第17話:発覚
「どけ! 邪魔だ!!」
レオンは大広間から離宮への廊下を、エレを横抱きにして無我夢中で疾走していた。後ろからは追いつこうとする宮廷医たちの足音が響いている。
割り当てられた控室へ飛び込むと、レオンはエレをベッドへ横たえ、振り返りざまに腰の剣を半ば抜き放った。その眼鏡の奥の瞳は、半乱心といえるほどの鬼気を孕んでいる。
「お下がりください!! エレ様の御身体には、我が北方部隊の秘伝薬を用います! 外部の者は何人たりとも立ち入ることは許されません!」
レオンの咆哮に気圧され、宮廷医たちが後退った隙に、重々しい扉を叩き閉めて鍵をかけた。さらにチェストを引きず寄せて扉を塞ぐ。
「バルド! 今すぐ城下へ向かえ! 待機しているガレノス様を、裏口から何が何でも忍び込ませるんだ!」
窓の外へ潜んでいたバルドへ怒号を飛ばすと、レオンは静まり返った室内へ振り返った。
ベッドの上では、エレが浅く激しい呼吸を繰り返し、毒の熱によって顔を極限まで朱に染めている。
「……くそっ、エレ様!しっかりなさってください!今、手当てをしますから……!」
レオンは震える手でエレの正礼服のボタンを外し、創部の毒を洗浄するために服の胸元を大きく押し開いた。
血に濡れたシャツを切り裂き、傷口を露わにしようとした――その時。
「……え……?」
レオンの指先が、凍りついたようにピタリと止まった。
血に染まった正礼服とシャツの下。そこに固く、何層にも厳重に巻きつけられていたのは、白い晒だった。
そして、その晒によって強固に押し潰され、隠されていたのは――明らかに男性のものではない、しなやかで華奢な身体のラインだった。
「な……、女……性……? エレ様が……!?」
雷に打たれたような衝撃がレオンの脳裏を駆け抜けた。
息が止まり、頭の中が真っ白になる。
だが、冷静な観察眼を取り戻したレオンは、傷口の状態を見て息を呑んだ。
刺客の刃は確かに深く突き刺さっていた。しかし、エレが女であることを隠すために毎朝限界まで固く巻き上げていた無数の晒の帯が、天然の防具となって刃の到達をわずかに食い止め、内臓への致命的な深手を奇跡的に防いでいたのだ。
(晒のおかげで……即死を免れたんだ……!)
『……他者を……誰も、入れるな……。お前だけで……手当てを……。ガレノスを……呼べ……』
死の淵でエレが残した悲痛な手配の意味が、すべての線となって脳裏で結ばれた。
公に宮殿へ入ることを許されず城下で待機していた信頼できる専属医・ガレノス。そして、この秘密を知る自分。
宮廷医に触れられれば、この晒を脱がされた瞬間に「皇帝と軍を騙した罪人」として処刑されてしまう。だからこそエレは、己の命を賭けてこの指示を出したのだ。
「……っく……!」
レオンの目から、こらえきれない熱い涙がボロボロとこぼれ落ちた。
一人でどれほどの重圧と恐怖を抱え、この過酷な戦場と宮廷で戦ってきたのだろうか。
「御意にございます、エレ様……! このレオン、私の命に代えても……あなた様をお守りいたします……!」
レオンは即座に涙を拭うと、ガレノスが到着するまでの間、手早く傷口の毒を絞り出し、冷水で熱を下げながら、静かに、そして力強くエレの手を握りしめた。




