第35話 私の逃げ場が塞がれた!? 断罪前の大一番!
今日は待ちに待ったデビュタントの日。十歳だった私が復讐を誓い、実の父親を泳がせ、罪状が増えるのを待ち、母が復帰する日を今か今かと待ち望んできたのだ。
王城へ到着すると、リュシアンが人目を忍んで私たちを迎え、用意された部屋へと案内してくれた。
そこで改めて姿を整えた。私と母は、貴族としては少し細身ではあるが、美しいプラチナブロンドの髪も艶々にしてもらい、泥まみれだった肌は白くすべすべになっていた。
「……これが当たり前ではないのね。貴族としての責務を果たさない貴族なんて、存在する意味がないのだわ」
「辛辣だねぇ、レティ。スラムでの生活が大変だったのは分かるけど、普通の平民はあんなに辛い生活はしていないからね? 今後はスラムの在り方も考えていかなければと思ってはいるよ」
「リュシー。そうね、我々貴族が変えていかなければならないのね」
「レティシア嬢、そんなに気負わなくても良いんだよ。君も一人じゃないんだ。皆で未来の王国を良くして行ってほしい」
「は、はいっ! 精進いたします」
通りかかった国王陛下に声をかけられ驚いた私は、リュシアンの方を思い切り振り向いたが、サッと視線を逸らされた。
「確かに断罪する前に父にバレたくないからと部屋を用意してくれたのはありがたいけれど、ここは王族の居住区域だったの?」
「そうだよ。ここぐらいしか、貴族が入って来られない場所なんてないんだよ。王城であったとしても、居住区域以外であれば、王族の権限を振りかざしたりはできないからね」
「それなら仕方ないわよね。それにしても、この計画をよく進められたわね? お母様に反対されると思っていたのに」
「……君はお母上を美化しているんじゃないか? その、案外ノリノリで断罪する気満々だったんだが」
「ええっ、本当に?」
「ああ。それも『娘に断罪されるなんて、一生の恥よね』なんて楽しそうにしていたぞ」
「……血は争えないのよ、きっと」
ふふふと楽しそうに笑っている私の前で、リュシアンがいきなり跪いた。驚く私の手の甲にキスを落とし、視線を合わせたかと思ったら、今まで見たこともない甘い瞳で見つめられる。
「レティシア=アストレア嬢、君が成人するのを待っていたんだ。私と共に、この国を良くして行ってはくれないだろうか」
「い、いきなり何をおっしゃるのですか! 私は貴族としての勉強やマナーも未熟だと、自分で分かっています。社交もしていなかった私を王太子妃になんて、きっと皆が反対するに決まっています!」
「私を選べない理由はそれだけかい? であれば、私は君を諦めてあげることはできないよ」
「はえ?」
驚いて変な声が出た。「諦めてあげない」ですって?
「ええ? 諦めてくださいませ」
「うん? 何を今さら敬語なんて使っているのさ。今まで通り、二人きりの時はフランクに話しかけておくれよ」
「いや、さすがにもう無理でしょう。ここはスラムでもないわけですし」
「分かってるさ。これからは、パートナーとして隣にいて欲しいんだ」
「そ、その……。もうっ、なんで今なのよ!」
「レティが美しいからだよ。磨かれた君が、他の男の視線を集めるほどだったから。誰にも渡したくないと思ったんだ。スラムでの君も輝いていたけれど、今日は世界の誰よりも美しい。レティ、うんと縦に首を振ってくれないか?」
熱烈な口説き文句にぐうの音も出ない私は、憎からず想っていたリュシアンが相手ならばと頷いた。家格が公爵家の私と王家ならば釣り合いも取れるだろう。
「ありがとう、レティ! 愛しているよ!」
「……っ! お、お母様がお許しくださってからよ!」
「構わないわよ、レティシア。おめでとう、幸せになるのよ」
「えっ!? お母様!?」
「わーい! お義姉様ってお呼びして良いですか?」
「ジュリアン殿下!?」
「我々もいるが、お邪魔だったかのお」
さらに国王陛下と王妃様までお出ましになったことで、私はパニックになっていた。
「な、なんっ」
「可愛い娘ができて嬉しいわ。うちは男の子ばかりだったから、エレオノーラが羨ましかったのよ」
そういえば、王妃様は母と仲が良かったのだと聞いたことがあった。嫌われるよりは好かれた方が良いのは分かっているが、普通の舅や姑ではない。この国の国王陛下と王妃様なのだ。
「わ、私、やっていけるのかしら……」
小さな声でつぶやいた私に、リュシアンがニヤリとあの黒い笑みを浮かべた。
「レティ、逃がさないからね? くくく」
なぜだかゾクリと背筋が冷えるのを感じた私であった。




