7.皐月の季節⑦ 半分巻き添え
「……え?」
「お? もしかして驚いた?」
「まあ……」
俺がそんな返事をすると、皐さんは笑いながら語り始めた。
「そっかそっか。……私と豪は小学校からの付き合いでね。豪は昔からあんな感じでバカばっかやらかしてたから、私がいつも引っ叩いて説教してたんだよね。小学校のときはそんな感じだったかな」
「はあ」
「それで、中学でも色々あって、高校に上がるときに、「あのバカ息子が冒険者になったら何やらかすかわからないから良かったら面倒見てくれ」って言われて豪のお母さんに頼まれて、仕方なしに一緒のチームになってあげたってわけ」
「へえ……」
「で、そっからが大変で大変で。いつもあのバカの尻拭いみたいなことやらされるし、そんな私の苦労も知らずにあのバカは次々と問題起こすし……」
「ははは……」
「ダンジョン行けば、モンスターの群れに突っ込んでいって喧嘩は売るわ、クエスト受ければ器物破損でクエスト料差し引かれるわ、もっと周りの迷惑考えろって話だよ」
ただの愚痴になってきてる……。
そんなことを思いつつ皐さんの話を聞いていると、屋上の扉がバンッと勢いよく音を立てて開いた。
「やっと見つけたぞ皐!!」
扉から現れたのは、金髪でこちらにメンチを切っているヤンキー風の男、木ノ崎豪なる3年生だった。
噂をすれば何とやらである。
「……何よ。せっかく良いとこだったのに」
皐さんは木ノ崎先輩を見るなりあからさまに嫌そうな顔をする。
「ああ? ってかその目付きの悪いやつ誰だよ」
木ノ崎先輩は俺を見て少し機嫌悪そうにした。
というか、目付きが悪いとかあんたに言われたくないんだが。
「あんたの方が目付き悪いっての。この子は日向南君。アビリティ科の1年生で私と同じ赤組団よ」
「あ? 1年かよ。何でそんなのと一緒にいるんだよ?」
……仮にも初対面の相手に対してそんなの呼ばわりかい。
「……あんたさあ、何でそんな口の聞き方しかできないわけ? 昨日も昇司君に喧嘩吹っ掛けてたらしいし……。もうちょっと大人になれば?」
「……それだよ」
「あ? どれよ?」
「てめえ、くそへっぽこの古藤を組団長として推したそうじゃねえか。何考えてあんなのトップにしたんだ? 頭沸いてんのか?」
「あんたなんかを比べる対象にするのもおこがましいくらい昇司君はリーダーとして立派だよ。逆にあんたが組団長やってる青組の人たちの方がかわいそうだっつの」
言い合いが加速していく2人。
さすが付き合いが長いからなのか、木ノ崎先輩に一歩もひけをとらない皐さん。
……俺、帰っていいかな?
「上等だこら! 当日にお前ら赤組を完虜なきまでに叩き潰してやるからな! 覚悟しとけ!」
しかしそう思った矢先、木ノ崎先輩はそう言うと踵を返して屋上を去っていった。
「……ふう。ごめんね、変なとこ見せちゃって」
木ノ崎先輩がいなくなったあと、大きなため息を着いたあと、皐さんはこっちを見て申し訳なさそうな顔をしていた。
「いや、そんなことは……」
「そんなことはあるって顔してる」
「……すいません。途中で帰ろうかと思ってました」
「素直でよろしい。……しかしあれだね、こうなった以上、青組には絶対に負けられなくなったね」
「え?」
「今回のはさすがに私もカチンッて来ちゃったからね。そろそろあの大バカの鼻っ柱ぐちゃぐちゃに折ってやんないとね」
笑顔を見せつつも、声からして相当お怒りのご様子である。
まあ、俺も少しムカついたけど。
「と、いうわけで。日向南君、さっき知り合ったばかりだけど、同じ赤組である以上、あの大バカに負けないよう、君にもめちゃくちゃ頑張ってもらうからね!」
「……え?」
「正直、巻き込んですまない気持ちでいっぱいだよ……。私も、最後の体育祭は精一杯楽しもうと思ってた。けど、あんなことを言われた以上、少なくとも青組には負けられなくなったし」
「いや……確かに俺もさっきの言葉にはムカ……少しイラッときましたけど、何も相手の挑発に乗らなくても……」
「だって、ここで挑発に乗ってあいつのこと負かさないと昇治君がまた余計に絡まれることになっちゃう」
「……え?」
予想外の言葉に一瞬戸惑う。
「昇司君、医大目指してて1年生の時からずっと勉強してきてるの。この体育祭の期間中も組団長の仕事と両立させながら。今年は受験生だから特に重要な時期なのに、そんなところであのバカに絡まれでもしたら、受験に響いちゃうかもしれないから」
「医大……」
皐さん、そこまで考えて……。
「……それにここで負かせば少しは大人しくなって扱いやすくなるかもしれないし、皆にも迷惑をかけることもなくなるかもしれない。ここで勝つことは様々なかもしれないメリットがあるんだよ!」
そっちが本音か。
皐さんの目が燃えるように光っていて全身が闘志のようなものに満ちていた。
……いや、やっぱりただ怒ってるだけのような気がする。
そんな俺の考えを知ってか知らずか。
「というわけで、期待してるよ、日向君!」
ニコッとウインクしながら俺に言ってきた。




