9.森の古城⑫ どうしてここに
▷▷日向南
「じゃあな」
「くっ、させるかっ!」
男が手のひらから音の衝撃波を放った瞬間、俺はハバネロが引っ張ろうとしている方向に動くように力を振り絞って“噴火鉄拳”を噴射させ、ハバネロの引っ張る力にプラスして、俺は攻撃を何とか回避する。
しかし、勢い余って着地もくそもない状態で俺は地面に転がるように倒れ込み、ハバネロもそれに巻き込まれるように地面に転がる。
「っ……大丈夫か?」
「何とかな……しかし、かなり不利な状況であるな」
「不利なんてもんじゃねえ……絶体絶命だろこれ」
“噴火鉄拳”で回避したことによって、俺の波動が遂に空になり〈クロス・バースト〉はおろか、レッドモードも解かれ、俺は戦うどころかろくに動ける状態ですらなくなっていた。
さすがに倒れたままでは無防備すぎるので、俺は何とか片膝を着く程度に起き上がる。
想定したより遠くの距離まで逃げれたので、男との距離は少し取ることができたが、あくまでも視認できる距離で、尚且つ男はこちらにゆっくりと向かってきている。
俺が波動空っぽなのに対して、あっちは疲労しているとはいえ、未だに〈ライズ〉の状態を維持している。
誰がどう考えても勝敗は見えきっている。
「くそ、余計な手間掛けさせやがって……」
男が自分の攻撃射程範囲内まで近づいてくると、再び俺に手をかざして攻撃体勢に入る。
「“ビートキャノン”!」
「南!」
「ばっ……ハバネロ!」
男がフォースを放った瞬間、ハバネロが俺を庇うように翼を横に広げて前に出る。
いくら神獣でも弱体化した状態であれをくらえば……!
「“マリン・コクーン”!
“グラベルショット”!」
その時だった。
背後から聞き覚えの声が2つ重なって聞こえてきたかと思うと、俺とハバネロの周囲を円形の水のバリアが覆い、男の攻撃を防ぐと同時に小さい石礫の散弾が男に向かって飛んでいき直撃していく。
「なっ、何だと!?」
「……これは一体……?」
「……もしかして」
見覚えのあるアビリティにある人物たちの顔を思い浮かべていると、案の定というか何というか、その人たちが俺の後ろから姿を現した。
「ちょ……大丈夫日向君!?」
「……思ってたのより面倒くさそうなことになりやがってんなくそが」
「皐さん……木ノ崎先輩……」
そう、ここのダンジョンを俺に進めてきた張本人、皐さんと体育祭で青組団長を努めていた木ノ崎先輩である。
「どうしてここに……」
「話は後! とりあえずこの場をどうにかするよ! というか動ける?」
「すいません……無理です」
「……え? 本当に大丈夫!?」
「ちっ……〈ライズ〉か。厄介な相手だな」
皐さんと木ノ崎先輩はそう言いながら男のことをしっかりと警戒し、隙を見せないようにしている。
「ってえな、何だてめえらは」
男は、礫が当たったところを抑えながら皐さんと木ノ崎先輩を睨み付ける。
「こいつの先輩だ。何か文句あっかごら!」
「あんたこそ何者よ。私のかわいい後輩痛めつけてくれちゃって」
「うっ……」
かわいい後輩とか少しはずかしいんだが……。
「南、この者たちは……?」
「ああ、学校の先輩だよ」
「ふむ、そうか……先輩か……」
「……ちっ、面倒くせえな。これ以上は無理か……」
男は2人を見て一息着く。
「悪いが引かせてもらうぜ!」
そして、そう言って逃げる姿勢を取る。
「逃がすと思ってんのかごら! “ストーンエッジ”!」
「“ビートウェーブ”!」
木ノ崎先輩が逃がさまいと、男に攻撃を仕掛けると男は“ビートウェーブ”で“ストーンエッジ”を迎え撃ち、その衝撃で周囲に土煙が舞い上がる。
「……っ! どこ行きやがった!?」
土煙が晴れると、男の姿はどこにもなく木ノ崎先輩が辺りを見渡しながら男を探す。
「……逃げたみたいだね」
皐さんはそう言ってふうっと一息ついて肩を降ろすように動かす。
俺も周囲の気配を探ってみるが、誰かいるような気配はしない。
……そう言えば、あの男が最初に現れた時は気配を微塵も感じなかったな……。
ま、今はそんなことより……。
「ありがとうございます。助かりました……」
俺は片膝を着いていた状態からあぐらをかくように座り込み、2人にお礼を言う。
何にせよ、この人たちが来てなかったら俺はやられてただろう。間違いなく。
「いやあ、無事で良かったよ……」
「日向、何があった? あの男は何なんだ?」
「……それは―――」
俺は皐さんと木ノ崎先輩にこの古城に来てから何があったのかを話した。
「……なるほど、そんなことが。来て正解だったね豪」
「あ? 皐てめえ、最初は来るの渋ってたじゃねえか」
一通りの説明を終えると、2人はそんなことを言い合う。
皐さんは普段見せないような、それは見事なまでの作り笑顔を木ノ崎先輩にするが、木ノ崎先輩は怒ったような、それで持って呆れたような顔をする。
「……で日向君、今日向君の仲間たちはその隠し通路の中にいるんだね?」
「……はい」
話を剃らすように確認してくる皐さん。
「2人には本当に助けられたな。改めて礼を言うぞ」
「いやいや、あんな状況だったら助けるのが当たり前だしお礼なんていいよ。……それよりもハバネロ? だっけ。神獣ってこんな小さいんだね」
「これは仮の姿ですよ。本当の大きさは全長で5mくらいですよ。確か」
「5m!」
「うむ。ただ、その姿だと色々と不便なのでこうして小さくなっているのだ。今は諸事情あって元の姿に戻れないというのもあるが……」
「へえ……さすが神獣って感じだね」
皐さんはそう言って感心したようにハバネロをジーっと見つめる。
「……そう言えば、2人はどうしてここに?」




