4.影の謎③ 極東魔法
「……風景同化の術?」
「俺の忍術の1つだ。周囲の人や生物なんかが俺たちを俺たちとして認識できなくなる術だ」
「……つまり、どういうことですか?」
美穂は師匠の説明にいまいちピンと来なかったのか、頭に?マークを浮かべてそうな顔をした。
「つまりは、今この場所に誰かしらがいるというのは認識できているが、それが俺たちだと認識できなくなるってことだな。ミスディレクションみたいなもんだ」
「ミスディレクション……そんなこと出来るんですね。……っていうより、あれ? さっき南、術って言ったよね?」
「ん? ああ。師匠は極東魔法……忍術使いなんだ」
忍術は字の如く極東、つまりこの国特有の魔法の一種である。
魔法は通常、詠唱を用いて発動するが、忍術は詠唱の代わりに印というものを結んで発動させるので、印の形や意味がわからないと相手からしたらどんな術魔法が飛んでくるのかわからないという強みがある。
まあ、最も習得するのも非常に難しいため、忍術を会得する人は現代では滅多にいないが。
「忍術……。まさかとは思ったけど、今でも使う人ってホントにいるんだ……。昔の話だけのものだと思ってたけど」
「ま、今のご時世だ。忍術使うやつなんか早々といねーからな」
「で、師匠。話はもう終わりか?」
「ああ、とりあえずは終わりだな。ま、とりあえず、あの洞窟には行くなってこった」
師匠はそう言ってから、一瞬の沈黙の後、何かを思い出したかのような顔をした。
「あ、そうだ。お前ら3人でチーム組んだって言ったよな?」
「ああ、それがどうしたんだよ?」
「全員明日の予定空いてるか?」
「あ? ……俺は特にないけど」
「俺もないかな」
「私もないです」
「そうか。それはちょうど良かった」
「ちょうど良かった?」
「ああ、お前ら、明日俺とクエスト行く気ないか?」
「クエスト!?」
師匠の言葉で一番最初に反応したのは晃太だった。
「いいの!?」
「ああ、お前らが良ければだが」
クエスト。
それは、ギルドが色んなところから仕事の依頼を請け負い、それを冒険者が引き受け、達成すると報酬がもらえる短期バイトみたいなものである。
クエストを受けるには以下の条件がある。
・クエストを受注できる冒険者はランクC以上のものとする。
・受注できるクエストは、受注した冒険者、またはその冒険者のチームでクリアできるとギルドに認められたものである。
・クエストを受ける際、そのクエストに応じた手数料を支払うこと。
・尚、クエストリタイアが多い冒険者、またはチームにはクエストによっては受注をギルド側が拒否する場合がある。
まあ、こんな感じなわけだが、これを見るとわかると思うが、俺たちは全員まだDランクであるため、クエストを受注することができないのである。
だから、Cランクになるまでクエストはできないと思っていたが……。
「なあ師匠、そもそも俺たちがクエスト行ってもいいのか?」
「問題ない。“クエストを受注できる冒険者”はCランク以上だ。つまり、そのクエストがDランクの冒険者がいても問題ないなら大丈夫ってわけだ。実際、クエストのランクもDまであるしな」
「……へえ、そうだったのか」
「そもそも、Dランクの冒険者がクエストを受注できないのは、Dランクには初心者の冒険者が多いというところからだ。Dランク冒険者だけではクエストを行かせるのは危ないっていうギルドの意向だからな。だから、Dランク冒険者がクエストに行っちゃいけないなんてどこにも書いてないだろ?」
師匠の言葉に納得する俺。
晃太はへえと言いながらニコニコとしている。
よっぽどクエストに行けるのが嬉しいらしい。
「でも……私たちが一緒に行って、その……邪魔にならないでしょうか…?」
「何言ってんだ美穂ちゃん。俺は、お前らなら大丈夫だと思ったから誘ってるんだぜ。ぶっちゃけ、実力だけなら少なくともCの上位クラスはあると思う。あくまで俺の目安だが」
「そ、そんなことはないと思いますけど……」
「美穂ちゃんは謙虚だな。言っとくけど、あの“影”を倒す直前まで追い込めるDランクの冒険者なんて普通いないからな? ……まじで」
「はあ……ありがとうございます……」
「そうそう。人の厚意は素直に受け取っておくもんだ。……で、南。何でお前はそんな驚いた顔してるんだ?」
師匠は俺の方をジーっと見る。
「……いや、師匠が人を誉めるなんて何かあるんじゃないかと思って」
「おい。お前、俺のこと何だと思ってるんだ」
「人のことを誉めるなんてことしない大人げなしの負けず嫌い」
「……はっきりと言いやがったな。覚えとけよ」
師匠は何か企んだ顔をして俺を見る。
あ、後でめんどくさいパターンに入るやつだ。
余計なこと言わなきゃ良かったわ。
「……で、どうすんだ。行くのか? 行かないのか?」
「もちろん」
「行くぜ!」
「よろしくお願いします」
こうして俺たちは、突然ではあるが初クエストへ行くこととなった。




