第21.5話:トカゲの尾
ショッキングな場面にご注意ください
「……ハッ、間抜けめが!」
大極殿を後にし、自身の執務室へと戻った第二皇子リュシアンは、扉が閉まった瞬間に優雅な笑みを消し去り、豪奢なソファへと背をあずけた。
テーブルの上に置かれた高級ワインをグラスに注ぎ、満足そうに一口煽る。その口元には、長年連れ添った側近を容赦なく捨て去った爽快感すら浮かんでいた。
「アルブレヒトの豚め、刺客一人まともに扱えずにサフィールとあの小僧……いや、『北方のお人形将軍』ごときに足元を掬われおって。挙げ句の果てに御前で泣きつくなど、見苦しいにも程がある」
リュシアンは嘲笑を浮かべながらグラスを弄ぶ。
彼にとってアルブレヒト子爵など、最初から自分に金を運ぶだけの都合の良い道具に過ぎなかった。サフィールを追い詰めるための駒として使い、ボロが出れば叩き潰す。
「ふん……サフィールめ、あれで勝ったつもりでいるのが痛快だな。アルブレヒト一人が消えたところで、我が手足はいくらでもあるというのに」
ワインを飲み干すと、リュシアンは背後にひっそりと控えていた影のような男――黒い外套を纏った男に冷ややかな視線を向けた。
「……分かっているな?」
「ハッ。アルブレヒト子爵は地下牢へ移送中に『突然の心臓麻痺』にて絶命するよう、すでに手を打ってございます」
「結構。あやつは拷問に耐えられるほどタフではないからな。サフィールに引き渡されて余計な口を割られる前に、永遠に黙らせておけ」
リュシアンの薄い唇が、どこまでも浅ましく歪む。
自らの手を汚さず、忠実だった臣下をゴミのように処分することに一切の痛痒も感じていない、小物ゆえの冷酷さ。
「さて……刺客の件はこれで幕引きだ。だが、第三軍本陣に植え付けた『種』はまだ芽を吹いておらん」
リュシアンは細い指先で机をトントンと叩き、薄汚い欲望に満ちた瞳を細めた。
「……あの男は欲深い。エレが息災と知れば怯え散らかすだろうが、上手く『後戻りはできない』と脅して焚き付ければ、勝手に動く。……サフィールから第三軍を奪い、あのすました顔を絶望で歪ませてやるのだ」
その夕刻――地下牢へと続く暗くじめついた回廊。
「頼む、リュシアン殿下に……殿下にお取次ぎを……っ! 私は言われた通りに動いただけだ……ッ!」
拘束され、兵に引っ立てられていくアルブレヒト子爵は、惨めにつばを撒き散らしながら命乞いを続けていた。大極殿で見せた威厳など見る影もない。
だがその時、すれ違った看守のひとりが、すれ違いざまにアルブレヒトの首筋へかすかな針を刺した。
「が……ッ!?」
突如、喉を掻きむしりながら泡を吹いて崩れ落ちるアルブレヒト。苦悶に顔を歪め、助けを求めるように虚空へ手を伸ばす。
数分後、そこには物言わぬ肉塊と化した元子爵の姿があるだけだった。




