実は―――」
「ほう……お前らも遂に昇格試験か」
師匠に昇級試験のことについて話すと、少し関心したようにそう言う。
「そうか……お前らが冒険者になってからもう3ヶ月経ったのか……時の流れパねえなおい。……そうか、じゃあ俺は3ヶ月ずっとろくに休まず働いてたってことか……」
自分で言っておきながら師匠の目が段々と死んだ魚の目のようになっていく。
……本当に働きづめだったんだな。
「……で、何かわかったことはあったの?」
「……いや、さっぱりだ。3ヶ月間、あのダンジョンを調べてみたが全く何もわかってないな」
「まじで?」
「まじだ」
俺の問いに真顔でそう返す師匠。
師匠は忍者の家系ということもあるのか、調査や情報収集といった分野のものが得意で、スキルもそれ系統のものをいくつか持っている。
その師匠が3ヶ月かけて調査してもわからない……か。
「それって結構なことなんじゃ……って、紗奈? どうした?」
急に服の裾が引っ張られ、振り向くと紗奈が俺の服の裾を掴んでいた。
「……その……話の途中ですまぬのだが、一体何の話をしているのだ?」
何がなんだかわからないといった表情でそう言ってくる紗奈。
そう言えば、こいつにはあのダンジョンと“影”について話したことなかったな。
というか、一応約束を守って言ってなかったのだが。
「なあ師匠、紗奈にあのこと話してもいいか?」
「……そうだな。チームで1人だけ事情知らないってのも可哀想だしな。でも、場所は変えるか」
師匠は「付いてこい」と言い、歩きはじめた。
ギルドの2階、そこには喫茶店がある。
今は時間帯的に店内はがらんとしていて、客が何人かポツポツといるのみであった。
俺たちは壁際の席で飲み物を飲みながら、周りにはあまり聞こえないよう、紗奈に名無しの新ダンジョンとそこに現れた“影”のことについて説明をした。
「―――なんと。そんなことが……。うら……ごほん、いや、何でもない……」
「お前……今羨ましいって言おうとしたろ?」
「……ふっ、何のことやら……」
「……言っとくけど、まじで死にかけたからな」
「…………ま、まあ、あれだ、その“影”とやらは光が弱点だったのだろう? もし、我がその場にいれば南たちも死にかけることはなかったかしれぬな!」
俺の言葉にごまかすようにそう返す紗奈。
「……へえ、ていうことは紗奈ちゃんは光属性使えるのか」
「ふっふっふ……、そう、我は光と闇の使い手にして最強の魔法使い……である……ります」
「ほう……光と闇の魔法使いか。また珍しいタイプの子仲間にしたな」
師匠は隣に座っている俺の方を見てそう言う。
「まあな。……で、そのダンジョンは今も一般冒険者は立ち入り禁止になっていて、師匠たちみたいなギルドから依頼されたプロの冒険者が、ずっと調査してるらしいんだが……」
「……3ヶ月経った今でもダンジョンについてわかったことがないのが現状ってところだな」
紗奈に再び説明するように話すと、俺の言葉に師匠がそう続けて言った。
「ふむ……なるほど。……しかし、仮にもプロの冒険者が3ヶ月も調査して何もわからないということがあるのだろうか……?」
紗奈は俺らの話を聞くと、考え込むようにそう呟く。
「そうそう、俺も思ってたんだけど、師匠もいるのに何もわからないってことはないんじゃないか?」
紗奈の呟きに反応するように、晃太が師匠にそんな疑問を投げ掛ける。
そこに関しては、俺も引っ掛かっていた。
師匠みたいな探索系に優れた冒険者が何人も集まるような調査団が調査しても何もわからないということがあるのだろうか?
「はあ……。そう、厳密に言えばわかってることはいくつかある」
晃太の言葉に、ため息混じりにそう言った後、師匠は続けて話をする。
「まずはそうだな……あのダンジョンは常に空間が安定してないのか、地形が常に変わっていてな。マッピングをしようにも全くできない状態でな……。まず、このことがダンジョン調査の大きな問題点になっている一つの部分だ」
ダンジョンの空間の不安定さ……。
それは、俺たちがあのダンジョンに入った時にも体験したものだ。
ハバネロは、あの時は出来たばかりのダンジョンだから空間が不安定になっているかもしれないと言っていたが、どうやら元々そういう仕様のダンジョンらしい。
「……このことから、俺がダンジョン名は不思議のダンジョンがいいんじゃないかって提案したら即却下された」
「何やってんだよ」
「……ほんの冗談のつもりだったんだが、皆毎日の調査での疲労かピリピリしていてな……、ちょっと場を和ませようとしたら怒られた」
「本当に何やってんだよ……」
「……でだ、第二にダンジョンに入る度に出現モンスターがガラリと変わる」
俺のツッコミをスルーするかのように話を続ける師匠。
「……それってかなり稀なことなんじゃ……」
「稀ってどころの話じゃないぜ美穂ちゃん。こんなこと、通常ではありえないことだ。ダンジョンに出現するモンスターってのは、そのダンジョンのマナによって異なってくるものだ。出現モンスターが増えたり姿を変えたりっていうのはたまにある話だが、総入れ替えなんて普通はないことだ」
「……例えば?」
俺の問いに、師匠は手を顎に当てて思い出すように答える。
「そうだな……。お前らも遭遇したロックドッグ。最初のうちはあれが多かったんだが、ある日パタリと見なくなってな、代わりにマッチョロップとビッグマウスが出現するように、そして少し経てば今度はゴーレムとゴブリンモドキが……って感じで今もちょこちょこ入れ替わってってるな」
「本当にころころ変わってるんだな……」
3ヶ月でそんなに出現モンスターがそんなに入れ替わるのか……。
「……だが、あれ以降“影”のようなモンスターは姿を現してない」
「……そうか……」
「ま、そういうわけで、わかってることというか、この現状でわかっている起こっている現象からは何もわかってないというのが今のところって感じだな」
……なるほど、それで何もわかってないか。
本当に謎だらけのダンジョンなんだな……。
「……さ、というわけで、この話はここまでだ。というか、これしか話すこともないしな」
師匠は両手を叩いて話を締めると、口元を緩め、何か思い付いたような顔をした。




