↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/35

第十三話「薔薇の覚醒」Part3

 完全に理性を失い、ケダモノと化したラミア。

 風子が野薔薇を助けようと近寄ると、大きなツタが自動的にそれを感知したかのように地面をムチ打ち、風子を妨害した。


「うわっ!」


 野薔薇はボロボロになりながら、右腕だけが燃えており、悶えるように体をくの字に曲げていた。

 それは寒さに震えているような、あるいは何かに耐えているようでもあった。

 一方、理性を失ったラミアは地面に這いつくばり、溶けてなくなった男の服をクンクンと臭っていた。


「こいつ、どうやら自分の化粧した顔を『餌』にして男を食っていた(・・・・・)みたいだな」

「自給自足とは、器用な事するなぁ」


 感心する風子。


「あのなぁ……何人もの男がこいつの自己満足の為に溶かされてるんだぞ?さっさと退治しねぇと町中の男が食い殺されるぞ」


 そういうと、野薔薇は右手に力を込めた。

 野薔薇の右腕が、腕を焼き尽くすほどの勢いで激しく燃え始めた。

 時折見える不自然に黒い炎が、まるでこの炎がこの世のものでは無い事を暗示しているかのようだった。


挿絵(By みてみん)


 野薔薇が右腕に火柱を作り出すと、今度は拳で殴るようにして炎を飛ばした。

 炎は轟きながら直線を駆け抜け、ラミアのツタに打ち付けられた。


「ギャー!!!!」

「この炎……まるで生きているみたいだ。こいつは呪われた私自身か?それとも私がこの生きた炎に取り憑かれているのか?……まぁ、どちらにせよ呪いの炎である事に変わりはねぇけどな」

「ちょっと野薔薇!前見て!前!」


 燃やし切れなかったラミアのツタが大きくしなりながら飛んできていた。


「……だけど一つだけ分かった事がある」

 

 野薔薇は迫りくるラミアのツタを、一撃のストレートで消し飛ばした。


「それはピンチにな(・・・・・)るほど燃え(・・・・・)る(・)って事よ!」

「すごい……これが野薔薇の力……」


 ラミアは両足にまとめてツタを巻き付け、蛇のような姿に変身したかと思うと、野薔薇の頭上を陣取った。


「こいつ、まだやるってのか!」


 だが次の瞬間、ラミアは野薔薇たちとは全く別の方角を見た。


「オトコォ……」


 そこには、見知らぬ長身の男が立っていた。

 その長身の男は、まるでこの騒動が起こる事を事前に知っていたかのように、落ち着いた態度でラミアを観察していた。


「ラミア・アンダーソンだな」


 場は異様な静寂に包まれていた。


「お前は我々『メビウス』によって『要捕獲人物』に認定された。よってここでお前を捕らえる」


 白い制服を来た見慣れぬ男だった。ラミアは息も絶え絶えだったが、目の前に立ちはだかった人物の容貌を上から下までじっくりと品定めするように眺めた。


「……男……それも長身の……若くて真面目そうな……」


 ラミアはニヤリと口元を曲げると、一瞬で新しい食人植物を背後に作り出した。

 この蛇のような貪欲さと執着心が食人植物を生み出す心の根源なのであった。


 男は背中に背負っている巨大な十字架を取り出したかと思うと、地面に杭のように打ち付けた。

 するとそれは、白い光を放ちながら、円状に地面を白い紋章の付いたフィールドに変化させていった。

 それは半径10mほどの円を作りだし、駐車場内の一部を占領した。


 その瞬間、駐車場の柱の陰から、とある女の子が出てきた。


「イシュタル様!ちょっとフィールド狭くありませんか!?」


 それに対し、イシュタルと呼ばれた長身の男はひとつため息をついてから言った。


「まいったな。普段の4分の1くらいの大きさのフィールドしか作れないとは、この場所は相当汚染が進んでいるようだ」

「これじゃ、思い切り戦えませんよ!」

「いいからさっさとやれ、マリア」


 いきなり出てきた白い二人組に困惑する風子と野薔薇。

 対して、ラミアは食人植物を出したおかげで再び理性を失い、一目散にイシュタルと呼ばれた男の方に這いずりながら向かった。


「オトコォ!!!」


 満身創痍のラミアの顔は、化粧も全てはがれ落ちており、もはや人外の生物のようにさえ見えた。


「仕方ないですね」


 マリアと呼ばれた女性は、腰にある白い短剣を取り出して跳躍した。

 白いフィールドの中を縦横無尽に超高速で跳ね回ったかと思うと、マリアの剣はラミアのツタを次々に切り伏せた。


「ギニャー!」


 風子はその姿に惚れ惚れした。スピードに自信のある風子でも目で追うのがやっとのスピードだったからだ。


 イシュタルと呼ばれた男は、迫りくるラミアを十字架の前で待ち伏せていた。

 ラミアは触手を切られながらも、イシュタルの元にやってきた。


「イシュタル様!!」

「下がっていろマリア、最後は俺がやる」


 イシュタルは背後にある十字架を、手を後ろに回して掴んだ。

 そして十字架を引き抜くと、そこには巨大な一本の剣が現れた。


 十字架と思われたそれは、大きな剣だったのである。


 十字架から引き抜かれた剣は巨大なオーラを放っており、2m以上離れたラミアにさえ、一撃を加えられるほどの大きさであった。

 振り下ろされた剣は、ラミアの体を肩から一気に引き裂いた。


「ギャース!!!」


 ラミアは肩の傷から広がるオーラによって、みるみるうちに衰弱し、ついには倒れこんでしまった。

 イシュタルは剣を鞘に戻し、また背中から背負い込んだ。

 すると、マリアがイシュタルの元に駆け寄ってきた。


「イシュタル様!何もこんな相手に剣を抜く事はないでしょう!」

「お前がさっさとやらないからだ」

「その大剣は使う度に背負う罪の数が増えるんですよ!?イシュタル様はいくつ罪を背負えば気が済むんですか!」

「悪が消えるまで。ではいけないのか?」


 イシュタルの一言に、マリアは返す言葉を失ってしまった。


「……素直に彼女たちに助力を仰げばよかったのですよ」


 そう言ってマリアは風子達を指差した。


「一般人だろう。素人に手を貸してもらったとなると我々の信用が落ちる」

「そういう考えは柔軟さが足りないと思います」

「わかったわかった。話の続きはこいつを連れて帰ってからだ」


 イシュタルはそう言って、動かなくなったラミアを、キラキラと光る糸でもって縛り上げた。

 一方マリアは一転、風子の元に駆け寄ってきた。

 

「如月風子さん!」

「だ、だれ?」

「はじめまして!私、マリアンナ・ウィンストンと言います。あなたをずっとわが『メビウス』に誘いたいと思っていたんです。入隊してくれませんか?」


 マリアンナはキラキラと光る大きな瞳を輝かせながら風子を見た。


挿絵(By みてみん)


「うーん、悪いけど私、そういう団体はちょっと……」

「いいじゃねぇか、風子。入ってやれよ」

「ちょ、野薔薇がそういう事言う?」

「私も右腕が治ったし、そろそろギルドを作ろうと思っていたところだ。手始めにラミアの『赤い薔薇』でも乗っ取ってやろうかと思ってたところ。へっへっへ」

「ひどいな野薔薇!」


 イシュタルも風子達の元にやってきた。が、彼は厳しい目つきで風子達を見た。


「私はイシュタル・ハイライトと言うものだ。ノバラ・プラーミアと言ったか。もしその名が本当なら、君はロシアでは犯罪者として手配されているという事を知っているか」

「……」


 野薔薇は俯いた。


「ホントなの?野薔薇!」

「降りかかる火の粉を払っただけだ。それを周りが犯罪と呼ぶかどうかは知ったこっちゃねぇ」

「イシュタル様、どうなさるおつもりですか……?」


 イシュタルは少し考え込んだ。


「ラミアの捕獲に君の助力があった以上、この場で君を捕らえるような事はしない。私たちは絶対善の名の元に『悪』の所作を憎むのであって、『人』そのものを憎む事はしない。だが、これからもし君が再び『悪』を行うならば、その時は容赦しない事にする」

「ふーん、結構甘いんだな。正義を唱える割に」

「正義ではない、『絶対善』だ」


 イシュタルはそう訂正した後、ラミアを連れて外に出て行こうとした。

 それを呼び止めるマリアンナ。


「イシュタル様!風子さんを勧誘してはいけないのですか!?」

「……そう簡単に入隊させるわけにはいかない。だがもし、そのノバラという者が犯した悪を断罪する事ができたならば、その時は考えよう」

「そんな……友人を断罪するなんて、できるわけありませんよ!」

「絶対善とはそういうものだ」


 イシュタルが出ていこうとするその背中では十字架が光り輝いていた。


「では、風子さん、また遊びに来て下さいねっ!」

「遊びにって……いいの?」

「いいですよ。それくらいなら。多分ね」


 そう行って舌を出したマリアンナは、軽快なステップでイシュタルと共に去っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。