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ひっそりと民を救うのは、追放された真の貴族でした ―王太子の病を請け負った母娘の物語―  作者: 月城 蓮桜音


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第45話 受け継がれる絆と、星降る夜の誓い

 地鳴りのような大歓声と、割れんばかりの拍手が会場を揺らしている。

 その中心で、まばゆい光を浴びながら幸せそうに笑う、わたくしそっくりな娘。

 込み上げる愛おしさに視界を潤ませながら、「レティシア、おめでとう」と小さく呟いてみる。

 

 わたくしが王太子殿下の病を請け負うことで、十歳から十五歳という子供が一番成長する時期をわたくしの看病に費やさせてしまった愛しい娘。

 わたくしの知らないうちに王太子殿下と出会い、アルフォンスやジイに助けてもらいながら、逞しく成長してくれたレティシア。

 親なんていなくても子は育つと言うけれど、レティシアはちょっと特殊よね。確かにちゃんと立派に育ってくれたわ。想像の遥か上を行っているけれど。


「お姉様、おめでとうございます」


「あら、ありがとう」


 妹と夫のベルモンド侯爵が挨拶に来てくれたようだ。つい、感慨に耽っていたせいで、反応が少し遅れてしまったわね。


「お疲れでしたか?」


「いいえ、違うのよ。少し、思い出に浸っていたの」


「お姉様もレティシアも、大変でしたものね……」


「わたくしは横になっているだけだったから、レティシアほど大変ではなかったわ。アルフォンスには、とてもお世話になったわね。これからもお世話になるみたいだけど」


「ふふっ、そうですね。本人が選んだ道ですから、わたくしたちは応援したいと思っていますわ」


「そう。皆が幸せに過ごせると良いわね」


 のんびりと過ぎる時間に、やっと肩の力が抜ける気がする。元夫の断罪から娘の昏睡、そして公爵家の復興。あの人が何もしていなかったせいで、公務も山ほど残っていたのだ。


「ふぅ——」


 久々に深く息が吸えるような、そんな感覚に襲われる。レティシアがお嫁に行くから? わたくしの手を離れるとは言っても、レティシアは勝手に育ってくれたから、そこは違う気がするわね。

 なぜなのかしらとウエイターからグラスを受け取りながら考えていると、わたくしの目の前に誰かが立ち止まった。


「エレオノーラ様。未亡人になられたとお聞きしましたので、是非私めと——」


「私の娘に何か用かな?」


 背後から掛けられたのは、地を這うような低い声だった。圧倒的な覇気を放ちながら歩み寄ってきた老紳士の姿に、男の顔が瞬時に土気色に染まる。

 

「えっ? あ、アストレア先代公爵閣下……!? い、いいえ! 失礼いたしました!」


「お父様——」


「エレオノーラ、元気そうで良かったよ。お前の言う通り、手出しはしなかったが、レティシアは立派にやり遂げてくれたのだね」


「はい。ありがとうございました、お父様。しかし、跡を継ぐ者が……」


「それは気にしなくて良い。王族に嫁入りしたのだから、王族にもアストレア公爵家の血が流れることになる。どうしても公爵家を残したいのであれば、ベルモンド侯爵家の三男に打診したらどうだい?」


「ええ、そうですわね。継ぎたいというのであれば、今から『スパルタ』で育てなければなりませんわね」


 顔を引きつらせ、苦笑いした父に「ふふふ」と笑って見せる。

 そこへレティシアと王太子殿下がお見えになった。


「お母様と……お祖父(じい)様! お久しぶりです」


「王国の太陽へご挨拶申し上げます。リュシアン王太子殿下、レティシア、婚約おめでとう。レティシア、大きくなったね。元気そうでなによりだよ」


「私は元気です。あの、たくさんのご支援をありがとうございました。お力添えのおかげで、二人とも無事に戻って来ることができました」


「おや、バレていたのかね。さすがはレティシアだね。見えているものだけを信じないという教えを、しっかり理解しているようだ」


 普段は口数の少ない父が、レティシアの成長を喜び、祝ってくれている。その事実に、わたくしは胸の奥が熱くなり、目頭がじわりと熱くなった。


「エレオノーラ、思うところはあるだろう。これからも後悔しないよう、そなたの信じた道を進みなさい。レティシアもだよ。自分の信じる道を真っ直ぐに、たまに寄り道したとしても、ちゃんと元の道に戻って、前に進むのだよ」


「はい、お祖父(じい)様」


 笑顔で答えるレティシアを抱きしめ、「わたくしの娘でいてくれてありがとうね」と囁いた。


 ★★★


「リュシー、アル、これからもよろしくね!」

 

「もちろんさ、レティ」

 

「こちらこそ、よろしくね」

 

「……でも、明日はお休みしたいわ」

 

「あれだけ騒がしかったんだ。無理もないよ」

 

「では、朝食は少し遅めにしようか」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 何気ない会話に、自然と頬が緩む。

 

 かつて暗闇の中で必死に手を伸ばし、共にもがき、守り抜いてきた未来。

 それは特別なものではなく、こんな穏やかな日常の中にあるのかもしれない。

 

 窓の外では、レガリア王国の夜空に満天の星々が輝いていた。

 

 ——大切な人たちと共に、この国を守っていこう。

 

 そう静かに誓いながら、私は隣に並ぶ二人へと微笑んだ。


 レガリア王国の夜空には、今日も変わらず星が降り注いでいた。


【完】

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