楽しい避難の練習
罠を作り、訓練して備えています。
落とし穴作りは順調に進んでいた。
木の蔓を編んで、木と木の間に張った「転ばせる罠」なんかもちょっと作った。
転んだ人間の顔に張り付けば、倒せることは他のスライムたちも覚えたようだ。
消化してしまった人間たちの、残った装備や衣服の上に乗って張り付く「サブのまね」ごっこが流行っていた。
「かおにのるのは、ボクだ!」
とか、スライム同士の謎のケンカも勃発しています。
喜んでいいのか、恥ずかしいのかわからない、複雑な気持ちで眺めていたが、「やばい時は散り散りに逃げる」練習もしていた。
ホイミスライムやドラキー、ゴーストの飛行部隊には、スライムたちを抱えて上空に逃げる訓練もしている。
森の一角で、人間の残した装備品に群れたスライムたちは、一斉に四方八方に逃げる。
ところどころで「きゃっきゃ」言っている楽しそうな声も聞こえる。
「もうちょっと真剣にやってほしいけど、これだけ素早く動けたら十分かなー」
そう、これは練習だ。
なんか意味が違うかもしれないけど、「避難訓練」みたいなものだ。
キングスライムになったあの日から、少しずつだけど、みんな俺の意志通りの行動をしてくれるようになった。
言葉に出さなくても、「あっちにいく」とか、「こっちにあつまれ」みたいな、単純なことは出来るようになっていた。
「ぼく、イムオ。サブ、サブ!つぎ、なにしてあそぶ?」
イムオは楽しそうに俺に体当たりをしてくる。
「イムオ。これは遊んでいるんじゃなくてだな…まあいいか。次はこの前できなかった『二手に分かれる』練習をしよう」
「きゃっきゃ。つぎもサブにかつ」
うーん…勝ち負けなんて、どこにもないんだけど…今回もダメかも。
だけど、この練習は無駄にならないはずだ。
合計百匹ほどいるスライムを、二つのチームに分けて、それぞれ別々の方向に移動した。
十メートルも進まずに、別行動のはずのスライムたちの、半分以上は俺の後をついてきている。
移動せずにその場で寝ているスライムもいる。
ぐぬぬ……
今度、ミルンさんかメタンさんに別チームの先頭になってもらうか。
そんな事を考えながら練習を続けていると、メタルスライムが現れた。
「おい、サブ。今回はやべえ。説明するより見た方がはええ、一緒に来い」
俺はメタンさんに担がれた。
木々の間を風のように移動した。
あっという間に目的地に着いたようだ。
メタンさんに連れてこられたのは、だいぶ前に倒した人間の「僧侶」と「魔法使い」の所だった。
「これ以上近付くのは危険だな。ちょっと遠いが見えるか?あの人間どもをよ」
かなり遠いし、森の中の木々が多くて見通しも悪い。
だけど、見えた。
人間は四人。
全身を金属鎧で包んだ戦士。
軽装だが、爪武器を腰から下げた武道家。
鎖帷子を着て、金属メイスを持った、僧侶。
ヒラヒラした服、先端に青い水晶のついた杖を持つ魔法使い。
「サブよぉ、あいつら相手になんとかできるか?」
体の表面を水滴が伝う。
なんで、あんなやつらが来るんだ?
「あんな魔王と戦いにいくような人間は無理だ……」
四人の人間は、前に倒した人間たちの装備や衣服を調べているのか?
立ったりしゃがんだり、何かを拾ったりしている。
そのうちの一人、武道家がこちらを見て、指さした。
「え?見つかった?」
「やべえ、逃げるぞ」
俺はメタンさんに担がれて、その場を立ち去った。




