第十三話「薔薇の覚醒」Part1
周りはみんな敵だ
知らない人間が怖い
知っている人間も怖い
周りはみんな敵だ
殴られるのはいやだ
殴られたらどうしよう
殴り返してやる
強くなればいいんだ
弱いからダメなんだ
私の生きる糧は……
この拳にある。
*
「少年漫画なんて大嫌いだね」
休み時間、風子と野薔薇は漫画の話に花を咲かせているところだった。
野薔薇のいつもの『トゲのある』発言は独処一方という感じで理解しかねるものだったが、その発言に迷いはなかった。
「何でそう思うの?こないだ貸したグラップラー三平は読んでたじゃん!」
「あれはまだマシな方だ。とにかく、ほとんどの漫画が能力をバカスカ使ってふんぞり返って弱い者いじめをするか、或いは『戦うのが楽しくてたまりません』みたいな漫画ばっかりじゃないか。
殴られるのが嫌で嫌でたまらないとか、戦うのが怖くて怖くてたまらないという主人公の漫画がほとんどない。
でもそっちの方がリアルだし普通なんだよ」
野薔薇は珍しく熱弁していた。
「そうかなぁ。私は別に楽しければ何でもいいと思うな」
「バトル漫画が普及しすぎて陳腐なものになってる今、そんな悠長な事は言ってられないんだよ」
「でもスポーツで戦うのは楽しいじゃん」
「だからそれが嫌なんだって。今のバトルマンガは全部スポーツなんだよ!」
「爽やかでいいじゃん!」
「だから!」
野薔薇と風子の(喧嘩のように見えるがごく普通の)会話はこんな風に続き、こんな風なまま終わった。
――野薔薇の機嫌は変わりやすく、常人には到底扱えないような性格をしているのだが、風子はその機嫌を取る事さえも楽しんでいるようだった。
掃除の時間、風子はこの間のように、またふざけて歌舞伎役者のようなポーズを取って野薔薇を機嫌取ろうとしていた。
「野薔薇、見て見て、風林火山!」
「……もう飽きたよ」
「風・林・火・山!(ドヤ顔)」
「うるせーっつーんだよ!」
怒った野薔薇は、逆さに持った箒で風子の頭を殴り飛ばそうとした。
しかし、その箒の柄が当たる瞬間、風子は風のように消え、今度は野薔薇の眼前に現れた。
「『林』は吹き抜ける風のカウンター!」
風子は拳を野薔薇の眼前に突き出し、寸止めをした。
野薔薇は急な事に全く体が動かなかった。
「最近、なまってるんじゃない?右腕が使えないからってトレーニングできないわけじゃないでしょ?」
「お前……バカにしてんのかよ!」
風子の尻を蹴飛ばす野薔薇。
仰け反ってぴょんぴょんと跳ねる風子。その元気な姿を、野薔薇は少しだけ恨めしそうに見つめた。
風子は今度は教卓の上に座って野薔薇に話しかけた。
「ねぇ、風林火山の『火』を見せてあげようか?」
「いいよ、どうせまたアホくさい技だろ?」
「私の家に置いてあるんだけどね」
「どういう意味だよ!」
「へへへ」
風子は教卓から飛び降りて、今度は黙々と掃除をし始めた。
野薔薇は風子の意味深な発言にモヤモヤしながらも、放課後二人はその言葉の意味を知る為、風子のアパートに向かった。




