1話
翌朝、城門の前に騎士団と衛士隊が正装で並んでいた。
「ランバートさん、大変お世話になりました」
「何を言う。世話になったのはこちらのほうじゃ。これからもフローのこと頼みますぞ」
「お爺様、お元気で」
とランバートに抱きつき
「おお、偶には顔を見せに来るんじゃぞ。城の者皆待っておるからの」
「はい、お爺様も王都の屋敷に来てくださいよ」
「わかっておる。すぐに会える」
クレアも城のメイドや執事達に挨拶し、馬車に乗り込んだ。
衛士隊の馬車が、フローリア達の馬車を挟み騎士団は愛馬に跨り馬車を取り囲むよう隊列をつくり出発した。
馬車の中でシロは居心地悪そうにウロウロしていたが、フローリアが抱き上げて膝の上に置き撫ではじめると気持ち良さそうに大人しくなった。
<アーサー、自分で歩かず移動するのは変なもんだな>
<そうだね、僕も初めてだから落ち着かないよ>
と念話で会話しつつ外を眺めていた。
「アーサー君、どうしたの?」
「馬車ってはじめてだから落ち着かなくって……」
「すぐ慣れるわ。アーサー君にも苦手なことがあったのね」
とコロコロと笑った。
一行は昼前に街道沿いにある休憩所と呼ばれる広場で昼休憩をとった。
騎士団や衛士隊の面々は食事の準備や馬の世話とテキパキと動き回っていた。
アーサーとフローリア、クレアは手にバケツを持ち、小川で水汲みをしていた。
<なにか妙な気配がするぞ>
<うん、僕も気付いてる>
木の陰から2人の男が突然切りかかってきた。
避けようとした方向に巨大な火の玉が飛んできたが、シロの障壁ではじきとばされた。
「アーサー君」
「二人はさがってて」
なおも切りかかってくる二人の鳩尾に拳を放ったが、まるで鉄を殴ったような衝撃があった。
<アーサー、この者達 おかしいぞっ!!>
「ノーム、リア達を守れ シルフ、辺りに結界をっ」
アーサーの声とともに二人の女性が現れた。
「わははははは 神獣や精霊の加護など役にたたんわっ」
「おまえ何者だ!!」
「俺様はバーニング男爵の次男キャメロン・エレク・バーニングじゃないか」
「違う 操ってるお前だ」
「気付いてたのか?わははははは」
3人の男達はパタパタと倒れ、身体から黒い靄がたちのぼりひとつになった。
「お前達が次々と加護された者をころしたのか」
「そうだ。この世に神などという無力なものはいらんからな。世界を混沌に戻す邪魔をするものは全部滅ぼしてやる」
「僕が守ってみせる」
「無駄だ。俺達には実体がないから、どんな攻撃もきかんぞっ」
黒い靄から炎の塊が飛び出し、シロを掠めて飛んでいった。
<アーサー、全力でいくぞっ>
ムクムクとシロは巨大化し、本来の姿に戻り黄金の目で黒い靄を見据えた。
シロは黒い靄に飛び掛り爪や牙で切り裂いていくが、すぐに元通りになってしまう。
次も同じように攻撃していき、切られた部分が戻ろうとした瞬間『ギヤァァァ』と悲鳴をあげて分断されたままになった。
<アーサー、神気なら効果があるぞ>
「ウンディーネ、浄化の霧で奴を包んでくれ」
小川から霧が立ちこめ結界の中を満たし、なにも見えなくなった。
霧の中から一瞬目映い光が輝き神々しい空気が結界内を包んだ。
「みんな、もう良いよ。」
結界が解かれ霧が晴れたあとには、馬鹿息子と護衛の二人が倒れていただけだった。
「アーサー君、どうなったの?」
「ああ、なんとか倒せたみたい」
巨大なシロに驚いていると、のっそりとフローリアとクレアに近づき顔をひと舐めして子狼にもどった。
騒ぎを聞きつけて集まってきた騎士達に倒れてる男達を引き渡し馬車の近くまで戻った。
「アーサー君、いろいろ説明してほしいんだけど」
「あとで、馬車の中で話すよ」
簡単な昼食をとり、一行は出発した。
捕縛された男達は縄をうたれ、口には猿轡をかまされて衛士隊の馬車に押し込まれた。
「さて、アーサー君説明してもらいましょうか」
「大陸中で精霊や神の加護を受けた人々が殺されてるのは知ってる?」
「うん、お爺様から聞いたわ。アーサー君のご両親もそうだったことも聞いたわ」
「どうやら、あの黒い靄が犯人らしいんだ。
人じゃないから犯人ってのも可笑しいけどね。
あの黒い靄が人間を操って殺してたみたいで、犯行の後は自殺させて痕跡を消す」
「あの黒い靄はなんなの?」
「わからないけど、魔力の塊が意思を持ってるような感じだったね。
世界を混沌に戻すとか言ってたよね」
「どうやって倒したの?霧でなんにも見えなかったわ」
「ウンディーネの浄化の霧にシロが『神気』を流したんだ」
「ウンディーネ?」
「姫様、水の精霊王のことでございます。私の精霊が震えておりました」
「じゃあ、ほかの女の人達は?」
「シルフとノームだね。風の精霊王と地の精霊王だよ」
「ええっ!?精霊王って……」
呼ばれなかった火の精霊王はイジケテいた。
「シロのあの姿は?」
「あれがシロの本来の姿さ。あのままじゃ人間の町を歩けないだろ?」
「確かに、あれで歩かれたらパニックになるわね。それにしても普通の魔狼にしては大きすぎるわ」
「姫様、白い毛並みに金の瞳は『神の使い』といわれています」
「さすがクレアさん、よく知ってますね。シロの母親は『神狼エルザ』なんだ」
「じゃあ『魔狼の森』のボスの子っていうのは嘘なの?」
「それも本当さ。エルザは普段、魔狼の姿で『魔狼の森』のボスをやってるから」
「なんだか、アーサー君の周りって信じられない世界ね」
「アーサー様は何者なんですか?『神狼』や『精霊王』を従えた人間って聞いたことないです」
「僕の普通の人間だよ。王都で僕の叔父さんに会えるらしいから聞いてみればいいよ」




