↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/35

第二十一話「風子と読子の決闘」Part3

「風子ちゃん!」


 読子は憑き物が落ちたように、いつもの読子に戻って風子を抱え起こした。


「どうして!?風子ちゃんだって私の事憎しんでたはずやのに、どうして庇ったりしたん!?」

「憎かったよ。でもそれだけだよ。親しいはずの人を殺したいって、これまでに何度も思った事ある。

 でもね、憎しみの気持ちを込めて人を傷つけた事は一度だってないよ」


 風子の発言を聞き、読子の目からボロボロと涙が零れ落ちた。自分だけがただ憎しみを一方的に風子にぶつけていた事に気がついたのだ。


「私は何て事を……憎しみに取り憑かれて風子ちゃんを何度も何度も殴りつけてしまった。なのにそれを風子ちゃんは憎しみで返さずに、じっと耐えてたなんて……!」


 読子は泣きながら風子を抱きしめた。

 それは懴悔(ざんかい)の意味もこもった抱擁(ほうよう)だった。


 そんな二人の前に、もう一人の影が現れた。


「取り込み中すまんが、早く風子を医務室に連れていきたいのだが」


 それは紅葉だった。


「そうやった!でも道玄坂さん、危ないで!まだ誰かがこっちを狙っとるかもしれん!」

「それは多分大丈夫だろう。木下とその連れが、校舎の屋根から放たれた矢を見ていたからな。今頃お前らを狙ってた輩は締めあげられている頃だろう。さぁ早く風子を」

「分かった!」


 読子は、我が子をおんぶする母親のように、ぐったりともたれかかる風子を連れて医務室に向かった。



                *



 一方野薔薇とミキは、矢を放った犯人を追いつめている所だった。

 風子の肩を射抜いた犯人は腰に巨大なリボンの付いた袴を着た女生徒だった。


「弓道部改め、弩道(どどう)部部長・弩華音(いしゆみかのん)です。私は逃げも隠れもしません」

「コソコソ隠れて風子狙ってた癖に何言ってんだこのドチビ!」


 野薔薇は弩(いしゆみ)に近寄って脅しにかかった。

 が、弩は全く動じていなかった。


「遠くから射抜くのがボウガンの特性。他の武道のように『いざ尋常に』とはいかないわ。

 しかし馬鹿な女ね。知らんぷりしていれば矢は月原読子に当たっていたというのに、どうして自分から当たりに行ったのかしら。まあ私としては両方消えてくれるのが有り難いんだけど」

「てめぇには一生分かんねぇよ」


 野薔薇は拳を鳴らして弩の元に近づいていった。


「私に少しでも触れてごらんなさい、私を守る部員達があなたを串刺しにするから」

「!?」


 野薔薇は周囲を見回した。すると、遠くの方に弩と同じ袴を着た女生徒がこちらを狙っていた。


「私に触れる前に気づいて良かったわね。この学園に存在する地下組織のリーダーである私に何かあってごらんなさい。卒業まで病院で過ごす事になってたわよ」

「ほう、そりゃあ楽しそうだねぇ。生憎私らはそういう腐った権力の奴隷どもをぶちのめすのが仕事なんでね。親玉を捕まえたとあっちゃあ、ますます無事に帰すわけにはいかなくなったってもんよ」


 野薔薇は弩の胸ぐらを掴み、殴ろうと振りかぶった。

 しかしその瞬間、微かな発射音とともに、ボウガンの矢が野薔薇とミキに襲いかかった。


 が……その矢が野薔薇達に当たる事はなかった。

 野薔薇はenmaの両手で、ミキは銀色に輝く右手でボウガンの矢を素手で掴んでいたのである。


「嘘でしょ!?ヘビーボウガンの矢を受け止めるなんて!」

「enmaににとっちゃあ、こんなもんキャッチボールの球みてぇなもんよ。なぁミキ」

「いやバラっち……私の『シルバーアームズ』は金属探知機になるからたまたまできただけだよ。勝手に危ないことしないでよ!」

「お前なら出来ると思ってたさ。見回したらこっちを狙ってるスナイパーが3人だったからな。受け止めるくらい余裕だと思ったのさ。

 さぁ可愛らしいお嬢さん、この矢であんたをキズモノにしてやろうかぁ!?」


 野薔薇は受け止めた矢で再び弩を脅した。


「ひぃ!ごめんなさい!お金でも何でも渡すから許して!」

「風子があんな目に遭ったんだ。私らの怒りがそんなもんで収まるかよ!二度と私らにちょっかいかける気を起こさねぇようにしねぇとなぁ!?ミキ!」


 野薔薇は弩を羽交い締めにした。


「あれをやれ」

「オッケー」


 ミキは銀色の右手をドロドロに変化させたかと思うと、弩のお腹に手を突っ込んだ。


「クイックシルバー!」


 するとミキの銀色のドロドロが光を放ちながら、弩のお腹の中にズブズブと入っていった。


「オエェェェェェェェ!!!!」


 次の瞬間、弩は吐瀉物を撒き散らしながら、お腹を抑えてその場に倒れこんだ。


「相変わらず悲惨だな、お前の水銀毒」

「本当は金属と一体化する為の技なんだけどね。人体に使うと体が異物と認識して悶絶しながら嘔吐するらしいんだ♪」

「『♪』じゃねぇ!相変わらずドSだなお前は」

「ドSはバラっちでしょ!私はどっちでもいけるの!」

「だから何なんだよ!」


 野薔薇はのたうち回る弩を少し哀れそうな目で見た後、気を取り直して周囲に注意を向けた。


「さて、遠くからコソコソ狙ってるやつらを始末しに行きますか」

「や、やめ……矢倉(やくら)!逃げなさい!」

 

 弩は苦しみながらも大声を上げたかと思うと、また再び嘔吐を繰り返しながら地面に倒れた。

 野薔薇は、弩の髪を引っ張って無理やり顔を上げさせた。


「部員想いなんだなてめぇ。

 お前の叫びに免じて周りの奴らは許してやるよ。でも次私の仲間にちょっかいだして見ろ。こんなもんじゃ済まさねぇからな」

「ひゃい……」


 野薔薇が手を話すと、弩は顔面を地面に打ち付け、そのまま動かなくなった。

 図らずも野薔薇達は、本日のギルド潰しのノルマを達成した事を喜んだ。



                *



 一方、医務室に連れられた風子は肩で包帯をぐるぐる巻きにされた状態でベッドに座っていた。


「風子ちゃん、大丈夫?」


 読子は浮かない顔で風子を身を案じていた。


「うん、当分レスリングは無理だろうけど、他の事ならできるし」

「私のせいや……私が決闘なんて申し込んだから」


 読子は再び涙目になって、今にも泣き出しそうになった。


「決闘受けちゃった私も悪いし、別に気にしてないよ」

「それじゃ気が済まん!責任取って私は文化部統括をあきらめ……」

「ダメ!諦めちゃダメだよ。私もまだ諦めてないから」

「でも風子ちゃん。そんな体じゃ当分レスリングは……」

「レスリングができなくても、やれる事はあるよ。運動部統括は人に認められてなるものだからね。ただ強いだけじゃダメなんだ」


 風子の声は肩を矢で貫かれても、少しも衰えていなかった。


 

 ちょうどその時、扉をノックする音がした。

 意気揚々と入ってきたのは野薔薇達だった。


「よう、犯人こらしめてきたぜ」

「誰だったんだ?」


 読子の後ろで腕を組んでいた紅葉が興味を示した。


「弓道部改め、何だったかな?ボウガン持ってた連中だ」

「ふむ。それは弩道部だな。デーモン事件のあとにさっさと弓道を捨ててボウガンを集め始めた部だそうだ。噂では銃火器全般を独占して組織を広げようとしているらしい」


 紅葉は情報を惜しげも無く提供した。風子達が仲間同士で争っている場合ではないことを早く知らせたいようだった。


「そういや地下組織がどうとか言ってたな。風子を狙うくらいだから運動部統括を目指してたんだろう」

「これは新聞部にでも報告して、組織の正体を暴かなあかんな。卑怯な手で風子ちゃんを狙う人間がまだおるかもしれんし」


 読子はこれから取るべき行動を模索しはじめた。

 一方、風子の方はあっさりしていた。


「私は幸せものだな。みんな私の為に色々してくれるし……怪我して良かったかも」

「おい、何言ってんだ風子。お前は早く体治さないとダメだろ」

「うん、でも最近休む暇なかったから、ちょうどいいかなって」

「お前は本当にマイペースだな」


 さっきまで緊張しっぱなしだった野薔薇は呆れたように頭を掻いた。


「それが風子ちゃんのええところや!」

「月原、お前風子を憎んでたんじゃなかったのか?」

「もう吹っ飛んだ。これからは風子ちゃんが治るまで手取り足取り世話するから!」


 中立を保っている紅葉は調子の良い読子を恨めしそうに見据えた。


「月原は考え方がイチかゼロなんだよ。どっちかに偏りすぎなんだ」

「でも、それが読子ちゃんのいいところだよ」


 風子はそう言って場をまとめた。


「風子ちゃん!」


 読子はこれまで見たことないような笑顔を見せた。

 憎しみから解放された読子は、また別の人間になったかのような明るさを見せた。



                *



 この一部始終を窓から見ていた天堂魅咲は、仲間同士の会話に飽きたように校舎を離れた。


「読子さん。仲直りさせようとすれば反発し合う事はあなたの『現在の書』からすでに分かっていたわ。だからこそあなたと如月風子を会わせたの。

 でも正直こんな結末は予想してなかったわ……あんな笑顔が見られるなんてね。

 未来ってものは自分の手で操作しようとするより、現在から答えを導き出していく方が遥かに可能性を持っている事が分かったわ。私の能力は当分使えないけど、また使える頃には少しくらい進歩してるといいわね」


 禁呪に手を出した魅咲はその反動で能力を出す事ができなくなっていた。

 だが、これまで先行きばかりを案じていたのが、未来を占う事をやめた時、パッと目の前に無限の可能性が開けてくるような感じがしたようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。