第33話 喜劇の終幕直前
公爵家の屋敷からは、新しく雇われた者たちから順に解雇されていた。金銭的な余裕がなくなったのだ。そこまで大量に辞めたわけではないが、広い屋敷を整えるのが大変だと、侍女たちが愚痴を漏らし始めていた。
「スザンナ! 公爵代理が探していたわよ!」
「ありがとうございます。……それにしても、公爵代理、ですか」
「ええ。やはり私はエレオノーラ様以外を公爵様とは呼びたくないからね」
「私もそう呼ぼうかしら!」
「あらあら。皆さん、代理が見えない場所でなさってくださいね」
「ふふっ、スザンナは心配性よね。分かったわ」
「エレオノーラ様がお帰りになった時、皆さんが支えていかなければならないのですから、絶対に無茶はなさらないでくださいね」
現在の公爵家……オズワルドのやり方に納得していない者たちには、エレオノーラ様とレティシアお嬢様が生きていらっしゃることは伝えてある。その日から、皆の目が輝くようになったのは言うまでもないだろう。
「……スザンナ。そうよね、私たちの仕事はこの場所をしっかり守ることなのだわ」
洗濯場の使用人たちは皆で頷き合い、私に向かって再度頷いた。
「ああ、そうでした。乳母のエリーさんと、元キッチンのアンナさん。夜に伺いますので、お話を聞かせてくださいね」
「ええ、私たちで役に立つのであればいくらでも」
「はい、私も同じ気持ちです!」
二人は大きく頷きながら同意してくれた。私もしっかりと頷くと、オズワルドの部屋へと急いだのだった。
★★★
「お呼びでしょうか」
私は扉を小さくノックし、部屋の中へと声をかけた。
「入れ。遅かったではないか!」
扉を開けた瞬間、大声で怒鳴るオズワルドに、近くで書類の整理をしていた執事たちが顔をしかめる。
「申し訳ありませんでした。どこも人手が足りず、手伝って回っておりましたので」
「……それは仕方がないか。家は回っているのだよな?」
自分で確認もせず、最近入ってきたばかりの者に尋ねても意味がないことを理解していないらしいオズワルドに、あえて笑顔で答える。
「はい、公爵家としましては、体面的にもしっかり回せております。ただ、やはり……人数が随分と一気に減りましたので、仕事が遅れる場所があることは致し方ないかと」
「スザンナが言うならそうなのだろう。しかし、レティシアはなぜ戻って来ないのだ! 『ガストン』をスラムに向かわせてから、半年は経つというのに! もしかして、逃げやがったのか!?」
何を今さらと思うのは私だけではないだろう。『果報は寝て待て』なんて言っていたのだから、それ以外に何かしら作戦があるのかと思いきや……。当然そんなことはなく、何もできずに焦るだけのオズワルドに優しく声をかける。
「公爵様、そのガストンとやらを探せばよろしいのですか? 私のツテで、捜索いたしましょうか?」
「うん? スザンナには、そんな知り合いがいるのか?」
「はい。私は厳しく育てられましたので、色んな職業の者たちと知り合いになることができたのです」
こんな理由で納得するだろうかと思いつつも、考えるのが面倒で、適当な理由を口にしてみた。
「ほう? まあ、そうだな。ガストンが見つかれば全て解決するだろうからな」
いや、解決できるわけがないでしょうに。あなたが必要なのはガストンではなく、お嬢様の持つ正当な権利なのだから。深い溜め息が出そうになるのを飲み込み、ピシッと背筋を伸ばして応える。
「半年以内には、探し出せると思います。それで、支払いのことなのですが……」
しっかり金欠になってもらうためにも、持っているだろうお金を吐き出させる。あと半年だから意味はないと分かってはいるが、それでも見栄を張りたがるオズワルドだから、もっと罪状が増えるかもしれない。
「そうだな、さすがにツケにはできないだろうから……。仕方ない。私のブローチを報酬としよう。これと……これで良いか」
ズイっと私の前に手を差し出してきたので、手のひらを上に向けて受け取る。手のひらに転がされたそれは、美しい大粒のサファイアとエメラルドの宝石がついたブローチだった。
「かしこまりました。すぐに話をつけて参ります」
「任せたぞ」
私はそそくさと屋敷を後にする。そして、すでに書いておいた報告書と、この宝石の出所を書き足してから、顔を隠した、屋敷を見張っているベルモンド家の人間に静かに手渡す。
相手は小さく頷き、頭を軽く撫でてからいなくなった。面倒見の良い、兄と慕った使用人だったようだ。
私は少しほっこりとした気分のまま、街でお菓子を買い、下女たちへの賄賂として、こっそりと持ち帰るのだった。




