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ひっそりと民を救うのは、追放された真の貴族でした ―王太子の病を請け負った母娘の物語―  作者: 月城 蓮桜音


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第23話 集められた子供たち

 危惧していた状況になったのは、リュシアンたちと話をした二日後のことだった。


「これは猩紅熱(しょうこうねつ)の症状で間違いありませんな」


「今、スラムにいる子供たちのほとんどは、罹ったことがないらしいわ。先に手を打っておかなければ、取り返しのつかないことになりそうね」


「そうですな。私がスラム街を回って、注意を促して来ましょう」


「ありがとう。お願いね、ジイ」


 このままでは、空気の滞りやすいスラムでは爆発的な集団感染を起こす可能性がある。高熱や発疹の症状が出た場合、速やかに隔離しなければならない。


「やあ、レティシア。ノックしても返事がなかったから、お邪魔しているよ」


「リュシアン殿下。おそらく数日以内に、このスラムは猩紅熱の集団感染により、子供たちで溢れかえることになると思われます。殿下は過去に罹られましたか?」


「ああ、私は罹っている。彼らはどうだろうか」


「アルフォンスは罹っていないはずです。感染が落ち着くまでは、ここに来ないように言ってもらえますか。あと、十五歳以下の子供たちが近寄らないように、貴族たちにも情報を流してもらえると助かります」


「分かった。すぐに王城へ引き戻して対策を練って来るよ」


「よろしくお願いします」


 私は一つしかないベッドを端にどかし、床を掃除し始めた。おそらく子供たちが雑魚寝することになるだろうから、少しでも綺麗にしておこうと思ったのだ。


 それから数時間後、熱が出た子供たちで診療室はいっぱいになっていた。


「赤ん坊から連れて来てください! 熱で意識がない子もこちらへ! ごめんね、我慢できそうな子はちょっと待っていてね」


 私は指示を飛ばす。子供たちの泣き声で、阿鼻叫喚の有様だった。ジイの声も聞き取れない状態で、私は一人目の赤ん坊を治療することにした。ジイがいない状態で力を使うのは控えたいけれど、そんなことを言っている場合ではなかった。


「よしっと。お母さん、水分をたくさん与えてくださいね。次はどの子?」


「聖母様、娘をお助けください!」


 目の前にはぐったりと意識を失った娘を抱え、涙を流す母親の姿があった。


「お母さん、大丈夫ですよ。治療を始めますね」


 意識を集中し、病を引きずり出す。黒い靄は不気味で、母親は慄いていた。それをギュッと圧縮し、霧散させる。訓練の甲斐があって、キラキラと眩しい光は出なくなった。あれが出ると、特別なことをしているように見えるから困っていたのよね。

 私は母の仕事を受け継いだだけだと思わせなければならないのだから。


「さて、次はどの子?」


「お嬢様、少しペースが速いのではありませんか?」


「ジイ、私は大丈夫よ。悪いんだけど、できるだけ『剥離』してもらっても良いかしら。少しでも魔力を温存して、数を助けなければ」


「かしこまりました。おそらく三十人ぐらいなら剥がせると思います」


「よろしくね、ジイ」


 私は病を『吸い出す』ための魔力を節約し、霧散させることに集中することにした。本来、請け負いを得意とするアストレア家の血筋では、『吸い出す』のには大量の魔力を消費するのだ。ここからは、時間との勝負になる。小さな子供たちは体力がないからだ。


「レティシア! 氷嚢と氷を持って来れるだけ持って来たよ。こっちで配るから、気にしないでくれ」


「ありがとうございます、リュシー」


 赤ん坊を中心に、意識のない者から治療を続け、二時間ほど経った頃。

 私は急に体が重くなるのを感じた。治療した子供たちの数は、五十人を超えていた。ああ、魔力切れだわ。


 頭の中がふわっと浮いたように感じ、私は後ろに倒れ込んだようだ。意識が朦朧としていて、誰かに抱きかかえられたところで、意識を手放したのだった。


 ★★★


 子供たちのすすり泣く声が聞こえる。私はガバッと体を起こした。まだ治療の途中だったはずだ。子供たちを救わなければ!


「レティシア! 急に体を起こすんじゃない! ゆっくり休んで大丈夫だから」


 優しい声で私を宥めるのはリュシアンだった。


「でも、子供たちが!」


「大丈夫だ。城に常駐している『剥離師』と、アルフォンスの母親である、ベルモンド侯爵夫人が『請け負って』くださった。今のところは重篤な患者はいないから、しっかり休んで今のうちに魔力を回復させるんだ。ここには信用できる者しか出入りさせられないから、レティシアの力が必要だ」


 リュシアンにしっかりと見つめられ、そう告げられた私は、小さく「はい……」と言って、ベッドに戻るしかなかった。

 疲れが取れていないのだろう、私はあっという間に眠りに落ちたのだった。

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