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第四話 観測者の塔

白い空間。


拍手だけが響いていた。


パチ……パチ……。


音は確かに聞こえる。


なのに、その人物の姿だけは認識できない。


目を凝らせば霞み、

視線を外せば存在そのものを忘れそうになる。


「……誰だ。」


ユウが問いかける。


その人物は微笑んだように見えた。


「私は観測者。」


「そして、お前もいずれそう呼ばれる。」


「ここは世界の外側。」


その言葉と同時に、白い空間が崩れ始める。


無数の光の糸が集まり、一つの巨大な塔を形作る。


天まで届く純白の塔。


塔の壁には、数え切れないほどの名前が刻まれていた。


王。


英雄。


魔王。


賢者。


歴史に名を残した者たち。


ユウは、その名前の一つに見覚えがあった。


「……初代国王?」


「そう。」


観測者は静かに言う。


「この世界の歴史は、この塔で観測され続けている。」


塔の最上階。


そこには巨大な水晶球が浮かんでいた。


だが近づくにつれ、それが水晶ではないと気づく。


それは――


「眼球……。」


巨大な眼だった。


瞳の中には世界そのものが映っている。


街。


森。


海。


人々。


戦争。


笑顔。


涙。


すべてが映し出されている。


「これが『世界眼ワールド・アイ』。」


「世界は、この眼によって安定している。」


ユウは息をのむ。


「つまり……。」


「誰も見ていない場所など、本当は存在しない。」


観測者は続ける。


「人々が見ていなくても、この眼だけは世界を観測している。」


「だから世界は崩れない。」


ユウは違和感を覚えた。


「……じゃあ未観測領域は?」


観測者の表情が初めて曇る。


「壊れている。」


空気が凍りつく。


「壊れている?」


「世界眼にも、見えない場所がある。」


「そこだけが観測できない。」


「だから世界は情報を失い、混沌へ戻る。」


ユウの脳裏に、酒場を襲った怪物が浮かぶ。


「あれは……。」


「未観測領域から漏れ出した存在。」


「確率だけで生きる生命体。」


その瞬間。


塔全体が激しく揺れた。


ゴゴゴゴゴ……


世界眼がゆっくりと閉じ始める。


「なっ……!」


観測者の声が震える。


「ありえない……!」


世界眼が閉じるなど、歴史上一度もなかった。


完全に閉じれば、世界中が未観測状態へ落ちる。


つまり――


現実そのものが消える。


突然、塔の窓から黒い霧が流れ込んできた。


その霧は人の形を取り始める。


「久しぶりだな。」


低い声。


そこに立っていたのは、黒い鎧をまとった青年だった。


左目は真っ黒。


右目だけが黄金色に輝いている。


「誰だ……。」


ユウが構える。


観測者は青ざめていた。


「嘘だ……。」


「まさか……。」


「第二観測者……。」


黒い鎧の青年は笑う。


「そう警戒するな。」


「俺も昔は、お前と同じ転生者だった。」


ユウの瞳が揺れる。


「転生者……?」


「百五十年前にな。」


青年は肩をすくめる。


「俺も最初は、この世界を救おうと思った。」


「だが知った。」


「世界は救えない。」


「だから壊すことにした。」


その言葉と同時に、青年は世界眼へ手を伸ばす。


「やめろ!」


ユウが叫ぶ。


しかし間に合わない。


青年の指先が眼球に触れた瞬間――


ピシッ。


世界眼に一本の亀裂が入った。


その瞬間、世界中の空から無数のノイズが降り始める。


街では建物が崩れ、


森では木々が砂粒へと分解され、


海では波が静止した。


そして、人々の体が少しずつ透け始める。


青年は静かに笑う。


「さあ、始めよう。」


「最後の観測戦争を。」


ユウは確信する。


この男は敵だ。


だが同時に、自分と同じ「世界の真実」を知った者でもある。


世界を救うのか。


それとも、世界を書き換えるのか。


その答えを求める戦いが、今、幕を開けようとしていた。

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