第十二話「黒いコンビニ」Part1
新浜町はいつもと同じ風景。人間は一度慣れてしまったものには特別な注意を払わなくなるものである。
それだけに、本来あるはずのないものがそこにあった時の衝撃は大きい。
読子と風子がポカンと口を開けて空を見上げていたのは、見たことの無い風景が眼前に広がっていたからである。
とりわけ目を引くのは「7」と書かれた、空に突き出された大きな看板である。それは新浜町に点在しているコンビニ「セブン」のマークに他ならなかった。
看板が黒地である事と、右下に小さくBと書いていることなどセブンのマークとは少し違っていたが、まるで郊外のホームセンターのようにそびえ立つそれは実用品大好きの風子のテンションをあげまくった。
そうやって二人がポカンと口を開けて空を眺めていると、突然大きな男が読子にぶつかった。
「キャッ!」
「Oh,sorry……じゃなかった、スミマセン……」
男は190cmほどもある身長とはギャップのあるようなカタコトの日本語と黒い肌に白いターバンが一際目を引いた。
どうも男は学校に用があるようで、ひょんなことから一緒に登校することになってしまった二人。
巨大なインド人と女子高生の組み合わせは端から見ると異様であった。
「ニホンの、オナノコは、カワイイですネ」
「そうですか?」
「ハイ、ア、モチロンあなたたちフタリも、ヒドクカワイイですヨ」
「非道く!?」
「ハイ、ヒドク…………ヒドイデス」
「非道い!?」
耳を疑う読子の横で風子は大笑いしていた。
--6月の炎天学園の教室。制服は夏服に変わり、空色の爽やかな風が教室を訪れるようになった。
こんな日はグラウンドでも駆け回りたいと思う風子だったが、あいにく今日は自由とは対極に位置するマイナスイベント「校長先生の話」だった。
「えー、もう世間はすっかり夏気分ですね。体操服も今日からはジャージ禁止となりましたが、さて我が校にはショートパンツとブルマが存在し、色も赤と青の二種類があります。このたび、生徒の自由を尊重する意味も込めて、新たにオレンジと水色を追加することとなりました」
ガヤガヤと話を始める生徒たち。それを眺めていたのは風子のクラスの担任の藤田沢とトレパンだった。トレパンは率直に不満を藤田沢に話した。
「けしからん話だな。炎天学園のブルマは炎の赤、天の青で成り立っているというのに、水色やオレンジなんて混ぜたらそれこそ意味合いが薄まってしまう」
「五十嵐先生、意外と真面目な所もあるんですね。ブルマの色が変わると困る事でもあるんですか?」
「もちろんだ!一番エロい青を着る生徒が減るのは許さん!」
「あ、そういうこと。やっぱり平常運転でしたね」
サラっと流して前を向く藤田沢。
校長は話を変えて、突如横を向いた。
「今日は新しい先生を紹介します。最近教師がやめていくことが多いので臨時の先生となりますが、皆さんよろしくお願いします。英語を担当してくださるジドー・栗品先生です」
「グッモーニン」
なんとその男は今朝、風子と読子が会ったインド人だった。ターバンを取った、流れるようなセンターで分けた髪は美しく、なかなかのハンサムガイだった。
「ニホンジンのエイゴは、ヨクナイ、キキます。なので、ワタシがせいいっぱい、ヒドク、オシエます」
「非道く!?」
今朝の間違いを訂正しておけば良かったと思う読子だった。




