20話
大神殿の戦闘のあと怪我人や意識を失った者を王城に連れ帰り、残ったもので大神殿の中を捜索した。
大神殿のアチコチに干からびた神官の遺体がころがっていた。
神官長の部屋からは、大陸中の貴族や商人、官僚からの神託依頼書が大量に見つかり、ご丁寧に寄付金の額まで記されていた。
だが、いくら探してもアーサーとフローリアの姿は見つからず、唯一見つかったのは砕け散ったフローリアのレイピアだけであった。
数日後、意識を取り戻し話せるまでに回復したクレアのもとへロバートが訪れた。
「クレア、大丈夫か?」
「はい、申し訳ございません。わたくしが傍についていながら……」
「クレアのせいではないよ。クレアはよく頑張った。礼を言う」
「わたくしがもっと強ければ、姫様をお守りできましたのに……」
「死んだと決まったわけではない」
「……しかし……」
「殿下は15年も行方が分からなかったんだぞ」
<その通りだ>
ロバートとクレアが入り口の方へふりかえると、ヨロヨロとした足取りでシロが入ってきた。
「シロ殿、どういうことですかな?」
ロバートはフラフラしているシロを抱き上げ、クレアの横に寝かせてやった。
<もしアーサーが死んでいるなら、俺は森に帰ろうとするはずだ。
だが、ここに居ることに違和感を感じていない>
「シロ、それはどういうことかしら?」
<俺の使命はアーサーの守護。アーサーが居なければ森に帰り、普通の神獣として過ごすのが当たり前だ>
「それは殿下が帰ってくるということなのか?フローは?」
<フローリアは身体が崩壊しかけていた。アーサーを守りたい一心で魔力を放出し続けていた>
「……身体が崩壊……」
<そんな思いをアーサーが無碍にするはずはない。アーサーの優しさは皆知っておるだろ?>
「待つしかないのか」
「いつまでもお待ちしますわ」
清浄な空気の中で、少年と少女が眠っている。
「無茶しおったな~」
「ふたりとも限界以上に力を放出しましたからね」
「アーサーはともかく、人間の姫は無茶しすぎじゃ」
と髪を撫でようと手を伸ばした。
ぺしっ
「変態親父が触れるでないっ!汚れる」
「神が触って汚れるなどと……」
「それにしても、この娘の魂は綺麗ね。坊やと同じくらい澄み切ってるわ」
「そうじゃな。そうでなければ天上界では耐え切れんじゃろう」
「坊やも必死だったのね。天上界に連れてくるなんて」
「そのせいで、この娘も……」
「あら、可愛い娘が出来たこと嬉しくないの?」
「そりゃあ嬉しいぞ。パパぁなんて呼ばれてみたい」
「やっぱり変態かっ」
蔑んだ目で『知の神』をみつめる『生命の女神』であった。
「うう~ん」
アーサーの目がゆっくりと開いた。
あたりをキョロキョロと見回し、義父母の姿を見つけ微笑んだ。
「坊や、目が覚めたようね」
「『澱』は?」
「坊や達の頑張りで気配が消えたわ」
「よかった~ リアは?」
『生命の女神』はアーサーの隣を指差した。
アーサーはフローリアが眠っていることを確認して安心したようにフローリアの髪をなでた。
「リアも無事だったようですね」
「無事っていうか、坊やと同じになっちゃったわよ」
「僕と同じ?」
「そう、天上界に連れてきちゃったから」
「ああ、そういうことですか。それしか助ける方法が見つからなかったから」
「身体が崩壊しかけてたから、地上では助からなかったでしょうね」
「これからどうしたら良いのでしょう?」
「彼女には使命を与えるしかないわね」
「どんな使命?」
「戦女神なんてどうじゃ?戦闘服で男を踏みつけ……」
「「変態は黙ってなさい」」
「坊やのことを命をかけて守ろうとしたから『愛の女神』ってどうかしら?」
「リアの性格からしたら、やっぱり戦女神?」
「愛は戦って勝ち取るっこともあるのよ」
「それなら、ぴったりかもしれないね」
「もう加護も与えちゃったし」
「女の子に紋章を刻むのには抵抗があるなぁ~」
「大丈夫よ。彼女には魂に直接刻んだから。坊やのも刻み直しておいたわよ」
アーサーは両腕から紋章が消えているのに気付いた。
「一人前の神様が、他の神の紋章を身体に刻んであるのは可笑しいでしょ」
『生命の女神』は悪戯っぽく微笑んだ。
「それから、あなた達にも人間に加護を与える力があるのよ」
「僕達にですか?」
「そう、魂の綺麗な人間になら加護を与えられるわ」
「どうやって?」
「その時になれば自然にできるはずよ」
「わかりました」
「彼女が目覚めたら、森に行って彼女に『神気』の使い方、抑え方を教えてあげてね。それからじゃないと人間のところには帰れないわ」
「わかりました」
しばらくして目を覚ましたフローリアに事情を説明し、2柱の神を紹介すると慌てふためいて平伏したり、拝んだりと皆を笑わせた後落ち着きを取り戻した。
「私が神様?」
「そうだよ」
「なにも変わってないような気がするんだけど」
アーサーは何もない空間から鏡を取り出しフローリアを写してやった。
そこには金髪に金の目をした自分が写っていた。
「これが私?なんか派手ね。似合うお洋服も変わっちゃうわ」
と見当違いなことを言いながら、自分の姿を受け入れるフローリアであった。




