7.皐月の季節③ もう1人の中二病
翌日。
授業が終わり放課後になると、ゴールデンウィーク明けだというのに活気づいた声があちらこちらから聞こえてくる。
というのも、ゴールデンウィークが始まる少し前から組団ごとに体育祭に向けて練習しているのだが、休み明けということと、3年生が最後の体育祭ということで気合が入っているというところらしい。
「……あーあ、折角の休みが終わったってのに元気だなー」
俺の隣にいる学はそう言って欠伸をした。
学は俺と同じ赤組になったのだが、仲の良いやつが同じ組にいて良かった。
1つの組団につき、アビリティ科からは1クラス5人程で分けられるのだが、Ⅰ組の他の面子と言えば須藤と冬木という2人の女子。
「ふっ……」
そして、1人黄昏ている男。
入学初日に痛い発言をしまくった中二病その1、鹿央 一である。
女子2人とはろくに会話したことないし、鹿央に関して言えば、自ら関わろうとする挑戦的な人物は残念ながらいなかったため、俺の見る限りではぼっち生活を送っている。
正直、この面子で学がもしいなければ色んな意味できつかったことだろう。
……さて、現在は我が赤組団の組団長、古藤 昇司先輩が今日練習する種目の説明をしているところである。
古藤さんは、いかにも真面目そうな雰囲気の眼鏡をかけている人で、練習が始まってから今まで見てきた印象だと優しい人というのが最初に思い浮かぶ。
前に立って話す時も、優しい口調でわかりやすい説明をしたり、練習中にふざけて遊んでいるのがいても怒らずに練習するように促していた。
しかし、逆に言えば気が弱そうにも見え、何でこの人が組団長をしているんだろうと思うこともたまにある。
「おい……おい! 南!」
「え?」
「「え?」じゃなくて! これから騎馬戦の練習だって」
「ああ、悪い、話聞いてなかった」
「ったく、頼むぜ……」
学は呆れたような顔をする。
「じゃあまずは、男女別で4人1組でグループを作ってください!」
古藤さんの指示が、はっきりとした声で組団全体に広がる。
「だってよ」
「じゃあ俺と学は組むとしてもあと2人か」
「そうだな……」
騎馬戦は組団対抗で、学年関係なしにやるので誰か適当な先輩に頼むのもありだけど……。
「なあ」
どうしようか考えていると、俺たちに声を掛ける人物が1人。
「ん? ああ、確かⅡ組の武井だっけ?」
「ああ。あのさ、お前らのとこってまだ空いてるか?」
「おう、空いてるぞ」
「だったら俺も入れてくんね?」
「だってよ南」
「ああ、よろしくな、武井」
「よろしく」
早速仲間が1人増えた。
Ⅱ組のやつで、名前は確か武井 諒。
晃太とそこそこ仲が良いって聞いたな。
「いやー、助かったぜ。Ⅱ組の赤組男子俺しかいないから焦ってさ」
そういえばそうだったような気がする。
先生たちもそこら辺気を配ればいいのに。
「あと1人か……」
「そうだな……」
あと1人。
誰を誘ってみるか周囲を見渡す俺と学。
すると、それを見た武井が一言。
「なあ、あいつは? Ⅰ組だろ確か」
そう言って視線を向けた先には、キョロキョロとしている鹿央の姿があった。
「……やっぱりそうなるか」
「だよな……」
俺と学が同時にため息をつくと、武井が首を傾げる。
「ん? あいつはまずいのか?」
この言い草からすると、武井は鹿央がどんなやつなのか知らないのだろう。
まあ、クラスが違うから仕方ないが。
「うーん、何というか……」
「何? もしかしてあいつ嫌われてんの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
困った顔で学がこっちを見ると、何かを思いついたような顔をした。
何となくだが嫌な予感がする。
「南」
「嫌だ」
「まだ何も言ってねえよ」
「……一応聞いてやる」
「お前さ、福山さんと一緒のチームだろ? ということはあの手のキャラには少なくとも俺たちよりは慣れているはずだ」
「……だから?」
「南が声掛けて来てくれ」
まあ、そんなことだろうと思った。
「……はあ、しょうがねえな。ちょっと待ってろ」
俺は渋々と未だにキョロキョロしている鹿央の元へと向かう。
まあ、同じクラスだし、放っておいたら何となく可哀想だしな。
……変に痛い発言されたくないというのも若干あるが。
「……鹿央」
鹿央の近くまで寄って声を掛けると、こちらに気づいて振り返って来た。
「……確か、ヒュウガミナミと言ったか?」
「ひゅうがじゃねえ。確かに読みとしてはそうも読めるが、俺は“ひなた”南だ」
「それは失礼。で、ヒナタ、この我に何の用であるか?」
「……お前、騎馬戦組む相手いんのか?」
「騎馬戦……そう、確かさっき話していた眼鏡の者もそう言っていたな。……1つ聞きたいことがある」
「何よ?」
「主らの言う騎馬戦とは何なのだ?」
「……はい?」
「騎馬戦と言う割には馬らしき姿が見えぬし、4人1組を組めというのもわからない。一体どういうものなのだ?」
……こいつ、まじか。
騎馬戦を知らないという鹿央は包帯をぐるぐると巻いた右手を顎に当てる。
その顔を見てるとどうやら本当そうである。
「……はあ。……いいか? 騎馬戦っていうのは---」
俺はしょうがなく、この中二病に騎馬戦の説明をしてやることにした。




