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魔王城から帰った勇者はいない  作者: 週休七日


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門の外の二人

 ベルグ砦の門は、二つあった。


 厚い外門の奥に細長い外庭があり、さらに内門がある。外庭は高い壁に囲まれ、左右の階段から守備兵が出入りできた。


「外で何かあっても、内門を閉めれば一度は止められる」


 案内していた兵士が説明した。


 ベルトという名だった。

 三十を少し過ぎたくらいで、左の眉に古傷がある。


「ただし、一度だけだ。外庭を取られたら、次は内門へ張りつかれる。ここで守っている兵も逃げられん」


 外門の内側では、数人の兵が開閉用の綱を調べていた。

 厚い二枚扉は、一人では動かせないらしかった。


「お前が勇者か」

「そうらしい」

「靴が悪いな」

「剣より先にそこ?」


 徴兵される前は靴職人だったという。


 ベルトはアルトの踵を見て眉を寄せた。夕方、直してやるから持ってこいと言った。


「ただで?」

「勇者でも足は二本だ。二本分もらう」


 隣の細身の兵士が笑った。

 サーヴェルと呼ばれていた。胸の内側へ手紙をしまいながら、俺の靴も頼む、と言った。


「お前は先月の代金がまだだ」

「帰ったら払う」

「お前ら、皆それだ」


 そのあと二人は、ほかの兵と四人で北へ出た。


 前日の小競り合いで、窪地に負傷兵が一人取り残されている。日没までに迎えに行く任務だった。


 アルトは、自分も行くと言いかけた。


 だが、到着を知ったガレスに呼び止められた。砦には民間人も避難しており、内門の向こうは思っていたより狭い。


 桶を運ぶ子供。

 膝を抱えて眠る老人。

 馬房で泣いている赤ん坊。


 アルトはそれらを横目に、司令室へ向かった。


     *


 警鐘が鳴ったのは、夕日が城壁の端に掛かった頃だった。


 アルトは階段を駆け上がった。


 外門へ向かって兵が走ってくる。


 三人。

 一人は左右から肩を支えられていた。


 その後ろに、まだ二人いた。

 サーヴェルとベルトだった。


 ベルトは片脚を引きずっている。

 サーヴェルが支えているが、ほとんど前へ進めていない。


 さらに後ろから、土煙が上がった。


「騎兵!」


 城壁の弓兵が叫んだ。


 角のある騎手たちが、斜面を下りてくる。

 先頭だけではなかった。丘の向こうから、次々に影が現れた。


 最初の三人が外門をくぐった。


「閉じろ!」


 ガレスが命じた。


 アルトは振り返った。


「まだいる!」


「見えている」


 援護の矢が飛んだ。

 追手の一騎が崩れたが、残りは広がり、速度を落とさなかった。


 アルトは階段を駆け下りた。


 サーヴェルが何か叫んでいた。

 ベルトは、来るなと手を振っているように見えた。


 アルトは閉じ始めた扉へ手を掛けた。


「どけ!」


 守備兵に腕を掴まれた。


「俺が行く!」


「やめろ、お前を戻すために、もう一度開けることになる!」


「俺が二人とも連れて戻――」


 扉の隙間で、サーヴェルが膝をついた。

 胸から、矢が出ていた。


 アルトの身体が後ろへ引かれた。


 木と鉄が噛み合う音がした。


 それで、二人は見えなくなった。


     *


 矢が扉へ当たる音は、思っていたより軽かった。


 乾いた、小さな音だった。


 アルトは門の前に立ち、どこかが開くのを待っていた。

 開かないことは分かっていた。それでも、身体がそこを離れなかった。


 ミリアが隣へ来た。


 薬の匂いがした。

 彼女の袖には血がついていた。


「戻った三人は」

「生きています」


 アルトは頷いた。


「外の二人は」


 ミリアは答えなかった。


「見てたか」

「サーヴェルさんが倒れたところは」

「ベルトは」

「確認できません」


 夕方、靴を直すと約束した男だった。


 アルトは足元を見た。

 靴の踵が、片方だけすり減っていた。


「勇者って、何ができるんだろうな」


 ミリアは隣に立ったまま、帳面を開かなかった。


     *


 夜、ガレスが門を見回りに来た。


「もう少し待てた」


 アルトが言うと、司令官は足を止めた。


「そうかもしれん」

「じゃあ、なんで閉めた」

「待てなかったかもしれんからだ」


 ガレスの鎧にも血がついていた。


「二人が門へ着くより先に、敵の先頭が着くと判断した。開けたままなら、外庭の兵にも戦わせることになる」

「俺が出ていれば」

「間に合ったかもしれん。お前が三人目になったかもしれん」


「全部、かもしれないじゃないか」


「そうだ」


 アルトは拳を握った。


 ガレスは、閉じた扉を見た。


「名前を知らずに閉めたと思うな」


 低い声だった。


「知っていて、命じた」


 謝罪でも、勝ち誇った弁明でもなかった。


 アルトは殴りたくなった。

 同時に、自分が代わりに命じられたのかと考えた。


 答えは出なかった。


 その夜、靴を直してくれる人は来なかった。

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