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10分後。
葵は仮想空間の中で、完全に動きを静止させていた。
ビルの壁面に身体は沈み。
その時悠月は葵の喉元に、小太刀を突き立てていた。
「あれ?」
首を傾げる悠月。
それはこっちの台詞だと葵の視線は語っていた。
「今のがこれです」
弥生は悠月と葵の戦闘ログの印字された紙を香流に差し出そうとした。香流は顔をいつもより顰めていた。タブレットに映る数値は、違うデータだった。中間考査の平均点数表……
弥生はやれやれといった様子で欠伸をした。
「やはり俺の作る問題は難しかったか」
「香流さんはベストを尽くしました。それより今の戦闘ログです」
香流の背後からアナログの紙を差し出す弥生。香流はデスクに身体を向けたままで、その紙を手に取った。1枚だけの紙を何度も何度も上から下へ目を走らせる香流。
沈黙。
「……マシロと戦ってから接続の数を増やしたのか?」
「訓練の量は変わってません、考査期間中も量を減らす事なく接続し続けていたのは確かですが」
「道理で点数の悪いわけだ」
「『鍵』に見合った頭角を現し始めています、それにこっそり検証した『ソウローディング・スクエア』との親和性も群を抜いている」
香流が丁度机の隅に置いていた、『S-L・SQUARE(機密の為データ化・複製禁止)』と書かれたファイルに、八雲は目を留めた。
「あれの適用は慎重にすべきだが、今の状態での適用も十分可能というわけか」
「負荷試算の結果は余裕で許容できる負荷数値の中に納まっている、という事ですから」
「だが……彼なりの戦闘の『型』を確立しつつある今新しい情報を与えるのはまだ止めるべきだ」
少し残念そうにですね、と相槌を打つ弥生。
「葵ちゃんもムキになってるなあ」
弥生は香流が目を通していた文面を再び見る。
『1回目』の戦闘結果、悠月-○ 葵-×。
2回目の戦闘結果、悠月-× 葵-○……3回目の戦闘結果、悠月-○ 葵-×……
総勝敗数を見ると、お互いの勝敗数をお互いに揃えていくかのように、同じ数字が悠月の欄にも葵の欄にも印字されていた。そして互いに、『C・スキル』は使っていない。悠月の『C・スキル』たる『必殺技』がまだ無かったので、そういうルールの上でのバトルである事を、二人とも初めに望んだからだ。
印字されていたデータ自体は細かなものだが、大らかに解釈するならそれだけのデータで理解は十分だった。
悠月は揃えた条件の上であれば、『かつてAnother全国一位の名を冠した戦士』と同じ場所で十分に戦えるだけの力がある――