7.皐月の季節⑥ 空腹と皐さん
次の日の昼休み、母ちゃんが寝坊したため弁当がない俺は、購買に昼ご飯を買いにきていたのだが……。
噂には聞いてたけど、すごいことになってるな……。
購買には人だかりができていてとても入りづらくなっていた。
星桜高校の購買はコンビニみたいな内装の、学校の中に併設されている施設で、生徒数が多いというところから広めの造りにしているらしいが、そんなのは意味をなさないような混みようである。
人だかりが苦手な俺にとっては近づきたくない場所であるが、同じくらい混雑している食堂の中でご飯を食べるのはストレスで死ねるので、意を決して購買の中へと入っていく。
そして、人の波に流されないように進んでいくのだが……。
「おい! 俺が先だぞ!」
「ちょっ、割り込みしないで!」
「きゃ!? 今私のお尻触ったの誰!?」
悲惨な状況である。
既に教室に戻ってまったりしたいところであるが、昼抜きのまま午後を迎えるのは健全な男子高校生にとっては辛いこと。
どうにか商品棚のところまでたどり着いた俺は、さっさと買って戻ろうと考えていた。
のだが。
「……あれ?」
そこの棚には既に何もなく、綺麗になっていた。
しょうがない、弁当がないならパンとおにぎりでも……。
そう思い、パンコーナーに向かうが。
「……ない」
ならおにぎりはと思い見るが。
「……」
……まじか。
既に購買の食べ物は売り切れ状態で、お菓子や飲み物が残っているくらいだった。
この、レジに並ぶ長蛇の列の人たちの分で無くなってしまったのだろう。
とぼとぼと、人込みを避けながら購買を出ると解放感に溢れ少し安堵する。
「はあ……」
そして俺は一息着いた後、あまり行きたくない食道へと行くことに決めた。
購買で時間を潰した分、食道は少しは空いてきてる時間だろう。
そう思い、とぼとぼと歩き始めた時だった。
「あれ? 昨日昇司君と一緒にいた子じゃない?」
不意に声を掛けられたので、声の方向へと振り返るとそこには昨日古藤さんを呼びに来ていた皐さんと呼ばれていた女子が購買の袋を両手に立っていた。
最近、俺の行きつけの昼ご飯スポットとなりつつある屋上。
そこで俺は、皐さんが買った昼ご飯を分けてもらえることになった。
俺が目に入った時に元気がなさそうなのが気になったらしく、俺が正直に話したら今の状況になったというわけなのだが……。
「あの、本当にいいんですか?」
「いいのいいの! 後輩が困ってるんだもん! 見過ごすわけには行かないよ!」
そんなことを笑顔で言う皐さん。
「それに……君とは少し話してみたかったし」
それはどういう意味でだろうか。
男である以上、そういうこと言われるとドキッとしてしまうんですけど……。
「あ……えと……」
この人のことは何て呼べばいいのだろう。
古藤さんは皐さんって呼んでたけど、見ず知らずの後輩にいきなり名前で呼ばれるのはどうなんだろうか……。
皐さんの言葉のせいで余計に考えがこんがらがっていると、何かを察したのか、
「あ……そう言えばまだ自己紹介してなかったね。私は3年Ⅰ組の笹木 皐。皐さんでいいよ。よろしくね、日向南君」
と、にこやかに言ってきた。
どうやら皐さん呼びでいいらしい。
というか。
「俺のこと知ってるんですか?」
「知ってるも何も、同じ組団じゃん。それに昨日昇司君と一緒にいるの見たし」
話を聞くと、どうやら俺と別れたあと、古藤さんは中庭での出来事を皐さんに話していたらしい。
というか、聞いている限りだと皐さんがほぼ強引に話させたっぽいが。
その時に、俺のこともちらっと聞いて、騎馬戦のやつだとわかり興味をもったということである。
そんな皐さんに俺は疑問を投げかける。
「……皐さん、俺と話してみたかったっていうのは?」
少しの緊張と期待を胸にして聞いてみる。
グウ―――
しかしそれを聞いた直後、空気を読まない俺の腹が空腹音を鳴らす。
「ははは、まずは食べようよ。ほら、好きなのどうぞ」
「……すいません、頂きます」
恥ずかしくなった俺は、好意を素直に受け取って、パンを分けてもらった。
パンをもぐもぐ食べる俺と皐さん。
話しかけてもいいものかと考えていると、皐さんの方から口を開いてきた。
「さっき私が君と話してみたいって言ってたことなんだけどね」
「……はい」
何だろう、すごい気になる。
「昇司君から聞いたんだけど、昨日昇司君がバカに絡まれてるところ助けてくれたんだってね」
……あ、そっちか……。
「いや、そんな大層なもんじゃないですよ」
「ありがとね。昇司君、忍耐強いところあるから時々あのバカに絡まれちゃうの。私が見つけたらいつも追い払ってるんだけど」
あの金髪ヤンキー追い払うって、この人中々すごい人なんじゃないだろうか。
「全く、体育祭が近いっていうのに困ったもんだよ。しかも、組団長同士の喧嘩なんてさ」
「!? ごほっ!」
「大丈夫?」
皐さんの言葉にびっくりして思わず咳き込んでしまう。
「ごほっ! ごほっ! ……ふう、大丈夫です。すみません。ていうか、今団長同士って……」
「あれ? 知らなかった? 昨日昇治君に絡んでたバカ、一応青組団の団長だよ」
「そうなんですか?」
あのヤンキー、組団長だったのか。
てっきり体育祭なんて馬鹿らしくてやってらんねーとかいうタイプのヤンキーだと思ってた。
「木ノ崎 豪。私と同じ3年生でアビリティ科。そして、私と同じ冒険者チームのバカよ」




