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ひっそりと民を救うのは、追放された真の貴族でした ―王太子の病を請け負った母娘の物語―  作者: 月城 蓮桜音


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第12話 しつこい来訪者と、目の前の奇跡

 私より五つ年上のリュシアン殿下に、私たちが必死に隠してきた諸々の事情がバレてしまった。

 母に会いたいという殿下に、「今日はもう遅いから、顔を見るだけで帰ってほしい」と伝えると、それでも構わないという殿下を隣の部屋へ(いざな)う。


「……っ! エレオノーラ公爵……。本当にありがとう。またお見舞いに来ます」


 熱に魘され、汗だくでぐったりしている母に向かって頭を深々と下げ、私とジイに辛そうな微笑みを見せたリュシアン殿下は、王城へと帰って行った。

 やっと嵐が去ったとホッとしていた私は、リュシアン殿下がどれだけしつこい(たち)なのかを全く理解していなかったのだった。


 ★★★


「やあ、レティシア嬢。お邪魔するよ」


 綺麗な微笑みを振り撒きながら現れたリュシアン殿下に、うんざりした顔を隠さずに向ける私。


「そんな顔をしないでおくれ。なぜ嫌がるんだい?」


「ですから、殿下がいらっしゃるような場所ではないと……」


「そんなことは無いさ。民の生活を知ることも、王族にとっては大事な勉強だろう?」


「はあ……」


 口の達者な人を相手にするのは疲れる。私は仕方なくキッチンでお茶を注ぎ、殿下の前に出した。一応相手は王族なのだ。勝手に押し掛けてきたからといって、もてなさない理由にはならない。


「それを飲み終えたら帰ってくださいね」


 カップを上品に持ち上げ、ゆっくりと喉を潤した殿下は、私に視線を向けて首を傾げた。


「今日はエレオノーラ公爵に挨拶できるだろうか?」


「どうでしょう? 日によっては目を開けることもあれば、数日眠ったままの時もありますので」


「……そうか」


 沈黙が息苦しく感じてきた頃、元気よく子どもたちが治療院を訪れた。


「レティ姉ちゃん! 二つ隣の通りのマヤが昨晩から熱を出したって」


「まだ下がっていないのね?」


「うん。マヤの母ちゃんが一時間後に行くって伝えてくれって」


「分かったわ、ありがとうね」


「俺たちは昼からパトロールしてくるね!」


「気をつけていってらっしゃい。あ、ジョンは市場の方も行くのかしら?」


「行くよ。いつものパンで良いの?」


「ええ、お願いできるかしら。ルイージも一緒に行くわよね?」


「うん、そのつもり」


「じゃあ、芋もお願いできる?」


「良いよ。いつもの量で良いの?」


「ええ、五キロね。重かったら、リヤカーを借りてね?」


「大丈夫だよ! 俺ら交代しながら運ぶから!」


「ふふっ。いつもありがとうね。これ、お代ね」


 子どもたちとの会話は、いつも癒やしをもたらしてくれる。笑顔で手を振る彼らを、リュシアン殿下は興味深そうに視線で追っていた。


「随分と懐いているのだね」


「母が元気な頃は、孤児院やスラムで休みのたびに奉仕活動をしていましたから」


「なるほど、顔馴染み……」


 黙って考え込んでいた殿下は、いつの間にか船を漕ぎ始めた。


「あらら。ジイが来るまで放置で良いかしら。年頃のレディが殿方に触れるのはよくないわよね」


 仕方ないとブランケットを掛けるだけに留めて、もうすぐ来る予定のマヤ母娘を受け入れる準備を始めた。


「ごめんください」


「お待ちしていました。マヤ、調子はどう?」


「ゲホゲホッ! ぐ、ぐるじいよお。お姉ちゃん、助けて」


「ええ、もちろんよ。おじいちゃん先生が来たら、すぐに剥がしてもらおうね。大丈夫よ、すぐに来てくれるわ」


 そう言い終わると同時に、ジイが玄関の扉を開けた。


「おや、お待たせしてしまいましたね。すぐに取りかかりましょう」


 ジイがマヤのお腹に手を当て、まるでジイが剥がしたかのように振る舞う。そして、それを私が請け負ったように見せてから、一瞬で美しい光の粒子と共に霧散させた。


「ガタン!」


 椅子が倒れる音に驚き振り向くと、リュシアン殿下が頭を抱えていた。


「でん……リュシー、頭が痛いのですか?」


「いや、後で大丈夫だから、彼女を先に」


「あ、はい……。マヤ、どう? 苦しいの、無くなった?」


「うん! お姉ちゃん、ありがとう! 病気になっちゃってごめんね」


 少し涙目のマヤは、もうすぐお姉ちゃんになる。だから、人に迷惑をかけないようにと思っていたのだろう。


「マヤ、病気はなりたくてなるわけじゃないでしょう? お腹もしっかりお布団に入れていて、それでもなっちゃったら仕方ないわ」


 微笑みながら、優しく頭を撫でる。できるだけ視線を合わせて、大丈夫よと気持ちが伝わるようにギュッと抱きしめた。


「うん……。いつもありがとう、お姉ちゃん。わたしもお姉ちゃんみたいなお姉ちゃんになるね!」


 微笑ましい光景のはずなのに、視界の隅に映る、頭を抱えたリュシアン殿下。大きなため息を吐きたい気持ちを落ち着けながら、私はマヤ母娘を見送ったのだった。

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