訓練
少し前のサブ視点に戻ります。
「おめえ、ほんとにやりやがったな!」
メタンの高速体当たり。
8のダメージ。
俺の体は砕け散り、小さくなった。
「ああ、サブ!大丈夫ですか?ベホマ」
ミルンさんの回復魔法で一命を取り留めた。
「ああ、すまねえ。テンション上がっちまって。しかし、本当に無傷の勝利とはな」
いや、アンタにやられて消滅寸前になったスライムが目の前にいるよ!
俺たちは倒した人間を吸収しながら、次の作戦を考えていた。
周りには百に迫るほどのスライム軍団。
ドラキーやゴーストが少々。
それとミルンさんが連れてきてくれた「おおきづち」「いたずらもぐら」「いっかくうさぎ」たちがいた。
彼らの数は各種族二~三匹程度。
僅かにスライムよりも知能が高いらしく、最近はしっかり指示を聞いてくれる。
スライムたちは、俺が何を言っても聞いてくれない。
基本自由だ。
しかし、あの「キングスライム」になった時から、繋がりを感じる。
俺が「隠れろ」と思うと、みんな隠れる。
「こうげき」と思うと、一斉に攻撃してくれる。
複雑な組織だった行動は無理かもしれない。
しかし、「多くの仲間たち」がいる安心感が強い。
そして、みんな「俺の一部」のような奇妙な感覚があった。
「とりあえず、メタンさんはいつも通りに偵察をして、人間が来たら教えてください」
「ああ、おめえに一番に伝える。任せとけ、兄弟」
高速タックルが来ると予測した俺は、ミルンさんの影に隠れた。
メタンの攻撃。
ミス。
ダメージを受けなかった。
さっき倒した人間たちは、メタンさんの報告で「弱そうな人間が森に入ってきた」と言っていた。
装備を見ても、それほど強そうに思えなかった。
けど、俺一人じゃ絶対に勝てない。
それだけは確かだ。
だから、油断はしたらダメだ。
準備はしっかりとしよう。
「ミルンさんは助っ人の『穴掘り名人たち』に、また落とし穴の作成をお願いします。例の獣道と、目印をつけた所を進めていってください」
俺はなんとなく「人間なら、ここを通るんじゃないか」と思った場所に落とし穴を作成した。
その周辺に誘い込めれば、「おおきづち」の力で大きな木を倒して、落とし穴に蓋をしようと考えていた。
今回は上手い事「落ちなかった人間」を倒木に巻き込めたが、あれはたまたまだ。
とにかく数を増やしていこう。
それと、やばい相手が来た場合の足止めを考えていた。
俺の目的は、「人間を倒す」ことじゃない。
「犠牲無く生き残る」事が一番重要だ。
そして、いい場所を見つけた。
以前、人間の戦士と戦った岩場の先。
森を抜けた辺りに「渓谷」のような場所を見つけたのだ。
断崖絶壁に挟まれた細い通路。
ここを通り抜けてから、ふさぐことが出来れば、かなりの時間が稼げるだろう。
みんなが散り散りに逃げて、隠れる事ができれば、生き残ることができれば、俺たちの『勝ち』だ。
細い通路をふさぐためには、崖の上から落石とかが一番手っ取り早い。
ただ、非力なスライムには大きな岩を落とせないだろう。
そもそも、崖を登るのが大変だ。
そう思っていた時期が俺にもありました。
ドラキー、ゴースト、ホイミスライムは空を飛べるのです!
決して速いとは言えないが、断崖絶壁をホイミスライムの触手に包まれて、登ったり降りたりは、遊園地のアトラクションみたいで楽しかった。
ああ、楽しみに来たんじゃない。
断崖の上は比較的平坦な岩場だ。
そして、大きな岩がゴロゴロと転がっている。
いや、比喩とかじゃなくて、岩が勝手にゴロゴロ転がる。
あれって、「ばくだんいわ」じゃないのか?
自爆するのか?
しばらく空中で様子を見ていた。
向こうも俺の存在に気が付いているはずだが、あまり関心はないようで、同じ場所をゴロゴロと転がっている。
ちょっと怖いけど、俺はホイミスライムから降ろしてもらい、ばくだんいわに近付いた。
突然、爆発はしないはずだ…しないでください。
心の中で祈りながら、俺は勇気を出して話しかけた。
「俺はスライムのサブ。あんたはばくだんいわか?」
……
ばくだんいわはゴロゴロしている。
…俺には無関心のようだ。
攻撃してこないし、無害だろう。
スライム数体を飛行部隊に運んでもらい、岩を崖の方に転がす。
重い…
小さめの岩を選んだけど、非力なスライムじゃ運んだり崖から落としたりは無理かもしれない。
しばらく十スライムがかりで押したが、動いたのは一ミリくらいだ。
ああ、これ無理っぽいから力持ちのおおきづちに頼むか。
そんな準備をしていると、「また人間が来た」との報告をメタンさんから受けた。
二人組だったけど、メタンさんの協力もあり、今度はあっさりと二人とも落とし穴に落ちた。
練習通りに、近くの木を数本切り倒して蓋をしたが、穴の中で「わーわー」わめいている。
穴の中には「毒沼地」の水が入っている。
バブルスライムの体内に「毒沼地の水」を入れて運んでもらったのだ。
ちょっとは弱っているっぽいが、こいつらしぶといな。
「バブルスライム、もうちょっと毒沼の水を入れてくれるか?」
言葉に出して言っても、あまり伝わらないから、俺が一緒に落とし穴と毒沼地を行ったり来たりした。
「面倒だなー」とは思うけど、みんなを守るためだ。
数回、毒沼地と落とし穴を往復して水を足していたら、人間達は静かになった。
なぜか、ついてくるバブルスライムの数も増えていた。




