14話
夜明け前から日課の鍛錬を終えて汗を拭っていたアーサーの耳に変な声が聞こえてきた。
ぐええぇぇぇ~~~
ぎあああああぁぁ
いたたたた
集合前に、いつもなら軽く身体をほぐしている騎士団や衛士隊の面々が本格的な柔軟体操をしていた。
「小僧!!うらむぞっ!俺達まで……ぐええぇぇぇ~~~~」
「アーサー君 おはよ……いたたた」
騎士団長とランバートは、その様子をみながら爆笑していた。
挨拶のあと、それぞれ鍛錬に散っていった。
「今日は、最初からシロとの鬼ごっこをやってください」
「今日こそ捕まえてみせるわ」
「わたくしもがんばります」
1時間後、大地に大の字に倒れてるふたりの少女の姿があった。
朝食のとき、散々からかわれた二人は気合をいれて午前の修行にむかった。
「まず、ふたり向かい合って、右足を前にだし右手の甲をお互いに合わせて立ってくれる?」
アーサーは、ふたりの立ち位置を調整し
「身体の力を抜いて、お互いに押したり引いたりしてみて」
言われた通り、ゆっくりと簡単な押し合いを繰り返した。
「相手の力の向きと重心を感じとれる?」
「なんとなくわかるわ」
「わたくしも」
「その状態から、お互いに攻撃しながら力の向きと重心を感じ取れるようにしてね。攻撃は力を入れて受け止めるんじゃなく、力の方向を変えて受け流す感じで……」
しばらく様子をみて
「目で見て動くんじゃなくって、身体全体で相手を感じるようにね」
「こ・これ…むずかしいわね……」
「なんですの?…これ…あれ!?」
「あの~アーサー殿」
「なんですか?」
「先ほど姫様達がやってたシロとの鍛錬を騎士団にやらせてみてはもらえんでしょうか?」
「いいですよ。シロっ相手してあげて!」
昼食前には騎士団全員が荒い息を吐きながら座り込んでいた。
昼食を終え、アーサーの勉強時間となった。
「アーサー君 昨日の貴族については大丈夫?」
「はい」
「じゃあ今日は大神殿と精霊神殿についてお話します」
「よろしくお願いします」
「まず、大神殿は『知の神』と『生命の女神』を祀っていて、精霊神殿は『神獣』や『精霊』等の神の使いを祀っているのは知ってる?」
「はい」
「大神殿は各国の首都にあって、主に貴族や王族などが支援してるの。それに対して精霊神殿は大陸中のアチコチにあって、一般の民が支援してるの」
「どうして貴族や王族は大神殿を支援してるの?」
「多くの貴族や王族は、支配者という意識から『神』の権威の象徴としてみてるの。精霊は『神』に使役されるもの、つまり使用人としてみてるのね」
「なんだか精霊が聞いたら怒りそうな話ですね」
「きっと怒るでしょうね。それに対して一般民は直接精霊の恩恵を目にすることが多いから精霊を大事にするの」
「たとえば?」
「鍛冶職人は地の精霊や火の精霊でしょ、農家は地の精霊や水の精霊、水夫は水の精霊や風の精霊っていうぐあいね」
「リアからは精霊を見下した感じは見れないよね」
「私はクレアにいつも治癒してもらったりしてるから、精霊の力を敬ってるの。それに、お爺様やお父様も『賢王』様や王妃様から教えられてるから精霊神殿も支援してるわ」
「そっか、それでこの地には力ある精霊が多いんだね」
「精霊の話は後でゆっくり教えてね。それから、大神殿には『神の巫女』と呼ばれる神様とお話できる人がいるらしいわ」
「それは何人もいるの?」
「大きな国の神殿にひとりづつだから、今は4人かしらね。それから大神殿は貴族や王族に神の洗礼をしてくれるわ」
「洗礼?」
「この人は神を信じますから、加護してあげてねって儀式。特にこの国では大神殿の総本山があって『神聖王国』の名があるから大神殿の権威は強いわね」
「大神殿の神官達は『神の加護』をうけてるの?」
「そういう話よ。誰も確かめられないけどね」
「ふーん」
アーサーは難しい顔をして考え込んだ。
「どうしたの?」
「僕が精霊達から聞いた話と食い違うから変だなぁ~って」
「なにが違うの?」
「まず『神の巫女』だけど、王妃様が最後の巫女だったって聞いたよ」
「えっ!?どういうこと?」
「つまり今は神様と話ができる人間はいないってこと」
「本当なの?」
「精霊が嘘吐くと思う? それから、さっきの話だと神と話ができるのが巫女で、それ以外に加護を受けた人間がいるってことだよね」
「そうなるわね」
「加護を受けた人は神様と話ができるはずだから、神と話ができない人は偽者ってことだよ」
「へえ~ ちょっと待ってクレア呼んでくるから……」
パタパタと部屋を出てクレアを連れて帰ってきた後、今の話をクレアに聞かせた。
「わたくしも精霊と契約してますけど、話せません。
これと同じ状態ではないのですか?」
「それはクレアの契約してるのが下位精霊で力が足りないからだよ。
下位精霊は自分で具現化できないし、自我も弱いからね。
僕には見えるけど、会話はできないよ。
こちらの話は分かってくれてるみたいだね。
それに神の力は比べ物にならないほど強いよ。
加護だけして話できないなんてありえないよ」
「じゃあ大神殿の神官達は嘘吐いてるってこと?」
「そうなるね。加護を受けた人間の身体には、神の紋章があるというし」
「神の紋章?」
「痣みたいなものらしいよ」
「アーサー君、その話が本当なら、大変なことよ」
「姫様、神の名を使って不正をしている可能性もありますわね」
「大陸中を騙す、巨大詐欺組織じゃない」
「神様にとってもいい迷惑だね」
「神罰がくだることを祈っておきましょう」
脱線しまくった午後の授業は終了した。




