7.皐月の季節④ 意外
驚いた……。
まさか、騎馬戦はおろか体育祭すら知らないとは。
鹿央に騎馬戦の説明をし終わった時だった。
「―――って感じだ。分かったか?」
「ふむ……。理解した。礼を言う」
「というか、騎馬戦知らないなんてな。中学の時の体育祭とかでやらなかったのか?」
「……そもそもであるが、体育祭とは何なのであるか?」
「……は?」
話を聞くと、鹿央はここに入学する前は他の国で暮らしていたと言う。
その暮らしていた国では、こういう文化は一切なかったらしい。
こいつの脳内設定の話ではないかと疑ったが、さっさと話を進めたかった俺は鹿央に体育祭がどういうものか渋々と説明したのだった。
そして現在、俺たちは騎馬を組んで組団内で騎馬戦の練習をしていた。
組み方は最初、騎馬戦のルールを知ったばかりの鹿央には下で騎馬役になってもらおうと考えたのだが。
「ふっ……我をぜひとも騎手に。昔の血がたぎるわ……! ふっふっふ……」
そう言って譲りそうになかったので、鹿央を騎手にし俺が前衛、学と武井がそれぞれ左と右の後ろの騎馬をすることとなった。
こいつが頭で大丈夫なのかという不安が頭をよぎったのだが……。
「左に旋回! あそこの騎馬を狙うぞ!」
「あいよ!」
「……横で我らを狙っているのがいるな。攻められないように少し迂回するぞ!」
意外も意外。
俺たち騎馬に適格な指示を出し、さらには周囲の警戒を怠らず、自分は鮮やかに相手のハチマキを奪うという活躍ぶりであった。
鹿央の話が中二病設定でなければ、騎馬戦をやるのが初めてなはずだが、俺のざっくりとした説明で騎馬戦のルールを把握し、どういう立ち回りをすればいいのかというのを理解したということだ。
こいつ、もしかしてとてつもなく頭がいいんじゃ……。
そう思った時、俺はふと思い出す。
……名前からして明らかにこの国のやつじゃねーか。
一瞬信じかけてしまったが、やっぱりただの中二病か。
……ま、これだけ動けるなら本番でも問題ないか。
騎馬戦練習で猛威を振るった俺らは赤組団内で大きな期待を寄せられ、色んな人に喝采をもらったあと、組団練習は終わりを迎え、解散した。
「ふっふっふ、あんなに喝采を受けたのは久々である」
「そうだなー。まさか鹿央があんなにできるなんてな。本当に騎馬戦知らなかったのかよ?」
「うむ。騎馬戦は知らなかったが、これに似たことをよくやっていたのでな。ふっ……懐かしいな」
まるで、遥か昔のことを思い出したように何かを懐かしむ鹿央。
「……改めて礼を言おう。ヒナタ、何が起きているのかわからなかった我に体育祭と騎馬戦について教えてくれたことだけではなく、この我を誘ってくれたこと、深く感謝する。そして、ハセガワ、タケイ、お主らにも……これからよろしく頼むぞ」
「おう、よろしくな」
武井はそう言って鹿央と握手を交わした。
最初は鹿央のキャラに戸惑っていたがすぐに慣れ、友好的だった。
今日、ずっとこいつと騎馬を組んでいてわかったが、武井はとてもいいやつである。
こうして、初めて話した俺たちに気兼ねなく話しかけ、かなり癖のある鹿央にも変わらず接していた。
鹿央は鹿央で、中二病というだけでこれまで関わろうとしなかったが、話してみれば案外素直で話の分かるやつだった。
まあ、それでもこの話し方とか中二病設定はどうなんだと思うところはあるが。
「……どうしたのだ? そんな顔をして」
「……いや、何でもない」
俺と学は、元々しょうがないかというスタンスで鹿央を誘ったので、素直にお礼を言われたことに申し訳なさを感じていた。
「と、とにかくさ、俺たちの騎馬は強いんだしこの調子で本番も頑張ろうぜ!」
話を逸らすようにそう言う学。
「……そうであるな。うむ、よろしく頼むぞ」
その後、俺たちは武井と教室前で分かれ、学と鹿央はすぐに帰ってしまったので現在俺は教室に1人でいた。
組団での練習時間は決まっているため、晃太もそろそろ戻ってくるはずである。
あいつに騎馬戦はもらったと勝利予告をしなければならない。
普段なら先に帰ろうかと考えているところだが、体育祭の期間中はさっきみたいに放課後は組団で練習するので、平日にダンジョンに行くこともないので急いで帰る必要もない。
……トイレ。
俺はトイレに行きたくなり、教室を出てトイレへと向かった。




