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ひっそりと民を救うのは、追放された真の貴族でした ―王太子の病を請け負った母娘の物語―  作者: 月城 蓮桜音


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第36話 墓穴を掘る偽公爵と、冷徹なる王太子の罠

 会場には煌びやかな装飾がなされ、穏やかな音楽が紡がれていた。

 会話の中心にいるのは王族である若い二人だった。


「王国の太陽へご挨拶申し上げます。リュシアン王太子殿下、ジュリアン殿下」


 今年成人する子息や令嬢たちと、その親や兄弟たちで会場は賑わっていた。本来、この会場に出入りできるのは、今年デビュタントを迎える貴族とその家族のみだ。


 そんな会場に、なぜか現れたオズワルド。公爵家の人間として知られているオズワルドは、自分が注目されていることに満足げだった。

 これから断罪されるのに呑気なものだと呆れているが、彼を招待したのは当然、王太子である私、リュシアンだ。レティシアが成人の年だからと、わざわざ『公爵であるオズワルド殿』と記して招待状を出しておいたのだが、簡単に食いついてくれたな。

 そんなこともつゆ知らず、オズワルドは私に挨拶をするために目立つ位置に歩み寄る。これが自分の最後とも知らずに……。


「お久しゅうございますな、リュシアン王太子殿下。病は完治されたとのこと、何よりでございます」


 尊大な態度で話しかけてきたオズワルドに、周囲の者たちが顔をしかめる。いつもサポートしていたエレオノーラ様が近くにいらっしゃらないと、挨拶すらしっかりできないらしい。これ以上は、公爵家の名誉に関わるから、そろそろ断罪を始めようか。


「オズワルド殿か。レティシア嬢が行方不明だと騒いでいたようだが、見つかったのかい?」


「あ、え、いえ、まだ見つかっておりません。母を亡くしたレティシアは、きっと悲しみが癒えるまでは表に出たくないのでしょうな」


「ほお? ()()レティシアがかい? 私には、それはあり得ないと思うのだが……」


「えっ? レティシアとお知り合いで……? どうか、レティシアを()()()もらえませんか! あいつがいなくなったせいで……っ!」


「うん? 『あいつ』と言ったか? 愛しい娘をか? それも、『返せ』とは、穏やかではないな。何があったのか、私に詳しく教えてくれるか」


 自分に有利になると思ったのだろう、考え込んでから話し出したオズワルドは、身振り手振りで必死に訴えかける。


「いえ、その、ちょっとした親子喧嘩なのです! レティシアが仕事をしたくないと言うので――」


「仕事? まだ成人していないレティシアに、仕事をやらせようとしていたのか? それに、彼女が成人するまで家業をやらせないとエレオノーラ公爵から聞いていたのだがな」


 私の冷ややかな声に、周囲の貴族たちから「未成年の令嬢に仕事を……?」「いくらなんでも横暴な……」と、不審の混じった囁き声が漏れ聞こえ始める。それに気づかないオズワルドはあたふたとしながら言い訳を連ねる。


「そ、それは……。公爵家の跡取りがレティシアしかいないのですから仕方ないでしょう。早くから仕事を覚えさせなければ、公爵家は潰れてしまいます!」


「ああ、そうだ。本来なら、潰れるべきだったのだよ偽公爵オズワルド。お前に公爵家を継ぐ権利が無いのだから、母娘の死亡届を出した時点で、お前は公爵家を出て行かなければおかしいのだ。それなのに、お前は公爵家の使用人の大半を入れ替えたな。お前自身にそんな大金を動かせるはずも無いのに」


「な、なぜそれを……っ!」


「調べさせてもらったよ。そして、本日デビュタントのレティシアから、お前に話があるみたいだから、呼んでおいたよ」


「はあ……?」


 腑抜けた声を上げたオズワルドがざわつきだした背後を振り返る。


「な、なんだと――!?」


 悲鳴のような奇声を発したオズワルドから「ふん」と視線を外し、私は愛しい人を見つめ、目を細めるのだった。

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