9話
王宮の大広間に貴族や子息・子女達がぞくぞくと集まっていた。
招待されたのは伯爵以上の貴族28家と先代王妃の実家アッサム家、各国の大使であった。
「急な晩餐会とは珍しいですな」
「何か発表されるのですかな?」
「例の男爵事件のことかもしれませんぞ」
「それはないでしょう。後日審判の場に召集がかかるはずですから」
「それもそうですな」
「陛下の気まぐれかもしれませんな。あはははは」
アーサーにエスコートされフローリアとクレアが入場してくると、貴族の子息・子女達が挨拶に寄ってきた。
「ごきげんよう、フローリア様」
「フローリア様、今日もお綺麗ですね」
などと口々に挨拶し、フローリアも挨拶を返していた。
クレアも皆に挨拶するものの、軽く会釈だけですまされている。
集まった子息・子女達はチラチラとアーサーを見て気にかかるようで、思い切って一人がフローリアに問いかけた。
「フローリア様、こちらの殿方は?」
「この方は、事情があって詳しくはお話できないんですけど、他国の貴族の方で我が家に武術修行にこられてるアーサー様です」
「アーサーと申します。
公爵家でお世話になっています。
今日は修行の依頼を快く引き受けてくださった国王陛下にお礼を申し上げる為に参上させていただきました」
とアーサーは軽く会釈した。
「公爵家の武術は有名ですから修行も大変でしょう?」
「皆様お優しいので、楽しく修行させていただいております」
とニコリと笑顔で返答した。子女達は頬を染めて撃沈していた。
「僕も公爵家の鍛錬に参加させてもらったことがあるけど、君はついていけてるの?」
「アーサー様は、私はおろか父上も打ち負かす程の腕前ですのよ。
我がレジアス騎士団のほうが指導してもらってるくらいですの」
フローリアの言葉に子息達は悔しそうな顔をした。
次々と寄って来る貴族や子息・子女達に挨拶を繰り返していると、国王の入場を告げる声が会場に響き渡り、全員が会話を止め入場口に目をやった。
入場口の扉が開き、ローズをエスコートしたアルフレッド国王が入場してきた。
会場にどよめきがはしり今夜の主旨を理解した。
「皆のもの、今夜は急な呼び出しにも係わらず集まってもらって感謝する。
もう気付いていると思うが、今夜は俺とシュベルト伯爵家息女ローズの婚約を祝うための夜会だ。
みんな楽しんでいってくれ」
と手をあげ挨拶した。ローズは会場に向かって深々とお辞儀をした。
貴族達は我先にと国王のもとに向かい、お祝いの言葉を贈りはじめた。
国王に挨拶がすんだものは、ロバートと一緒にいたシュベルト伯爵にもお祝いの言葉を贈りに殺到した。
王妃の席を狙っていた子女達は鋭い目でローズをみていたが、フローリア達公爵家所縁の者達はローズを暖かい目で見て挨拶が一段落するのを待っていた。
アーサーはロバートに呼ばれニヤケタ顔をしている叔父のもとに行った。
「「陛下、ご婚約おめでとうございます」」
「おお、ロバートにアーサー。ありがとう」
「アーサー君、このまま済むと思うかい?」
「いえ、大神殿から誰かくるでしょう」
「やっぱりな」
「陛下、大神殿の者が来て『神剣』の話をもちだした時、僕が合図しますから、ローズさんと一緒に短剣を抜いて紋章を皆に見えるよう翳していただけますか?」
「それはかまわんが、なにかあるのか?」
「少し皆を驚かせようかと……」
「なにか悪さを考えたな~ 兄上とそっくりじゃな。あははは」
和やかな雰囲気で話していると、でっぷりと太った貴族が声をかけてきた。
「陛下、ご婚約おめでとうございます」
「うむ」
「レジアス公爵殿、そちらの少年は?」
「陛下のご紹介で預かっている他国の修行者でアーサー殿です。デロリアン公爵殿」
「アーサーと申します」
「俺の知り合いの子息でな武術の才があるので引き受けたんじゃ。フローリアの婿にどうじゃと勧めておるところじゃ」
「さようでございましたか。フローリア嬢には愚息を貰ってもらおうと思っておりましてな、公爵家同士の縁を強めていただこうかと思っておりますんじゃ」
「こればっかりはフローリアの意思もありますし、フローリアの出した最低条件がフローリアより強いことですからなぁ~」
「それは難しい条件ですな。その条件を満たせる若者など居りますまいに……」
「フローリアは俺と互角ですからな。
今のところ俺を打ち負かせたアーサー殿しか条件をみたしておりません」
「レジアス公爵殿を打ち負かす?
その若さで大陸有数の剣士以上とは信じられませんな。
愚息にも修行に励むよう伝えておきますわい」
と忌々しそうに去って行った。
「ロバートさん、今のは?」
「婿の押し売りですよ」
「リアも大変ですね」
まもなくすると会場入り口から神官服を着た男が慌しく入ってきて、真っ直ぐに国王も元にやってきた。
「陛下、此度は重大な発表をなさったようですな」
「ん?今日は大神殿には招待状を出してないはずだが?」
「先ほど多数の方から使いをいただきまして、一大事とまかりこしました」
「それで、祝いを述べにきてくれたのか?わざわざのお越し感謝する」
「いえ、以前からお伝えしている通りご神託で、ローズ様とのご婚姻は災いを招くとお伝えしたはずです」
「誰に対しての災いだ?」
「もちろん、この国の災いでございます」
「どのような災いかな?」
「神の意思に反すると、どのような災いが起こるかわかりませぬ」
「それで、俺の婚姻に口出しをするというのか?」
「いえ、国の行く末を決める大事なれば、ご神託を踏まえていただかねばと」
「それなら問題ないぞ」
「どういうことでしょうか?」
「俺達は神より祝福を得たのでな」
「神の祝福ですか?」
「そうだ、皆の者も聞いてくれ」
国王はローズに手招きして呼び寄せた。
「今日の婚約発表は『神の祝福』を得たからなのだ。神より祝いとして『神剣』を授かった」
「『神剣』でございますか?大神殿からはそのようなものお出ししておりませんぞ」
「神の加護を受けた者は大神殿以外にもおるということだ」
「大神殿を通さぬとは不届きな。それは本物ではないかと……」
「このとおり神の紋章もはいっておる」
チラリとアーサーを見ると頷いたので、ローズとふたり短剣を抜いて目の前に翳した。
目映い光が会場を埋め尽くし、会場内に清浄な風が吹き抜けた。
「「「おお~~~~~」」」
「これで納得いったかな?神官長」
「わかりました。陛下、今度その者にお引き合わせくださいませぬでしょうか?」
「それは約束できんな。この『神剣』を授けてくれた者の意向もあるのでな」
「それから、5日後にバーニングの審判を行うゆえ、皆参加してくれ。さあ、無粋な話はここまでじゃ。みんな楽しんでくれっ」
不機嫌そうな顔をして退出する神官長を見送り、国王達は笑いを堪えていた。
「アーサー、面白いことするじゃないか」
「お気に召しませんでしたか?」
「笑いを堪えるのに必死じゃったぞ、なあローズ」
「スッとしましたわ。アーサー様、ありがとうございました」
会場の隅に移動していたロバートは、蹲って肩を震わせてお腹を押さえ涙を流していた。




