10話
神官長が帰った後も夜会は続いていた。
アーサーは子女達に囲まれ、フローリアは子息達に囲まれて身動きできない状態になっていた。
「アーサー様には許婚がいらっしゃるの?」
「どこの国からいらっしゃたの?」
「陛下とはどのようなご関係?」
アーサーはウンザリしながらも、爽やかな笑顔でのらりくらりと話しをかわしていた。
見かねたクレアがアーサーの傍により
「アーサー様、姫様がお呼びです」
と周囲の子女達から睨まれながらも、申し訳なさそうに礼をしてアーサーを連れ去った。
「クレアさん、助かったよ」
「どういたしまして、従弟殿 うふふ」
フローリアの近くまでやってきた二人は、様子がおかしいことに気付いた。
小太りの、いかにもお坊ちゃま風の少年が数名の取り巻きを従えフローリアと話していた。
「陛下も婚約なされたことだし、我々も発表しようではないか」
「何を発表するんです?」
「何を言ってるんだい?父上からレジアス公爵に話はいってるはずだが?」
「さあ、なんのことかしら?」
「公爵家同士の縁をふかめようと」
「縁ですか?武術の交流戦の申し込みですか?」
「クレアさん、あの方は?」
「ああ、デロリアン公爵の次男ですね。前々から縁組のお話があるのですが、ご当主様も姫様も相手にされておりません」
「ああ、先ほど父親がロバートさんに子息を押し売りしてたよ」
「あらあら、懲りもせず……」
「交流戦!?そんな話は申し込んだこともないが?」
「あら残念、最近申し込みが少なくって張り合いがございませんわ。
これでは婿選びも難航しそうですわ」
フローリアは周囲を見回し困ったような顔を向けたが、アーサーを見つけニコリと笑った。
「あら、アーサー様。楽しんでおられますか?」
「はい、陛下やローズ様ともお話させていただきました。お幸せそうで喜ばしいかぎりです」
「おい、貴様っ、今は俺がフローリアと話しておる。さがっておれ」
どちらさま?という表情でアーサーはフローリアを見た。
「貴様、デロリアン公爵家のご令息がさがれといっておるのがわからんのかっ!」
取り巻きたちも威勢よくアーサーにさがるよう命じた。
「フローリア、デロリアン公爵家の『知略』とレジアス公爵家の『武勇』がひとつになる良い機会と思わぬか?」
「『知略』?レジアス公爵家は武門の家柄、弱い殿方には興味ありませんわ」
「武術に優れた者など金で集めれば良いではないですか?」
「それは当家の在り方を否定されるということですね」
「んなっ!?そういうわけでは……」
「では、どういう意味かしら?」
「指揮官の戦略を実行できる兵は金で買えるということです」、
「それでは、その戦略とやらを見せていただきましょう。
明朝、あなたを含め10人を集め、試合をしていただきます。
当家は私とクレアでお相手させてもらいます。よろしいですわねっ」
「そんな急には……」
「あなたのいうお金で集めればよろしいのでは?
女二人に恐れをなして逃げるのも戦略かしら、おほほほほほ
魔術士を雇われても構いませんわよ。
それに、陛下からの依頼で当家がお預かりしてるアーサー様を『貴様』呼ばわりするような『恥略』なぞ当家には必要ありませんわっ」
「へ・陛下のお客人!?」
「陛下のお客様に無礼を働いたのです。
ことわることは許しませんわ。
明朝、当家の鍛錬場でお待ちしております。
皆様方も、お時間がございましたら観戦にお越しください」
フローリアは悠然とアーサーの腕をとって立ち去った。
子息達は蒼い顔をして慌てて帰っていった。
様子を見ていたロバートとアルフレッドが近づいてきた。
「フロー、面白そうなこと始めたな」
「フローリア嬢、俺も見に行っていいか?」
「陛下がですか?きっと暇つぶしにもなりませんわよ」
「あはははは あの生意気な親子が恥をかくのを見たいだけじゃ」
翌朝、朝食前の練習が終わった頃、デロリアン公爵家一行が到着した。
試合のメンバーはデロリアン公爵の次男と取り巻き2名、あとは高そうな武具をつけた5名の剣士と2名の魔術士であった。
応援にはデロリアン公爵本人や取り巻きの親達が来ていた。
観戦者は国王をはじめ、近衛騎士団長や多数の貴族達がきていた。
フローリアが試合場に進み出て試合開始の宣言をした。
「それでは始めましょうか。
試合は10対2の対決、場外もしくは戦闘不能となった者が脱落です。
もしデロリアン公爵家が勝てば、私への縁談をお請けいたしましょう。
負ければ二度と私に近寄らないでいただきます。
よろしいですね」
観客からの拍手の中、両者が前にでてアルフレッドの声で試合開始となった。
「団長、この試合どう見る?」
「陛下、剣士の力量はお嬢様達にはかなわないでしょうが、魔術士がやっかいですね」
デロリアン公爵家が雇った5人の剣士がフローリアとクレアに対峙し、後方で魔術士が呪文を唱え始めた。
剣士の影から火球が飛び、フローリアとクレアを直撃したように見えたが、そのまま火球は通りすぎ味方の剣士を直撃した。
戸惑う剣士をあっさりと打ち倒し、残った3人に貴族には剣も使わず急所に蹴りを叩きこんだ。
「準備運動にもなりませんわ」
と何事もなかったかのようにフローリアは言い放ったが、見物していた男達は股間を押さえ蒼い顔をして試合場をみていた。
パチパチパチ
「フローリア嬢、最後のはゾッとする攻撃だな。
こんなにあっさりと済んでしまっては観客も退屈ではないか。
折角だから何か見せてくれんか?」
「そうですわね~ 私と父上との対戦とか?」
「それは面白そうだな。ロバート、見せてくれるか?」
「のぞむところです。前回引き分けておりますから、今日は親の威厳を見せてやります」
息詰まる攻防が繰り広げられ、30分が経過したころ、お互いの首に剣と突きつけ試合終了となった。
「また、勝てませんでしたわ」
「くそっ、また引き分けか」
おしみない拍手のなか、両者悔しそうに戻ってきた。
「凄まじいもんだな。大陸有数の剣士と互角とは」
「陛下、おそれいります」
「公爵殿、お嬢様とクレア様を騎士団に推挙してもよろしいですかな?」
「団長、これ以上お転婆を刺激せんでくれ。あははははは」
アーサーがアルフレッドに近づき話かけた。
「伯父上、大神殿に使いをだしたのはデロリアン公爵でしたよ」
「やはりな。奴は権力欲の塊だからな。俺とロバートが仲良くなってはこまるんじゃ」
「つぎは、いよいよ裁判ですね。
あの神官長からは、嫌な邪気を感じましたので、ご注意ください」
「アーサーも当日は城に来て近くで見ておいてくれ」
「わかりました」




