10.将来の夢③ 自分の進路
「―――へえ、そんなことが……」
「ま、人それぞれ事情があるってことだろ」
陽菜がおやつと飲み物を持ってきてため、開始早々俺たちは休憩に入って雑談をしていた。
といっても、美穂が皐さんと木ノ崎先輩について聞いてきたのでとりあえず俺が知ってることを皆に話してただけなのだが。
「何で木ノ崎さんはその古藤って人のことそんなに嫌ってるんだろうね?」
「さあな。俺もそこについてはよく知らないし、簡単に聞けるもんでもないだろうし」
「ふーん……何か俺が見た感じだとあの人、喧嘩っ早そうだったけど、そんな悪い人には見えなかったけどな。というか、むしろ良い人だよな……多分」
「まあ、わざわざ私たちを助けに来てくれたぐらいだしね」
晃太と美穂の言う通り、それこそ初めて見た時の印象は俺からすれば最悪だったが、今では実は短気なだけの結構良い人なんじゃないかと思えてくる。
普通は少し絡んだぐらいの(しかも最初は敵対視してた)後輩を心配してダンジョンに来るなんて早々しないし。
「……それにしても医大かー。すごいよね」
「そうだな。普通はそんなとこ目指すなら体育祭の組団長なんて勉強の時間削られそうなものやらないけどな」
古藤さんは、体育祭でしっかりと組団長の仕事をしててそれでもちゃんと受験勉強はしてるって前に皐さんが言ってたっけ。
「進路か……。皆は高校卒業したらどうするとか決めてるの?」
美穂がそんなことを訪ねてくると、晃太がいの一番に返答する。
「そりゃ冒険者やるに決まってんだろ!」
「プロの冒険者になるってこと?」
「んー、まあそうだな。何の冒険者になるかはまだ決めてないけど」
プロ……か。
プロの冒険者というのは、ギルドに実力を認定された冒険者を指す。
認定された冒険者は、ダンジョンやクエストで稼いだお金の他に、ギルドから毎月固定給が支払われる。
その代わり、ギルド側が依頼した仕事や、緊急クエスト、ダンジョン調査等の仕事をこなさなければならず、いつでも動ける準備をしておかなければならない。
そして、認定された冒険者はいくつかのカテゴリーで分かれて仕事をすることが多い。
主には、モンスターの生態調査、新ダンジョンや既存ダンジョン等の未開領域の調査、後はその他の専門分野に特化した調査など様々ある。
「そういや師匠、この頃連絡も来ないしギルドでも見かけないよな……」
「そう言えば、服部さんってプロ冒険者なんだよね?」
「ああ」
師匠もかくいうプロの冒険者の1人で、プロでは珍しく大体全ての仕事をこなす万能型の冒険者である。
「多分、例の洞窟の調査で忙しいんだとは思うけど……」
「ああ……」
「あん時は大変だったよなー。もう2ヶ月以上前のことか……」
例の洞窟。
俺たちが謎の“影”に襲われ、そして、俺と晃太と美穂がチームを組むきっかけになった洞窟である。
あの洞窟は、未だに立ち入り禁止となっていて、ギルドが派遣している調査員たちによって今でも調査が続けられている。
師匠も調査員の1人なので、当然あの洞窟の調査に行っているのだが、最近はそっちが忙しいのか、ビッグマウス討伐のクエストに一緒に行って以降、ほとんど姿を見なくなった。
「……そういや、この間水瀬さんが言ってたんだけど、師匠がギルドに来た時に、『まじありえねえ……ブラック企業より働かせられてるじゃねえか……』って若干疲れた顔で愚痴ってたって聞いたぞ」
「……師匠も大変なんだな……ん? ああ、悪い紗奈。お前には分かんない話だったな」
ふと紗奈の方を見ると、少しつまんなそうな顔をしながらおやつのカステラを頬張っていた。
「……別に構わん。だが、その師匠というのは気になるな……」
「ああ、そのうち会わせてやるよ。というか、ギルド行ってればそのうち会うさ」
「ふむ……ならば楽しみにしていようではないか」
紗奈はそう言ってまたカステラを頬張る。
こいつのことだ。師匠が忍術使うって言えばまた興奮するんだろうな……。
「……で? 南は?」
「え?」
「進路の話」
「……ああ、そうだな。まあ、今のところは冒険者かな? と言っても晃太と同じでまだざっくりとそれぐらいしか考えてないけど、一応進学も頭には入れてる」
「へえ……」
「というか、アビリティ科に入るのなんてほとんどそんなんばっかだと思うけどな。紗奈はどうだ? 進路とか決めてるのか?」
「ふっ……進路とは我が決めるものではない……世界が定めし運命に従うまでよ……」
「要は特には決めてないってことだな」
「む……」
「まあまあ……皆に聞いといてあれだけど、私も進路のことなんて特に決めてないし……」
「それは意外だな」
この中だったら美穂が一番自分の進路決めてるって思ってたけど。
「そう? だって私たちまだ高校入って2ヶ月だよ? 時間はあるし、そのうちやりたいことがあれば進路も自然に決まってくるだろうし……」
「やりたいことって……冒険者はやりたいことじゃないのか?」
「あ、違うよ! 冒険者はやってて楽しいしいいんだけど、将来って考えるとどうなのかなって……あ、別に否定とかじゃなくて確立的な問題で……」
「別にわかってるって。……結構堅実なんだな」
「うーん……それとはちょっと違うかもだけど……」
そう言って、美穂は言葉を濁らせた。
「はい! ひなはあるよ! 将来の夢!」
すると、おやつを運んでそのまま部屋に居座り、紗奈と一緒にカステラを頬張っていた陽菜が、口にカステラのカスを付けながら右手を上げる。
「へえ? 何々?」
美穂が興味津々に食いつくと、陽菜は一呼吸おいてから自信たっぷりに口を開いた。
「世界制覇!」
そして、その言葉に美穂は一瞬固まった。




