第15話 横領と、明日への招待
私の寝室に朝一番で報告に来たマクシミリアンに大きく頷き、すぐに報告書を受け取り目を通す。
「さすが、仕事が早いな」
視線を向けずに褒めると、マクシミリアンは不敵に微笑んだ。
「我が家の『影』を舐めてもらっては困りますよ」
徹夜明けだというのに、無駄に爽やかな男だ。
「……やはり、あいつか」
「ええ、殿下の読みは当たりましたね。金貨1000枚のうち、彼女たちに渡ったのは、わずか20枚。残りの980枚のうち400枚は、あの役人がお気に入りの女に買い与えた宝石に化けていました。残りは博打と酒です。……ずいぶんと、舐められたものですね、殿下」
「マクシ、褒美をやるから、その女の身辺も押さえておけ。明日、すべてを吐き出させる」
「仰せのままに」
ふっと姿を消したマクシミリアンの行動の速さに、優秀な側近をもう少し増やしたいな、などと考えながら身支度を整えたのだった。
★★★
「やあ、レティシア。爽やかな良い朝だね」
「……ごきげんよう。空は曇天ですが」
「あはは、君は素直だね。今日は聞きたいことがあったから来たんだよ」
レティシアはじとっとした目でリュシアンを見つめるも、彼が全くダメージを受けていないと分かると、諦めたようにお茶を淹れ始めた。なんだかんだ言っても、レティシアは高位貴族。最低限のおもてなしはしてくれる気のようだ。
「この前も思ったが、そんな欠けたカップを使っていたら危ないだろう。もう報奨金は受け取ったのか?」
「はんっ。ええ、そうですわね。雀の涙ほどいただきましたわ。お母様はお許しになるかもしれないけれど、私はお母様への侮辱とも取れるその行為を許さないわ」
「そうか。君の好きにすれば良い。明日、馬車を回すから、それで城の離れまで来てくれるか」
「……何よ。ここじゃ駄目なわけ?」
「断罪するには、見届け人が必要になるからな。ここは私しか知らない。君も、周囲には知られたくないのだろう? そなたは母上の代わりに訴える人間として、目立たぬように来てくれ」
気持ちを見透かされたように感じたレティシアは、少し顔を赤くし、照れ隠しのように口を尖らせて言い募った。
「……私に貸しを作っても、回収できないわよ」
「貸しにするつもりなんてないさ。不正をした人間がいるならば、民を守るために力を使うのが王族の務め。これは国のために行っていることだよ。膿は出さないと、そこから腐ってしまうからね」
「……そう」
カップに残っていたお茶を一気に飲み干したリュシアンは、ひらりと手を振った。
「明日は、欠けていないカップで美味い茶を用意させておく。……楽しみにしているよ」
「なんっ……!」
言うことだけ言うと、さっさと帰ってしまうリュシアン。その背中を、レティシアは悔しそうに睨みつけながらも立ち上がって見送るのだった。




