4話
夜明け前、アーサーはいつものように鍛錬に励んでいた。
珍しく長剣を振り、丁寧に型を確かめるように行った。
人の気配を感じると、長剣を空間魔術でしまい、いつもの徒手の型に切り替えた。
「小僧、いつも早いな」
「ダンクルさん、おはようございます」
「おう、おはよう。いつ見ても俺達とは迫力が違うな」
「そんなことないですよ。みなさんも強くおなりですよ」
「そうかな?自分では感じないぞ?」
「みんなが強くなってるからじゃないですか?」
「確かに、身体のキレは良くなってるような気はするんだがな」
ぞろぞろと他の人々も集まって、それぞれ柔軟体操をして身体をほぐしていた。
「集合っ!」
王都の隊長が声をかけ、全員が整列した。
「おはようっ 昨日、ロレンツォから交代要員が到着した。
交代で領地に戻る隊は昼から引継ぎをして、帰省準備だ。
明日にはロレンツォに向けて出発だ」
帰省組はニコニコと笑って帰省を喜んでいた。
「それでは、鍛錬はじめっ」
隊長の声を聞いて、全員いつもの鍛錬を始めた。
ロレンツォから来たメンバーは、二人一組になり徹底した柔軟体操をはじめ、姫様とクレアはシロを相手に鬼ごっこをはじめた。
「なあ、あれなにやってんだ?」
「剣も振らずに体操だけ?」
「今度は、身体を押し合ってる?」
「姫様なんて子犬とじゃれてるぞ?」
「こらっお前ら人のこと見てないで自分の鍛錬しないかっ」
隊長の怒鳴り声に慌てて鍛錬を再開した。
朝食を食べながら談笑していると
「ロレンツォでは随分楽な鍛錬しかしてないようだな」
「なにおっ」
「あんな鍛錬じゃ、たかが知れてるってことだ」
「いい加減にしろよ」
「弱い奴とは仕事で組みたくないんだよ。命にかかわるからな」
「その言葉、そのまま返してやるぜ」
「貴様ら、やめんかっ!」
隊長の一言で静まりかえった。
「そこまで言うなら、この後試合をしてもらう。
騎士団、衛士隊合わせての勝ち抜き戦だ。
それぞれ騎士団から10名、衛士隊から10名選抜しろ、帰省組は審判だっ」
「「「おお!」」」
「隊長、勝ったらご褒美でるんですか?」
「酒樽をくれてやる」
食後少しの休憩をして、ロレンツォ組と王都勤務組が左右に分かれて座り、帰省組は審判の位置についた。
レジアス公爵家の騎士団は5隊からなり、2隊は王都、3隊は領地での勤務となる。
1隊は20名で構成され、下部組織として衛士隊50名が指揮下に入る。
その中から騎士10名、衛士10名が選抜されて今回の試合が実施された。
「勝負は一本勝負、負けた奴は交代、最後まで残った組の勝ちとする。一番手前へ」
ロレンツォ組は新人のダンクルが出て巨大な木剣を構えた。
「おーおー面白そうなことやてるじゃないか。俺も見物させてもらうぞ!」
とロバートがアーサーの横に座った。
「「「公爵様!!おはようございます!!」」」
皆の挨拶に手をあげて答え
「勝った組には、俺からも酒を振舞ってやるから気合いれていけよ!」
「「「はいっ」」」
「はじめっ!!」
ダンクルは相手の突きをアッサリかわし首筋に剣を止めた。
「それまで!!」
その後、次々と相手を倒し5人抜きをしたところで
「ダンクル、俺達の出番がないじゃないか」
と仲間から声がかかったところで審判にむかい
「選手交代します」
と告げ、次の衛士に交代した。
次の衛士も5人抜きで交代し、3人目の衛士は騎士を相手に2人抜き、終わってみればロレンツォ組は13人も残っていた。
「俺達ぁ出番なかったなぁ~」
などとブツブツ言うロレンツォ組の面々に対し
「それなら私とクレアがお相手するわっ」
とフローリアが言い放ち、クレアが前に出てきた。
ロバートは「お転婆めっ」などと言いながらニヤニヤ笑ってた。
結局、クレアが6人抜き、フローリアが残り全員を抜いて勝負は終わった。
「おいおい、お前ら大丈夫か?女の子二人にやられちまうなんて」
「申し訳ございません。公爵様、姫様とクレア嬢は強すぎです」
「あはははは そうだろうな。フローは先日俺と引き分けたからな」
「ええっ!?公爵様と引き分け?」
「アーサー君にいたっては、勝負にもならんかった」
「……」
王都にいた面々は驚き呆然としていた。
「俺達の鍛錬方法はアーサー殿に教えられたもんなんだ。効果は今見ただろう?」
「俺達にも教えてくれっ」
「明日から一緒にやろうっ」
単純な武術馬鹿は意気投合した。
「ところで、酒樽はどうなるんだ?」
「心配するな。今夜の歓送迎会に酒樽はとどけてやる」
「「「公爵様、ありがとうございます」」」
「これからも鍛錬にはげめよ」
「「「がんばります」」」
「ところでアーサー君、いつまでフローに正体を隠しておくんだい?」
「もういいかなとは思うんですが、タイミングが難しくって」
「王都では、お母上のお顔を知ってる者が多いから、アーサー君の顔をみれば気付かれるのも時間の問題だ。早めに話してやってくれないか?」
「はい、わかりました。他人から知らされるよりは、僕自身で伝えたいですからね」
「よろしくたのむよ」