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アビリティワールド-ABILITY WORLD-  作者: イズミ
第1章 出逢いと始まり ―動き出す物語―
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8.体育祭⑫ 瓦礫と格差

▷▷日向南


 死ぬかと思った……。


 木ノ崎先輩が放ったであろう“流星群”を、俺は九死に一生を終える思いで空を飛んで全てかわしきった。

 どうやって空を飛んだかというと、朱雀の力の1つ、〈紅蓮の翼〉というスキルを使い、背中に朱雀のフォースで翼を形作って飛んだ。

 久々に発動させたので、最初はフラフラと飛んでいたのだが、“流星群”を凌いでいるうちに飛びかたを徐々に思いだし、“流星群”の影響で、煤だらけになりながらも現在は地上へと戻ってきていた。

 途中、美穂がこっちを見てポカンと突っ立っていたので、“風手裏剣”をさりげなく放ってみたらものの見事にカラーボールに命中して、ラッキーにも厄介なのを退場させることができた。


「おらあ! くたばれぇ!」

「させるか!」

「この野郎! また面倒なの撃ち込みやがって!」


 俺がいる場所から少し離れたところでは、木ノ崎先輩が他の組の上級生相手にドンパチしていて、アビリティの激しくぶつかり合う音が響いてくる。


「……ね、ねえ南……」

「ん? 何だ美穂? さっさと陣地に戻れよ」

「ちょ……何か辛辣じゃない……?」

「今は敵同士なんだから当たり前だろ」

「……はあ、まあいいや。じゃあね……」


 自分のカラーボールでジャージを赤く染めていた美穂が、何か聞きたそうにしていたが今は敵同士。

 構ってる暇はない。


「あいつらどこ行ったんだ?」


 俺は辺りを見渡して鹿央や武井の姿を探す。

 俺が離脱したのは少しの間だけだ。

 あの“流星群”を防ぐために避難したとしても、そんな遠くまでは行けないはずだ。

 そんなことを考えていると、氷の瓦礫の山の上の部分が少し崩れる。


 ……まさかな。


 そう思った矢先だった。

 瓦礫の山がガラガラと一気に崩れだしたと思ったら、中から“魔王之手(デビルハンド)”が拳を握った状態で飛び出し、そこから鹿央と武井、そして晃太と紗奈が出てきた。

 ……全員ジャージを赤く染めて。


「……おい、それは塗料なのか? 血なのか? というか大丈夫か?」


 俺の問いに。


「おおヒナタ。大丈夫だ。これは全て塗料である。怪我などの(たぐい)はしておらんぞ、誰もな」


「ならいいけど……」


 鹿央の隣では、顔を青くして怯えている紗奈を晃太が慰めていた。


「しかし、邪魔が入ってしまったな。フクヤマとの勝負は楽しくなりそうだったのだが……」


 鹿央がそう言うと、紗奈がビクッと体を震わせる。

 この短時間で一体何があったんだ。

 晃太と紗奈は俺をチラッと見た後、何か言うこともなく退場していく。


「……まあ、とりあえずは陣地に戻っとけ。後は頑張っておくから」

「ふむ」

「悪いな……」


 鹿央と武井がそう言って退場した後、俺は再びフィールド全体を見渡した。

 フィールドのあちこちでは、激しい戦いが繰り広げられていて、各組団の団長たちも本格的に参戦していた。

 さて、俺の波動も正直そこまで残っていない。

 このまま誰とも戦わずに時間まで逃げるというのもありだが……。


「見つけたぞおらあ!」


 横槍にそんな声が聞こえ、こっちに向かってくる人影が1つ。


「“砂刃波(さじんは)”!」

「っ……!」


 人影の正体、木ノ崎先輩から出会い頭に砂煙のような斬撃が放たれ、俺は咄嗟に横に避けた。


「てめえ、昨日騎馬戦でちょっかいかけてきやがった1年の1人だろ。髪と目が赤くなってやがるがわかるぜ……って、思い出したぞ。お前、その目つきはこの間皐と一緒にいたやつか」


 俺の顔を見るなりそんなことを言う木ノ崎先輩。

 ここでとぼけて何の用ですかというのも野暮な話だ。

 この競技は目と目が合わなくても勝負が始まってしまうような競技だ。


「俺はやられたらやり返さないと気がすまない(たち)でな。昨日の決着着けようぜ!」


 それを言うなら、できれば鹿央に言ってほしいものだがあいつは既に退場している。


「“火炎刃”!」

「俺が言った側から攻撃たあいい度胸してんじゃねえか!」


 不意打ち気味に“火炎刃”を降り払うと、木ノ崎先輩はそれを後ろに下がって避ける。


「“砂刃波”!」


 そして、反撃に再び“砂刃波”を使ってくるが、俺は“火炎刃”で迫ってくる“砂刃波”を迎撃して相殺させ、前へと踏み込み攻撃の準備に入る。

 波動が充分じゃない以上、だらだらと戦っている余裕はない。

 体を先に動かしてそれから考える。

 それぐらいじゃないと、木ノ崎先輩を相手にするのはきついと思う。

 競技開始直後と、さっきの計2発の“流星群”。

 あんな広範囲高威力のフォースを2回出しているのにも関わらず、この余裕さはこの人の波動量の多さを感じさせる。

 それに、直情的な性格だが、俺の動きをしっかりと見て行動している。

 さすが、Bランクの冒険者だけあって俺からすれば完全な格上相手だ。


「“火炎拳”!」

「“岩石拳(がんせきけん)”!」

「……ってえ!!」


 俺が“火炎拳”を繰り出すと、木ノ崎先輩はそれに合わせるように岩で拳を覆った“岩石拳”を繰り出し、俺の拳と木ノ崎先輩の拳がぶつかり合う。

 俺からすれば、岩を殴ったようなもので拳に痛みが走る。


 ……さすがに折れてはないか。


 俺は一旦木ノ崎先輩と距離を取った後、手をグッパして動くことを確認する。


「“グラベルショット”!」


 そこを、木ノ崎先輩は手を緩めることなく追撃してくる。

 木ノ崎先輩から放たれた小さい礫たちが散弾のようになって襲いかかってくる。


 やばい! あんなの俺じゃガードしきれねえ!


 避ける暇もなく、俺は大ダメージ覚悟でカラーボールは割られないように腕でカラーボールを守る姿勢に入る。


「“マリン・コクーン”!」


 だが、すごいジャストタイミングでその声とともに俺の周囲に水のバリアが張られ、“グラベルショット”から身を守ってくれた。


「皐さん! 古藤さん!」


 後ろを振り向くと、そこには皐さんと古藤さんが立っていた。

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