逃げたい
強そうな人間たちを見たサブは
「あの人間たちは無理だ。みんなで逃げよう」
「ですが、逃げるってどこへ?」
「そ、それは……」
俺とミルンさんとメタンさんは意見をまとめようと話し合いをしている。
俺がさっき見た人間たちに、スライムが百匹まとめてかかっても、何にもならないだろう。
「ど、どうしよう……」
俺は正直、ビビって「逃げる事」ばかり考えてしまう。
そんな俺からミルンさんは離れていった。
俺、やっぱり情けない愚かなスライムだ。
少し離れた場所でじっとしているメタンさんの前にミルンさんは移動した。
「メタン。命を預かります」
「ああ、姐さん。覚悟は出来てる」
「サブ、私たちが時間を稼ぎます。皆を連れて逃げなさい」
「ああ、サブよ。みんなの事は頼んだぜ。すぐに追いつくから遠くへ逃げろや」
どうしたらいいんだ……
みんなを守りたいけど、あの人間たちに「ブービートラップ」は通じないだろう。
俺は……
俺は近くの木へ体当たりをした。
一回、二回、三回。
体の一部が「ぷるん」と落ちた。
「サブ!何をしているのです?ベホマ」
見かねたミルンさんが回復してくれた。
「情けない所を見せてすみません。俺、俺も戦います!みんなを集めて作戦を立てます」
そうして俺は仲間を集めた。
湿地に集まったスライムたち。
スライムに混ざってドラキーやおおきづち、いっかくうさぎもいる。
さて、作戦と言ってもどうするか。
「メタンさん、あの人間たちをなんとかバラバラにすることはできないですかね?連携を取れないようにしたいんだけど」
「どうだろうな…サブなら何か考えがあるんじゃねえか?それに従うぜ」
「うーん…作戦といえるようなものじゃないけど、一人ずつなら、罠に嵌めたり戦ったりはできるかもしれないけど…無傷では…」
ミルンさんが、優しく俺に触れた。
「サブ、犠牲は仕方ありません。なにもしなければ全滅してしまう相手なのでしょう?責は私が負います。サブが指示を出してください」
うう…無いはずの胃が痛い。
体の表面を水滴が垂れた。
不意に誰かに呼ばれたような気がして見上げた。
ミルンさんも、メタンさんも、同じように見上げている。
木々の枝葉に阻まれ、空は見えない。
一つの木の枝に赤い実がなっている。
赤い実…が割れて、目玉のような白い中身が…違う。
あれは眼球だ。
「え?あ、あくまのめだま!?この森に、そんなモンスターがいたのか!」
俺がそう言うと、ミルンさんは俺を庇うように動いた。
「何の用ですか?あなたたちへの協力は何度も断っているでしょう」
「…くっく」
あくまのめだまは、小さな声で笑っているようだ。
どうやら、あくまのめだまは「味方」ではないらしい。
以前ミルンさんが言っていた「魔王軍」の手先かもしれない。
俺も一応、身構えていたが、あくまのめだまは口を開いた。
「力を貸してやろうか?強者が攻めて来たのだろう?」
「それで、てめえらの子分になって『人間と戦って死ね』って言うんだろ?」
メタンさんの姿が一瞬揺らいだ。
「それはお前達の働き次第だ。それにしても、お前…」
あくまのめだまは、じっと俺を見ている。
俺は見つめられるだけで、体が震え、冷や汗のような水滴が全身からにじみ出てきた。
そんな俺とあくまのめだまの間に、ミルンさんが割って入る。
「あなたたちに協力はしません。お引き取りください」
「……くっくっく。まあ良い。おまえたちがどうするのか見物するとしよう」
そう言い残して、あくまのめだまは木の中へ潜るように消えた。
「ミルンさん。あれってやっぱりミルンさんが前に言っていた『魔王軍』なんですか?」
「ええ、そうです。あの者達は私たちスライムを『捨て駒』程度にしか見ていません。私たちは、『この森で静かに暮らしたい』とは伝えているのですが…」
「人間だけでも厄介なのに、あいつらまで出てくるとは…」
ミルンさんもメタンさんも俯き気味に言った。
あの『魔王軍』と『人間』をぶつけられないだろうか?
さっき「力を貸す」とか言っていたようだし、うまくいけば両方にダメージを与えられるかもしれない。
「さっきの、目玉がどこにいるかわかりますか?」
俺が二人に問うと、二人とも首を振った。
やっぱり俺たち『スライム』にわかるのは、『スライム』だけのようだ。
「とにかく、時間はあまりありません。皆を集めて行動を開始しましょう」
こうして俺たちは戦いの準備を開始した。
とりあえずの作戦は、俺とミルンさんがスライムたちをそれぞれ引き連れ、別行動。別方向から接近し、別方向に「逃げながら罠に誘導」することになった。
メタンさんは単独で、スピードを活かしてヒットアンドアウェーで、一人でも「釣る」ように動いてもらう。
「作戦ともいえないような作戦だけど、とにかくみんな
『いのちをだいじに』
生き延びることを最優先にお願いします」
こうして、人間達を迎え撃つことになった。
戦力は、どうしようもない。
だけど、地の利と数では勝っている。
一匹でも多くの仲間たちが助かるようにしなきゃ。
少し離れた場所にいたイムオが近付いてきた。
「ボク、イムオ、なる。サブのちから」
「ああ、イムオ。一緒にがんばろうな。けど、『逃げろ』って言ったら逃げるんだぞ」
こうしてミルンさんとメタンさんと別れて行動を開始した。




