第10話 不思議な繋がり
私の名前はリュシアン=クロード=フォン=レガリア。レガリア王国の王太子だ。
つい二ヶ月前までは、身体を起こすことすら辛かったが、ようやく体力が戻り、医者にも問題ないと太鼓判を押されて執務に戻っている。まあ、更に数ヶ月前の、『熱傷病』に罹っていた時よりはマシだが。あの時は生きた心地がしなかった。
文字通り、体中を火で焼かれるようなあの壮絶な痛みを、見ず知らずの平民の女性がすべて引き受けたという。
あんなに辛い病を『請け負った』者がいるからこそ、私は今、こうやって生きているのだと理解している。
だからこそ、一目会って礼を言いたかった。王太子の病を肩代わりしたのだから、それ相応の待遇は受けているだろうが、あの辛さをこの身に受けていたからこそ、感謝の気持ちが絶えないのだ。
不治の病だと聞いている。何もしてやれないかもしれないが、できることなら生活の援助など……自己満足に過ぎないが、させてもらえたらと思っていた。
だが、探しても探しても手がかりが掴めない。役人が降ろしたという場所を中心に探したが、普通の平民が暮らす地域で、聞き込みを進めるほど、その日に馬車が通った形跡がないことが明白になっていった。
その役人たちを呼び出し、話も聞いたのだが、二人で行動すべき役人が、片方を置いてけぼりにしてしまったのだという。真面目そうな背の高い男が置いて行かれたらしく、どこへ届けたかはいまだに分からなかった。
ただの不手際にしては、あまりにも杜撰すぎる。背の高い男を置き去りにしたという、もう一人の小太りな役人の怯えたような目が、どうにも妙に引っかかっていた。
その時に働いていた『剥離師』たちは、声を揃えて、気高く美しい『請け負い屋』だったと証言している。なんと、移すまでにかかった時間はたったの五分。ベテランの剥離師たちが、『奇跡だ』と震えていたらしい。
病を自ら受け入れなければ、そんなスピードで移すことはできないのだと、十人全員が断言するのだった。
私は、そんな彼女に会ってみたいと興味をそそられた。不謹慎だと分かっているが、そんな気高い人間が平民にいたとして、本当にたった五分であれだけの病を請け負うことができるのか。そして、これまでどんな考えで生きて来たのか、色々聞いてみたいと思ってしまったのだ。
そんな中、王都の西にあるスラム街の子どもの致死率が、なんとゼロだという報告が上がってきた。それも数ヶ月連続で、だ。
貴族の子どもですら致死率は数パーセントあるというのに、スラムの子どもたちが誰一人として亡くなっていないのは奇妙に思えた。
調査している役人が手を抜いたか、数字を間違えたか……? いやいや、間違えることはあり得ないだろう。死者は片手で足りるどころか、一人もいないと記されているのだから。
恩人が見つからず、手詰まりになっていた私は、その不思議なスラム街に、何かヒントがありそうだと感じた。
勘でしかないが、そのスラム街の致死率がゼロになった背景を調べれば、何となくだが病を請け負ってくれた彼女に会える気がしたのだ。
思い立ったらすぐ行動を起こす。時間は有限なのだ。捜索に手こずっている間に、彼女が亡くなる可能性だってあるだろう。
生きている間に感謝を伝えたい。私はどうしても、彼女に一目だけでも良いから会いたかった。その一心で、スラム街へと足を向けたのだった。




