第17話 覗きを勧められた理由
待機していた客間に現れたリュシアンは、目を細めたくなるほど、いつもよりも眩しかった。装飾品などもそうだが、今日は『王太子殿下』という服を着ているかのようで、威厳までも五割増しだ。
「やあ、レティシア。よく来てくれたね。最初から一緒に見るかい? そこはマジックミラーになっているから、前半はこっそり覗き見て、途中から登場した方がアイツのダメージは大きいと思うんだが、どう思う?」
ニマニマと楽しそうに断罪のシナリオを考えているらしいリュシアンに、壁にかかっていたカーテンを少しだけ開いて覗き込む。
「まあ、丸見えじゃないの」
正面には王座があり、数段下にあの小太りの役人が立っていた。横の壁側には鎧姿の騎士と、おそらく王族の近衛騎士が帯剣した状態で待っている。
「ふふっ。危ない挙動を見せる者がいないか確認するために作られたんだよ。この謁見の間は、断罪専用なんだ」
「通常使う謁見の間は別にあるってこと?」
「そうだよ。血なまぐさい場所で日々謁見したくないだろう? 何かが起こりそうだったり、犯罪者の断罪には、この謁見の間を使うんだ。あくまで『謁見の間』だから、呼び出された者が抵抗なく入ってこられる配慮があるだけで、『断罪の間』が正しい呼び名だよ」
「まあ……。私なんかに教えても良かったの?」
「ふふっ、構わないよ。君がここに『加害者』として立つことは一生ないだろうからね」
「……当たり前じゃない」
「口外しないでくれたら問題ないよ。さて、もうすぐ始まるね」
「私は身なりを整えていないから、途中で入るわ。私がいたら、話が進まないでしょうし」
「さすがだな。フォンテーヌ卿はどうする?」
「私めも、こちらに」
「分かった。レティシア、また後で」
煌びやかな微笑みを振りまいたリュシアンが退出し、王族の出入りする扉から謁見の間へ入場すると、待機していた者たちが一斉に頭を下げた。さすがは王太子ね。たった十五歳の少年には見えない貫禄がある。
「待たせたね。それでは始めようか」
「はっ!」
リュシアンが国王の隣に座ると、宰相らしき男がリュシアンの隣で声を上げる。あら、いつの間にか国王陛下までいらっしゃるわ……。ちらりとジイを見上げると、額から冷や汗を流していた。私たちは二人とも、まさかこんなに大々的な断罪になるとは思っていなかったのだ。
「被告人は常駐役人のガストン=モレル。着服したとされる、九百八十枚もの金貨の行方を詳しく説明してもらいましょうか」
「私は断じて着服などしておりません! スラムの母娘にしっかりと渡しました!」
「そうですか。その発言に嘘はありませんね?」
「もちろんです!」
「もし、ひとつでも嘘が紛れ込んでいた場合、即刻処刑されますが」
「えっ?」
「先ほど書類にサインしたでしょう? 『虚偽の発言は、見つかり次第些細な内容でも即処刑とする』と、書いてありましたが。嘘はついていないのですよね? なら問題はありませんので」
「も、もちろん……です……」
尻すぼみになるガストンの声に、私は苦笑いしながら続きに耳を澄ませる。
「わ、私は確実に金貨を千枚渡しました! それでもあのスラムの女どもは少ないと言いがかりをつけてきたのですか? 何とも卑しい下賤の民ですな。あの者たちを処刑すべきであって、私ではありません!」
私はこめかみがピクピクと痙攣するのを感じながら、心の中で「まだよ、まだだわ」とつぶやいて我慢する。
「ほお、私の命を救った恩人に対して『卑しい下賤の者』などとよくも言えたな? 彼女たちがいなければ、今頃私はこの世にいなかったのかもしれないのだぞ!」
空気がビリリと震えるような威厳のある声で低く怒鳴ったリュシアンは、これまでのヘラヘラした彼とは全くイメージが違った。さすがは王族なのだろうが、こちらが彼の本質なのだろうか。
「え、あっ、いえ、その……」
しどろもどろになりながらも必死に言葉を探しているガストンに向かって、リュシアンは書類を読み上げた。
「私の治療が行われた二ヶ月前から、お前はとても景気が良さそうだ。普段は週に二回ほど通っていた飲み屋に毎日のように入り浸り、博打の借金も一括で返したんだって? 残りは愛人に宝石類を金貨四百枚分プレゼントしたと、王都の宝石店で確認が取れているが、この報告が偽物だというのだな?」
「えっ! そ、それは……」
「証人を呼んである」
扉から入って来たのは、なぜ呼び出されたのか分かっていない、ガストンの愛人だった。同行した騎士たちの一人が、木箱をリュシアンの前に置き、蓋を開けた。
「さすがは金貨四百枚分の宝石だな。これは全て、ガストンに買ってもらったもので間違いないか、答えよ」
木箱から掬い上げて見せる宝石は赤に緑にと色とりどりで、一目見て高級品だと分かる輝きを放っていた。
「え? は、はい……。ガストン様にいただきました」
目の前にいるのが王族であることだけは理解している愛人は、聞かれたことに正直に答えた。嘘をつけば不敬罪で捕まるからだ。
「さて、ガストン。この宝石たちを買う金を、お前はどこから工面したんだ? お前の安月給じゃ、この宝石を一粒ですら買うのは難しいだろう。それとも何か、別の犯罪にでも手を染めたのか?」
嘘でしたと言ってしまえば、『即処刑』となってしまうガストンは、視線を彷徨わせて困り果てていた。そろそろ私が出て行かないと、リュシアンが断罪して終わってしまうわね。
「ジイ、行きましょうか」
「はい、お供します」
私は立ち上がり、扉の近くに立っていた騎士に視線を向けると、頷いた騎士が扉を開けて案内してくれる。
謁見の間の前に立ち、騎士に「よろしいですか?」と声をかけられた私はジイに視線を送ってから、頷いた。
「失礼します」
騎士が扉を開き、私とジイが謁見の間へ入室する。私を見つけたガストンは、唾を飛ばしながら大声を上げた。
「お前! お前のせいだ! お前が全部悪いんだ――!」
シーンと静まる謁見の間で、リュシアンだけが面白そうに口角を上げたのを、私は見逃さなかった。




