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やわらかな王の墓  作者: たむ


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第47話 半身の君主

 半身の間を出たあともしばらく、私は自分の足で歩いている感じがしなかった。


 回廊の石の冷たさはいつも通りのはずなのに、王の目だけがまだ身体のどこかへ残っている。

 見られた、というより、読まれかけた感覚だった。

 墓が私へ問い、王がそれを自分の口で返してきた。

 あれは謁見というより、王と墓が同じ問いを別の声で確認する場だったのかもしれない。


 セリオは私たちを半身の間から少し離れた控え廊へ移した。

 誰もすぐには喋らない。

 侍従たちの足音が遠ざかってから、ようやくネムが小さく息を吐いた。


「想定より、だいぶ明瞭でした」

「何が」

 私は問う。

「王ご本人が、自身と墓の接続を自覚していることが」

「本人なんだよな、あれ」

 自分でも妙な問いだと思ったが、口をついて出た。


 エナが静かに答える。

「はい」

「でも同時に、本人だけじゃない」

「それも、はい」


 私は壁へ背を預けた。

「半身の君主、か」

 ネムが言葉を拾う。

「古い呼び方です」

「古い?」

「ええ。正式には使われません。記録に残るのは“第十三の王”だけ」

「でも実際には?」

「埋葬官や古い門務の者は、ときどきそう呼びます」

 

 半身の君主。

 生きているが、半分死んでいる。

 君主だが、その半分は塔や墓や勅令の割れ目へ預けられている。

 私が見た男は、たしかに一人の人間だった。

 だが同時に、その一人の輪郭へ収まりきらない。


「水の話をしましょう、って言ってたな」

 私は呟く。

「井戸のことか」

「おそらく」

 エナが答える。

「王都の古井と、王の状態はつながっています」

「村の井戸ともか?」

「はい。少なくとも、今は」


 セリオがようやく口を開いた。

「今日の謁見で重要なのは、あなたが王を“生きている墓”と見たことです」

「本人の前で言うつもりはなかった」

「ですが、言った」

「聞かれたからな」

「ええ。だから意味がある」

 

 私は少し苛立った。

「何でも意味にするなよ」

「王都ですので」

 セリオは本気でそう言った。

「意味にしなければ、別の誰かがもっと悪い意味にする」


 それは、反論しにくい現実でもあった。


「王は、俺が何を答えるか試したのか」

 私が問うと、ネムは答えた。

「試した、というより」

「測った?」

「ええ。あなたが“哀れな人間”を見るのか、“制度の器”を見るのか」

「両方見えた」

「それが一番危ういのです」

 

 その言い方には、少しだけ棘があった。

 だが、わかる。

 人として見れば同情する。器として見れば距離を取れる。

 両方見えてしまうと、判断が遅れる。

 この国では、その遅れがそのまま席の揺らぎに飲まれるのかもしれない。


 エナがぽつりと言った。

「王は、あなたに安心したようでもありました」

「“まだそこまでは読まれていない。よかった”ってやつか」

「はい」

「何がよかったんだ」

「たぶん」

 彼女は少し目を伏せる。

「あなたが、まだ王墓の答えを持っていないことが」

 

 私は眉を寄せた。

「答えを持ってたらまずい?」

「はい」

「誰にとって」

「……王にとっても、あなたにとっても」


 半身の君主。

 王は自分の墓が誰を待っているか知りたくないのかもしれない。

 あるいは、知ってしまえばその瞬間に“空く”ことを恐れているのかもしれない。

 生きているのに、席だけが先に失われる。

 この国では、それが冗談では済まない。


 控え廊の窓の外で、灰色の空がわずかにうねった。

 骨魚だろう。

 だが今日は見上げなかった。

 見上げたところで、たぶん同じものの別の半分を見るだけだ。

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