8.体育祭⑬ 業火の極意
「ちっ……」
軽く舌打ちをする木ノ崎先輩。
「大丈夫?」
「はい、助かりました……」
「……いいところで邪魔してくれるじゃねえか、皐……!」
「全く……絡まれたら逃げろって言ったのに」
「はあ……すいません」
「大分消費してるみたいだね。……“リカバリー”!」
木ノ崎先輩先輩と対峙そした時に速攻で攻撃仕掛けたこと言ったら怒られそうだなと思っていると、古藤さんが俺にマナを回復する魔法、“リカバリー”をかけてくれた。
「詠唱なしだから少ししか回復できてないだろうけど……」
「いえ、ありがとうございます」
「くそ……面倒なことしやがって……。おい! 今は俺とこの1年が戦りあってたんだ! てめえらの相手は後でまとめてしてやっから邪魔すんじゃねえ!」
「……あんたバカなの? 肩書きだけとは言え、大量のポイント持ってるかもしれない大将目の前にしてはいって言うバカがどこにいんのよ?」
「何だと!? おい1年! てめえもサシの方がいいよな!? この俺に先制攻撃してきたくらいだしよ!」
「えっ?」
「いや、そんなことはないです」
「ちょ、日向君?」
あそこの場面で突撃したのは、逃げるよりも隙をついて攻撃した方がいいと思ったからである。
別に、木ノ崎先輩とサシでやりたかったとか皐さんの言うことを聞く気がなかったとかじゃなく、ただそれが最善策だと思っただけだ。
「俺はとりあえず勝てればそれでいいんで」
何か言いたげな皐さんをよそに、俺は“火手裏剣”を木ノ崎先輩に向かって2発放つ。
「ちっ……!」
木ノ崎先輩は、“火手裏剣”を身を引くようにしてかわす。
「“水砲”!」
「めんどくせえ! “ストーンエッジ”!」
そこを、追撃で皐さんが水の砲弾を手のひらから放つが、木ノ崎先輩は地面から複数の先の尖った岩の柱を出現させ、“水砲”から身を守る。
「稲妻駆け抜けるが如く、敵を貫け、“サンダーアロー”!」
「効くか!」
今度は古藤さんが“サンダーアロー”を木ノ崎先輩に真っ直ぐと撃つが、木ノ崎先輩は再び“ストーンエッジ”を使って“サンダーアロー”を防いだ。
「“グラベルショット”!」
「“マリン・コクーン”!」
「“砂刃波”!」
「“火炎刃”!“噴火鉄拳”!」
「“岩石拳”!」
「雷の力よ、空を迸れ。“サンダーボール”!」
「“ストーンエッジ”!」
それからも、お互いの攻防は続くが中々木ノ崎先輩は隙を見せてはくれない。
3対1なのに何ていう人だろうか。
だが、さすがに疲れてきたのか少し息が上がってきている。
「……はあ、はあ……。いい加減しつけえな……。“砂嵐”!」
3人を相手にじれったくなったのか、木ノ崎先輩は地のフォースの大技“砂嵐”を出現させ、俺たちを砂を纏った竜巻が周囲にすさまじい砂煙を上げながら襲いかかってきた。
『何かすごい技が出たー!!あれをくらったらひとたまりもないですよ!』
「ちょ……どうしよう!」
皐さんが少し焦った表情をしている。
「古藤さん、俺にもう1回“リカバリー”掛けてもらえます?」
「あ、ああ、“リカバリー”!」
古藤さんのリカバリーによって俺のマナが再び少し回復する。
……よし、これくらいなら威力は低いけど出せるだろ。
「ありがとうございます」
「でもどうする気だ?」
「こうするんですよ……」
俺は回復したマナを全て波動に変換させる。
そして、全波動を両手に集めて……。
「業火の極意……」
それを皐さんたちに当たらないようにかつ、全方位に放つようにして腕を思いきり振り払った。
「“朱凪”!」
俺の腕の波動が紅蓮に燃える炎となって、それが周囲のもの全てを薙ぎ払うように放たれる。
“朱凪”が“砂嵐”とぶつかると、衝撃波が辺りに響いた後、“砂嵐”は消え去り、一陣の風が砂煙を払っていく。
「な……んだと……!」
“砂嵐”が破られるとは思っていなかったのか、驚愕の表情を見せる木ノ崎先輩。
「はあ……はあ……」
もう全身のマナが残ってないため、立っているのもやっとな俺は両手を膝について息を整える。
『な……何なんだー! 一体何なんだー! 砂煙でよく見えませんでしたが何やらすごい技が木ノ崎さんの“砂嵐”を打ち消したぞー! 何者なんだあの1年は! 後でライン教えてください!!』
司会のそんなふざけた声が聞こえたところで。
―――ビーーッ!!
『おっと! ここで大合戦終了でーす!! 私もつい見いってしまい、時間と実況を忘れてしまうようなすごい合戦でした!! 只今の競技の集計を致しますので、選手の皆さんは自分の組団の陣地にて待機していてください!』
「ふう……」
俺は大合戦が終わると、そのままその場にへたりこむように座った。
古藤さんと皐さんが援護に来てくれた直後、タイマーで残り時間をチラッと見ておいてよかった。
あの時見ていたおかげで、木ノ崎先輩が“砂嵐”を出した時点で残り時間が少ないのがわかっていたから“朱凪”を躊躇なく放つことができた。
もし、時間がまだ残ってる状態だったら、きっと“朱凪”はリスクが大きくて使わなかっただろう。
業火の極意・“朱凪”は、フォースの中でも上級のさらに上、極級と呼ばれるクラスの大技で、中学を卒業した辺りで習得したまだ覚えたての技だ。
そのせいか、まだ完全に扱えているとは言えず、波動の消費量も普通に使うならば“エアロブースト”よりも多い。
今回は、既に波動を消費した状態で強引に使ったので、威力も通常よりも低く“砂嵐”と相殺で終わってしまったが、結果オーライである。
「大丈夫か? ……大気に溢れるマナよ、この者に力を分け与えたまえ。“リカバリー”」
座り込んだ俺に古藤さんが今度は詠唱付きのしっかりした“リカバリー”をかけてくれ、俺の体に力が動ける程度には戻った。
さすがに、マナが空っきしの状態だったので全快とまではいかない。
「何回もありがとうございます」
「いいよ、こっちも助かったし……」
「ねえ! 今の技何!? どうやったの!? というか! 豪に対して逃げろって言ったのに真っ先に攻撃したってどういうこと!」
「待ってください! 同時に何個も聞かないでください」
興奮したような表情から怒ったような表情からところころ顔を変えて質問してくる皐さん。
「……おい」
そんな皐さんに少し困っていると、木ノ崎先輩が声を掛けてきた。
「はい」
「何だ木ノ崎、何か用か?」
「お前にはねえよ。おい1年、名前は?」
「……日向南です」
「日向か……覚えたぜ。またな」
木ノ崎先輩はそれだけ言うと、無表情のまま背を向けて青の陣地へと歩いていった。
「……何あいつ。日向君のこと覚えてどうする気?」
「さあ……」
「でも、どうせろくなことじゃなさそうだし気を付けてね」
「……そうですね」
何となくだが、別に大丈夫な気もするけど。
『えー、そこでいつまでもたむろってる赤組の人たち。動けるのならさっさと陣地に戻ってくださーい。集計できませーん』
「……さ、注意されたし僕らも戻ろうか」
俺は古藤さんに差しのべられた手を持って立ち上がる。
「結果発表の時間だ」




