↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/35

第十五話「ヤング・アーサー物語」

「せやから、古来の中国では『分』という字に『糞』の意味があってん」

「ふーん、栄養物と排泄物を体の中で『分』けるからかなぁ。

 ……それにしても読子ちゃんは下品な話でも上品な話にしちゃうんだねぇ。糞だけにshitしちゃう!」

「……」


 風子と読子は相変わらず、正反対の個性を惜しげもせずに発揮しながら会話を楽しんでいた。

 こんな糞話が許されるほどに、学校は自由という名の無秩序な状態に陥っていた。

 このアポカリプティックな雰囲気の中、担任の藤田沢は二人の『編入生』を連れてきた。


 一人は黄色い巨大なキャスケット帽を被った少年。

 もう一人はオレンジ色の髪に黒縁の眼鏡をかけた女の子だった。

 どちらも高校生にしては小柄だった。


 オレンジ色の髪の女の子は、風子を見るやいなや、古なじみのように手を振った。


「風子」

「あー!モミジ!」

「久しぶりだな」

「なんだ、知り合いかお前ら?挨拶は後にして、まずは自己紹介をしろ」


 藤田沢にせかされ、女の子は機嫌を悪くしながら、自己紹介をした。


「私の名前は道玄坂紅葉(どうげんざかこうよう)。モミジは、風子がそう呼んでいるだけなので、他の人は呼ばないで下さい。以上」


 そう言って、窓際の席に座った。自分の興味の範囲外のものはとことん無視する、と言った性格だった。

 生徒達の視線は、自動的にもう一人の少年に集まる。

 その少年もサバサバした様子で、なんら緊張感のない様子だった。


「呼び合う事が無いのに名乗る必要なんてない。それに僕は『作品』によって名前をコロコロ変えているから固定した名前を持つ意味なんてないんだよ。じゃあそういう事で」


 そう言うと、ノロノロと教室を出て行ってしまった。

 こんな事には慣れっこの担任は、ただ舌打ちして頭を掻いただけで、教室を出ていく不良少年を特別気にかけなかった。


 次の休み時間、風子は旧友の紅葉と話す為に、紅葉の席に突っ走っていった。


「モミジ!中学以来だね!」

「うむ。お前に会う為にこのクラスに編入してきたんだ」

「どういう目的で?」

「お前の事をもっと研究したい。その為には予算を手に入れないといけないからな。炎天学園では能力研究室の研修生を募集してたから、トントン拍子に話が進んだよ。研修が終われば生徒会入りだ。そういう風子はどうなんだ?」


 風子は進展のない自分の部活の事を思い浮かべた。


「自分で部を作ろうとしてるんだけど、部員不足なんだ」

「その部に私が入ってやろうか?」

「いいの!?」

「ああ。ただしお前は『運動部統括』を目指せ」

「運動部トンカツ?」

「統括。つまり運動部のトップだ。統括は生徒会入りして学校を引っ張っていくリーダー的存在になる。どうだ?やりがいあるだろう?」

「よし、じゃあそれになる!」


 すると、紅葉はカバンから体操服を出して風子の前に置いた。


「ならばお前にプレゼントだ。まさか中学の頃からまだ体操服を着ているとは思わなかったが、丁度いい。この新しい体操服をお前にくれてやろう」

「おお!この肌触り…………上質!」


 風子は体操服を愛でるように頬をスリスリしてその肌触りを堪能した。


「うん、いや、そうじゃなくてな、それは強化体操服というもので、お前の為に作った服なんだ。ちょっとの事では破けない上に、風を受け流す性質を持っている」

「つまり……?」

「つまり、お前は公衆の面前で『初めて全力を出せる』という事だ」


 風子がいつも体操服なのは、少しでも風の抵抗を無くして服が破けたり、飛んでいかないようにする為だったのだが、風の抵抗や無意識による手加減がなくなれば、風子は初めて全力を出せる事になる。

 風子は飛び上がって喜んだ。


「全力を出せるなんて、中学のプール以来だよ!」

「競泳用の水着でもない限り、お前の風で服が破けたり飛んでいくからな。でももう手加減する必要はない。この混沌の世界に思いっきり『風穴』を開けてやれ」


 しかし風子は、途端に神妙な顔つきになった。


「……私、全力を出したらどうなるのか、自分でも分からないんだ」

「分かるやつなんていないさ。そもそも多くの人間が、全力を出せていない事すら、気づいていないのだからな」



                 *



 態度の悪い二人の編入生はすぐにクラスの話題になった。

 だが、もちろん良い噂が広まるわけはない。


 キャスケット帽を被った編入生は、クラスの男子の恰好の標的にされていた。

 そんな編入生に真っ向から注意したのは、クラスの委員長、那加村正義(なかむらせいぎ)だった。


「このクラスにはこのクラスの風紀ってもんがあるんだよ。勝手な行動はやめてくんねぇかな」

「……」


 正義を完全に無視し、ポケットに手を突っ込んだままそっぽを向く編入生。

 正義は教室中に響くよう、机をバン!と叩くとこれみよがしに制裁の一言を加えた。


「俺が礼儀ってもんを教えてやんよぉ!」


 クラス中が静まる中、風子と読子はその様子を見ながら二人で話していた。


「『独善的』とはああいうのを言うねん。無礼な人間が礼儀を教えられるわけがない」

「そうだね。野蛮な人に力だけ与えても、権力と暴力にしか使わないもんね」


 正義は異能者であり、白いマントをいつも畳んで持っている。

 そのマントを広げたかと思うと、今度は手品のようにマントの中から巨大な大剣を取り出した。

 そしてマントを羽織り、およそ一秒で勇者のような姿になった。


「俺は一秒勇者(セカンドヒーロー)!一秒の間に好きな伝説の武器を具現化できるっつー能力だ。この聖剣エクスカリバーが貴様を断罪するっ!!!!!」


 中二病五年目の正義は、そのまま中二病を自分の異能にしてしまったのである。

 デーモンの事件で能力に目覚めた正義は、後天性の異能者である。


 読子はエクスカリバーという単語にピクリと耳をそばだてた。


 正義は、剣先が広くなった両手持ちの大剣を片手で操り、編入生の眼前に切っ先を向けた。

 編入生は驚く素振りも見せず、ただポケットに手を突っ込んでいた。


 そこに割って入ったのは、読子だった。


「ちょっーと待った!」

「なんだ、月原!止めるな!」

「偽物のアーサー王!あなたを討ちとらせていただきます!」

「何だぁ!委員長に向かって何言いやがる!」


 いつもと違う読子の態度にムッとする正義。

 読子は気にせず目を閉じ、『思想を凝らし』た。

 そして目を開けたかと思うと、周囲を見渡して思想召喚に向けてのストーリー・テリングを始めた。


「皆さま。このキング・アーサーは偽物でございます。とてもエクスカリバーを扱うにふさわしい者とは思えません。キング・アーサーは剣を抜きし時、初めて王となったのです。クラスの委員長風情が自由に出し入れしていいはずはありません。この者に人を裁く権利がありましょうか?否!あるはずがございません。この者の処遇は若かりし頃のアーサー自身に託させてはいただけませんでしょうか?」


 クラスは突然の寸劇に、沈黙するだけだった。が、読子は最後までやり遂げた。


「出でよ、ヤ(・)ング・アーサー!名剣カリバーンを持ってわが元に!」


 読子は最後までやりきって、ついに自小説に出てくる若かりし頃のアーサーの思想召喚に成功した。

 ヤング・アーサーは赤い鎧に赤い髪をなびかせた美青年だった。


 一番感激していたのは、召喚した読子自身だった。


「本物のヤング・アーサーや!いや、本物ではないけど、現に今、実在しとるヤング・アーサーや!」


 風子もその美しい姿に酔いしれた。


「これが読子ちゃんのキャラ!?かっこいい!」

「ありがとう。でも実は男色の気があるという残念仕様!BLの影響受けてます!ああ、メタ発言はこれくらいにしとかんと現実感が薄れる!」


 ヤング・アーサーは黒光りする剣を手に、正義の元に走っていった。

 読子は後から取って付けたように命令を下した。


「行きなさい!ヤング・アーサー!エクスカリバーを手にする為に戦うのです!!」

「誰!?読子ちゃんは一体誰なの!?」

「アーサーに剣を授ける湖の精霊の役」

「ふ~ん」


 先にしかけたのはアーサーの方だった。

 負けじとアーサーの攻撃を受け止める正義だったが、スピードも剣さばきも圧倒的にアーサーの方が上だった。


「おおーっと!アーサーの動きについていけない那加村君!圧倒的に格が違う!」

「湖の精霊が実況してていいの?読子ちゃん」

「ええねん!」


 正義を横から切り付けたアーサーの名剣カリバーン。今度は正義の後ろに回り込み、とどめの一撃を加えようと、真上から垂直に刃を下した。


 しかし正義のマントは、生き物のように蠢いて、後ろにいるアーサーに巻き付いた。


「あー!アーサーピンチ!アーサーピーンチ!」


 白いマントで繭のように包まれたアーサー。正義はこのチャンスを逃さなかった。

 正義の大剣の中心線に沿って刻まれた紋章が峰から剣先にかけて光出し、ついには剣自体が白く輝き始めた。


「これが俺のエクスカリバーの真骨頂!くらえー!」


 正義はこれみよがしに机を蹴ってジャンプしたかと思うと、天井近くまで飛んでエクスカリバーを垂直に叩き下した。


「秘剣・レイオブジャッジメント!」


 正義の剣は鋭い光を放ちながら大爆発を起こし、周囲の机を弾き飛ばした。

 その威力は相当なもので、アーサーの赤い鎧を粉々にした上、床に黒く大きな穴を開けた。


 だがアーサーの姿がそこにはなかった。

 アーサーは上半身裸で正義の真横に立っていたのである。


「おおーっと!アーサー、鎧を脱いで難を逃れたー!……ああ、愛しのアーサー。生きていて下さったのですね!」

「今度は誰!?」

「町娘のマルタ。しかし彼女の恋は片思いに終わる」

「アーサーは男が好きだから?」

「正解っ!!」


 アーサーは持っていた剣で再び正義を圧倒する剣さばきを見せた。そして正義の大剣を弾き飛ばしたかと思うと、正義を教室の壁にまで追い詰めた。

 そして名剣カリバーンを正義の顔の真横にドン!と叩きつけた。


「な、なに、読子ちゃん、この展開!?」

「ここからはBL展開や!私の思想召喚は、基本的に、その思想を表現するまでは消えないようになってるねん」

「じゃ、じゃあこの後は……」

「お楽しみのチョメチョメタイムや!カリバーンの上位であるEXカリバーを手にして王になるのはそのあとの話」


 正義にすり寄るアーサー。

 あからさまに拒否する正義。


「ま、待て!俺はホモじゃない!ホモじゃないぞぉぉ!」

「あかんで那加村君!そこは敗者として受け入れなあかん!」

「何でだよ!」


 容赦なく正義の体に触れるアーサー。思想召喚されたキャラは感情のない人形のように、その任務を遂行するだけだ。


 その時、クラスのBL好きな女子達が騒ぎ出し、スマートフォンで写真を取り始めた。

 その様子に慌てる読子。


「あー!何してるねん!そんな事したら場の空気がおかしなるやんか!まるで観光客が世界遺産に群がって雰囲気ぶち壊しにしとるかのようや!」

「あるある。写真撮る方が目的になっちゃってるやつね」


 風子も読子も白けてしまったその時、アーサーはついに消えてしまった。


「ああ、場から現実感がなくなったから消えてもうた……」

「うーむ、これが読子ちゃんの能力か。今分かったような気がするよ」

「正直、私自身が燃えとったらちょっとくらい脱線してもええんやけど、白けてしまったら終わりや。……でもこの辺が潮時やったしええやろ」


 そう言って読子は編入生の席を指さした。

 編入生はすでに教室から立ち去っていたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。